Simply Dead

映画の感想文。

『雪崩』(1970)

『雪崩』
原題:Figures in a Landscape(1970)

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 ジョゼフ・ロージー監督の日本未公開作品。脱走中の二人の男が、ヘリコプターや軍隊の執拗な追撃をかわしながら、海辺を、高地を、平原を、雪山を、ひたすら逃げて逃げて逃げまくるサスペンスアクション巨編。主演は『ジョーズ』(1975)の名優ロバート・ショウと、『時計じかけのオレンジ』(1971)に出演する直前のマルコム・マクダウェル。なんとショウは本作の脚本も手がけている(元々は作家としてのキャリアもあったらしい)。原作はブッカー賞候補にもなったバリー・イングランドの同名小説で、邦訳タイトルは『脱走の谷』。当初はピーター・メダックが監督に予定されていたが、なんらかの事情でロージーに交代したそうだ。

 迫真のヘリコプタースタントあり、銃撃戦あり、男二人が繰り広げる緊迫のドラマありの、タイトな傑作アクション……になってもおかしくないはずだが、そこはロージー作品。本作では、物語の背景がほとんど説明されない。男たちが何故捕えられていたか、どこへ逃げようとしているのか、執拗に追われるのは何故か、そもそもどこの国の話なのか。映画に絶対必要ではないが、かなり大切な要素をぶっこ抜いてしまった、壮大な実験作とも言える。それでいて、ある種分かりやすい不条理劇風の演出でもなく、アクションもドラマも見応えたっぷりに描いているので、余計に謎めいた感触を残す(後半いきなり闇夜の銃撃戦が展開する辺りは、もう冗談か本気か分からないが)。

 映画のタイトルロールである二人の男は、微妙な関係を保ち続ける。時に衝突し、助け合いながら、逃避行の末に互いをどうするかも分からない。刹那の協力関係を築かざるを得ない者同士の間には、友情も信頼も簡単には芽生えない。その緊張感に拍車をかけるのが、ロバート・ショウ演じる中年男マックの屈折したキャラクターだ。

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 この映画のロバート・ショウは本当に素晴らしい。まさに畢生の名演技だ。彼が演じた役柄は、ショウ本人の難しい性格をそのまま投影したものだったとか。わがままで気難しく、一方で頼りがいがあり、時に優しく若者をいたわる。さっきまで親切だったかと思えば、いきなり相手を小馬鹿にしたり、怒りを爆発させたり。元妻の思い出を訥々と語り、内面には破滅的な感情も秘めている。そんなとらえどころのなさは、カメラが回っていない時にも発揮され、若き共演者のマクダウェルを困惑させたという。

 ロージーは主人公たちをいたぶるヘリコプターを、怪物じみた存在感で描いている。ギリギリまで彼らに近付き、高速回転するローターで非情に追い立てる姿は、ほとんど鉄のケダモノだ。その迫力は、本作の翌年に作られた『激突!』(1971)のタンクローリーの描き方と酷似している。また、雄大な山岳地帯を流麗に滑空する主観の飛行映像からは、ヘリの駆動音を取り払い、音楽だけを付けて不気味な効果を与えている。キューブリックが『シャイニング』(1980)の冒頭でこだわった冷徹な空撮とも違い、視線が獰猛なのだ。

 シネマスコープの見事な撮影を担当したのは、名手アンリ・アルカンと、新人時代のピーター・スシツキー(父親は『狙撃者』の撮影監督ウォルフガング・スシツキー)、そして『素晴らしい風船旅行』(1960)も手がけた空中撮影の第一人者、ギイ・タバリー。ロージーはヘリの撮影に夢中だったらしく、自ら機内に乗り込み、正気の沙汰とは思えないスタントシーンを敢行。ヘリが俳優たちの体スレスレまで近付く場面では、ひとつ間違えば彼らを切り刻みかねない、あるいはローターが地面や山肌に接触してヘリ自体が大破しかねない危険な撮影に挑み、比類のない映像を生み出した。後にM・マクダウェルがジョン・バダム監督のヘリアクション映画『ブルー・サンダー』(1982)に出演した時、何かイヤなことを思い出さなかっただろうか……と思いを馳せてしまうほど、強烈な迫力に満ちている。

 原作と同じ「風景の中の人物」というアートフィルム的なタイトルも、また異色。広大な自然の中を逃げ回る2つの人影を延々と映し出す本作には、まさにうってつけの題名だと思うが、商売的に成り立つタイトルではない。嘘でもいいからそれらしい題を付けるのが映画興行というものではないだろうか……と余計な心配までしてしまう。当然、興行的に当たったという話は聞かない。

 日本では結局オクラ入り。邦題の『雪崩』はBSで放映された時に付けられたもの。本編に雪崩のシーンなんてないのだが、一体どういうつもりで付けた題なのか……買い付け担当者が映画を見終わった時の気持ち?


製作/ジョン・コーン
監督/ジョセフ・ロージー
原作/バリー・イングランド
脚本/ロバート・ショウ
撮影/アンリ・アルカン、ピーター・スシツキー、ギイ・タバリー
音楽/リチャード・ロドニー・ベネット
出演/ロバート・ショウ、マルコム・マクダウェル
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