Simply Dead

映画の感想文。

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『天使の影』(1976)

『天使の影』
原題:Schatten der Engel(1976)

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 東京フィルメックス2006上映作品。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの戯曲を映像化した、ダニエル・シュミット監督の長編第3作。両者の強烈な作風が水と油とはならず、互いに刺激し合うかたちで融合した傑作である。

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〈おはなし〉
 娼婦リリー(イングリット・カーフェン)はその日も寒空の下、街頭に立っていた。ひとりも捕まらずに部屋へ戻れば、粗暴なヒモのラウール(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)に尻を蹴飛ばされ、再び路地へと舞い戻る。そこに現れたユダヤ人の大物ギャング(クラウス・レーヴィッチュ)に目を付けられたリリーは、彼に囲われることに……。

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 ファスビンダーは自ら共同脚本・台詞を手がけ、嫉妬深いヒモ役で出演もしている。饒舌に畳み掛けられる演劇的な台詞が、映画内に流れる時間を加速させ、およそシュミット作品らしからぬ展開を見ることができる。しかし、フィルムの質感、場面の空気感は紛れもなくシュミットのものだ。作品中の時間感覚を徹底的にコントロールするシュミットにとって、この映画はかなりの異色作と言えるが、代わりにあるのがファスビンダーのパワーである。

 とにかく台詞のボリュームが凄まじい。映画的な推敲は省かれ、ケレンに満ちた戯曲の台詞がそのまま活かされている。メロドラマでありつつ、型通りの悲劇のカタルシスなどは排除され、手を汚した者は裁かれもしない。ひたすら念入りに絶望を提示するラストは、いかにもファスビンダーらしい。そんな強靱な負のパワーに満ちたドラマが、シュミットの重く毒気を帯びた演出によって、さらに過剰さを増していく様は、圧巻の一言に尽きる。

 この作品でもやはり、闇が素晴らしい。撮影監督レナート・ベルタとシュミットが創り出す濃厚な闇と色彩には中毒性がある。「暗いとディテールが潰れて……」などと甘っちょろい事をほざく映像派気取りはシュミットの映画を観てから死んでくれと言いたくなるぐらい、闇への信服が徹底しているのだ。透徹とか純粋とかいった種類ではない、オペラティックな闇。これはやはりテレビのモニター等では解像しえないレベルの仕事で、今回フィルムで観ることができて本当に良かったと思う。

▼主演のイングリット・カーフェン(中央)
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 薄幸の娼婦を演じるイングリット・カーフェンはまさに「妖しの美」で観る者を圧倒する。後半、死へと近づくほどに、彼女の表情は虚ろな安息を得て、さらに淫靡な魅力を増していく。登場人物のほぼ全員にそういった妖気や退廃が漂っているのだが、特にインパクトが強いのはギャングの子分“グノーム(小鬼)”役のジャン=クロード・ドレフュス。最近ではジャン=ピエール・ジュネ作品の常連俳優としておなじみだが、本作ではホモセクシュアルな匂いを漂わせるスキンヘッドの大男をいやらしく演じており、外見的には悪魔の使いにしか見えない。

▼ジャン=クロード・ドレフュス(左)とクラウス・レーヴィッチュ(右)
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監督/ダニエル・シュミット
原作/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
脚本/ダニエル・シュミット、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
撮影/レナート・ベルタ、カルロ・ヴァリーニ
美術/ラウール・ヒメネズ
音楽/ゴットフリード・ヒュンスベルク、ペーア・ラーベン
出演/イングリット・カーフェン、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、クラウス・レーヴィッチュ、アンネマリー・デュリンガー、アドリアン・ホーフェン、ジャン=クロード・ドレフュス、ウリ・ロメル

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