原題:Children of Men(2006)

映画にできることって何だろう。端的に言うと、“現実にないシチュエーションを視覚化し、それを通して、社会の諸問題や世界に内在する真実をメタフォリカルに描く”ことだ。しかし、その目標を極限まで達成する作品は稀である。
それにしても、ここ最近の実録戦記映画の濫造ぶりはどうしたことだろう? イマジネーションこそ映画の最大の武器であったはずが、いつしか“架空の設定”は真実を語る術とみなされなくなってしまった。史実に即さなくとも、過去には『まぼろしの市街戦』や『アンダーグラウンド』など、優れたアイディアの傑作はあったのに(つい最近『トンマッコルへようこそ』という発想だけは秀逸な作品があったが、演出センスが凡庸なおかげでひどく損をしていた)。
戦場を、人類の不和を、未来への絶望を、つまり現実を描こうとしたとき、アルフォンソ・キュアロン監督は架空の世界を選んだ。そこでなら「奇跡」が起こせるからだ。そして同時に並々ならぬ努力で、その世界を「現実」として構築した。戦う術を持たない市民の視点から、いつ頭を撃ち抜かれて死ぬかもしれない戦場を、凄まじい緊張感をもって描きだした。ハンドヘルド・カメラによる映像は、圧巻の一言に尽きる。それが単なるヴィジュアル・サーカスに堕していないのは、そのテクニックが「銃を突きつけられ殺される恐怖」「戦場を逃げまどう恐怖」を描くために駆使されているからだ。技術など二の次でしかない。
これが映画の仕事だと思う。
また、舞台がイギリスというのも巧い。世界が破滅に瀕していても「大英帝国は不滅なり!」とか言い張っている高慢さは本作最大のギャグだ。これがそのままアメリカだと、スタジオから「洒落にならない」とストップをかけられてしまうだろうが。
主演のクライヴ・オーウェンがいい。この人でなければ出せない諦観、ナイーヴな弱さがあってこそ、本作のドラマはリアルな実感を持ち得た。あそこまでいろいろあったにも関わらず、最後に「何て日だ(What a day.)」の一言で済ませてしまう、シニカルだが人間味のある態度を、これほど絶妙に表現できる役者はそういない。

個人的には、マイク・ホッジス監督作品の2大スター……『ルール・オブ・デス/カジノの死角』『ブラザー・ハート』のC・オーウェンと、『狙撃者』『PULP』のマイケル・ケインが共演を果たしたという点でも見応えがあった。両者の役柄は、年齢差を越えて親友同士として付き合う、かつてのアウトサイダーたち。まるでホッジス作品のバックステージを見るような錯覚を覚えたりして、感慨深いものがあった。閑話休題。
今の世界に伝えるべきことを真っ向から伝える。『トゥモロー・ワールド』にはその気概がある。もし映画に使命とか存在意義とかいったものがあるなら、この作品は稀有にもそこに達しているのではないか。

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監督/アルフォンソ・キュアロン
脚本/ティモシー・J・セクストン、デイヴィッド・アラタ、アルフォンソ・キュアロン、マーク・ファーガス、ホーク・オストビー
原作/P・D・ジェイムズ
撮影監督/エマニュエル・ルベツキ
プロダクションデザイン/ジェフリー・カークランド、ジム・クレイ
編集/アルフォンソ・キュアロン、アレックス・ロドリゲス
音楽/ジョン・タヴナー
出演/クライヴ・オーウェン、クレア=ホープ・アシティ、マイケル・ケイン、キウィテル・イジョフォー、パム・フェリス、ジュリアン・ムーア、ピーター・ミュラン、ワーナ・ペリーア、チャーリー・ハナン

