Simply Dead

映画の感想文。

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『Sue』(1997)

『Sue』
仏語題:Sue, Perdue Dans Manhattan(1997)

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 『Fiona』(1998)『ファストフード ファストウーマン』(2000)『ブリジット』(2002)と続く、アモス・コレック監督と女優アンナ・トムソンによるコラボレーションの記念すべき1本目。コレック監督は“Nicole”という企画の準備中、オーディションでトムソンと出会い、その魅力の虜となった。そして彼女を主演に想定して素早く書き上げられたのが、本作『Sue』のシナリオ。この作品には、コレックがトムソンと初めて逢った時に得たインスピレーションが、ダイレクトに反映されている。

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〈おはなし〉
 冬。ニューヨークで独り暮らしをしている女性スー(アンナ・トムソン)は、現在求職中。このままでは家賃が払えず、アパートの部屋も追い出されてしまう。たまたま知り合ったローラ(ターニー・ウェルチ)という女をルームメイトに招いてみるが、強盗はするわ見知らぬ男は連れ込むわ、共同生活はすぐに破綻。親切なバーテン(トレイシー・エリス・ロス)に助けを申し出られても、他人の優しさに慣れないスーは、それを断ってしまう。孤独と街の冷たさが、彼女の心身を蝕んでいく。

 そんな時、以前ダイナーで知り合ったベン(マシュー・パワーズ)と再会したスーは、彼と恋仲に。仕事も決まり、多少の波風はあっても、物事がうまく行き始めたかのように思えた。しかし……。

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 どうしようもなくアンバランスで、様々なアンビバレンツを抱えた“スー”というキャラクターを、アンナ・トムソンは唯一無二の存在感で演じる。聖母にも娼婦にも見え、慈しみと深い絶望を湛えた女性。愛すること、癒すことは彼女にとって救いだが、外からの愛には応えられない。それは監督から見たトムソン自身の印象でもある。

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 都会に暮らす女性の孤独を見つめた映画ではあるが、コレック作品独特の人をくったユーモアが全編に漂い、陰鬱に感じさせない。公園で会った見知らぬ初老の男に「胸を見せてほしい」と乞われたスーが、飲み物を買ってきてくれたお礼に豊かなバストを見せてあげたり(これは監督が実際に目撃した光景だそうだ)、変人とも思えるヒロインの行動が、突飛なおかしさを誘う。それは主演女優トムソン自身の「この人だったらやりそうな気がする」という持ち味によるところも大きい。彼女の浮き世離れしたキャラクターが作品にオフビートな色合いを与え、ラストシーンの悲しみも独特なものにしている。

▼ドイツ盤DVDのジャケット
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 アンナ・トムソン(現在はアンナ・レヴィン名義で活動)はとにかく不思議な女優だ。波乱の人生を歩んできたことを否定もしないし、またそれが佇まいとしてそのまま出てしまう。そんな愁いも含めた複雑な内面が、儚い美しさとして放たれているのが不思議。やたらスリムで手足が長くて胸だけが大きな体型も、美しくてヘン。コレック作品以外で印象的だったのは、クリント・イーストウッド監督の『許されざる者』(1992)で演じた顔を切られる娼婦、そして『トゥルー・ロマンス』(1994)の冒頭に登場するこれまた娼婦。『バッド・ボーイズ』(1995)も映画の内容はからっきしだが、彼女が出ていたことだけは覚えている。美人ではないがどこか印象に残る人で、気にはなっていた。その頃と現在とでは、印象どころか顔の形がまったく違う。最近ではC・S・リー監督の5時間を超す大作『American Widow』(2007年完成予定)に出演しているとか。

▼『トゥルー・ロマンス』のA・トムソン
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 主人公スーの前に現れる偶然の登場人物たちにも、個性的な顔ぶれが揃っている。チンピラ気質の女ローラを怪演しているのは、ラクウェル・ウェルチの娘ターニー・ウェルチ。その恋人役として、『ディナーラッシュ』(2000)で注目される前のエドアルド・バレリーニが出演している。スーと恋仲になるベンを好演するマシュー・パワーズは、続く『Fiona』と『ブリジット』にも出演。親切なバーテンのリンダを演じたトレイシー・エリス・ロスは、ダイアナ・ロスの娘。『マペット・ムービー』(1979)などで印象深い名脇役オースティン・ペンドルトンの妙演も見どころだ。まったくの低予算自主映画だったため、共演者のほとんどはトムソンの伝手で集められ、ほぼノーギャラだったとか。

sue-02.jpeg

 イスラエル出身のコレック監督はもともと作家で、映画学校で学んだことも助監督経験もない。だからカットつなぎがいつも微妙に不自然なのだが、独特のリズムとリアリティがあり、それが作風になっている。『Sue』では特に予算とスケジュールの関係上、手早く撮ることがテーマだったため、ほとんど即興で1テイクOKを目標に撮り進められたという。なんでも『ウーマン・イン・ニューヨーク』(1986)という映画の撮影中、主演のハンナ・シグラから「ファスビンダーはそんなにテイクを重ねなかったわ」と言われたのが大きかったらしい。

 この作品がトロント映画祭で高く評価され、ベルリン国際映画祭で受賞したため、トムソンもコレックも人生が一変したという。特にヨーロッパでは人気があり、フランスやドイツではDVDボックスも発売されている(しかしアメリカでは『Sue』も『ブリジット』もDVD化されていない)。とても面白い映画だと思うので、日本未公開はもったいない。一時期、配給会社のラインナップには入っていたのだけど……。


製作・監督・脚本/アモス・コレック
撮影/エド・タラヴェラ
プロダクションデザイン/シャーロット・バーク
編集/リズ・ガザーラ
音楽/チコ・フリーマン
出演/アンナ・トムソン、マシュー・パワーズ、ターニー・ウェルチ、トレイシー・エリス・ロス、エドアルド・バレリーニ、オースティン・ペンドルトン、ロバート・カイア=ヒル
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