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Simply Dead

映画の感想文。

『Robin Redbreast』(1970)

『Robin Redbreast』(1970)

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 ケン・ローチ、アラン・クラーク、ジョン・マッケンジーといった錚々たる監督たちが参加した単発ドラマシリーズで、イギリスBBC放送の長寿番組として知られた「Play For Today」の一編。本国では『ウィッカーマン』(1973)の先駆的カルトムービーとして知る人ぞ知る作品であり、いま観るとアレックス・ガーランド監督の『MEN 同じ顔の男たち』(2022)との共通性に驚かされる異色のドラマである。キリスト教以前の土俗信仰(ペイガニズム)、その土地固有の伝承などをモチーフにした恐怖譚「フォークホラー」のひとつとして、2022年発売のBlu-ray BOX「ALL THE HAUNTS BE OURS: A COMPENDIUM OF FOLK HORROR」にも収録された。

 以下、あらすじを記すが、いかに本作が『MEN 同じ顔の男たち』と似ているかを知ってもらうため、作品のオチまで書いてある。知りたくない方は上手に読み飛ばしていただきたい。

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〈おはなし〉
 ロンドンのテレビ局でスクリプトエディターとして働くノラ(アンナ・クロッパー)は、35歳の独身女性。8年間の同棲生活を苦いかたちで解消した彼女は、傷心が癒えるまでの休暇中、田舎にあるコテージで独り暮らしを始める。家政婦のヴァイゴ夫人(フリーダ・バムフォード)、たまに立ち寄る地元の歴史学者フィッシャー(バーナード・ヘプトン)はクセの強い変わり者だが、穏やかな田舎暮らしは悪くない。

 あるとき、彼女は近くの森でカラテの練習に勤しむ半裸の青年エドガー(アンディ・ブラッドフォード)と遭遇する。もともと孤児だった彼は、ヴァイゴ夫人が養母となって村の大人たちに育てられたのだという。なぜか村人からはロブとかロビンとか呼ばれていた。

 ノラはコテージの屋根裏に住み着いた小動物の駆除を、エドガーに依頼する。ついでに若くハンサムな青年との一夜を楽しもうとするが、彼はナチスドイツ親衛隊の知識をひけらかすばかりで、ちっともムードは良くならない。諦めてエドガーを追い出すノラだったが、そのとき家のなかに小鳥が迷い込み、彼女は思わず金切り声をあげる。その声を聞いて駆けつけたエドガーと、ノラは予定どおり(?)ベッドイン。どういうわけか、その夜にかぎって避妊具が引き出しから消えており、数カ月後、ノラの妊娠が判明する。
(ここよりネタバレ注意)

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 ロンドンに帰り、仕事に復帰したノラは堕胎を考えていた。「僕の子を産んでほしい」というエドガーの頼みも頑としてはねつけるが、ふと心変わりして、彼女は村のコテージに戻ってくる。ヴァイゴ夫人はなぜか「イースターまで村に留まりなさい」とノラを引き留め、ちょうど同じタイミングで車が動かなくなり、電話は通じず、バスは彼女の前を素通りするようになった。

 月日は流れ、お腹はどんどん大きくなる。明らかに村全体が彼女を外に出さないようにしている……。徐々に恐怖を感じ始めた彼女の前に、すべての元凶と思しきエドガーが現れる。彼はフィッシャーに金を借りて村から出て行き、カナダに移住するという。このタイミングで姿を消そうとする彼に不信感をぶつけるノラだったが、エドガーもまた恐怖に怯えていることに気付く。いつしかコテージの周りは何者かに取り囲まれ、くすくす笑いまで聞こえてくる。そのとき煙突を伝って、斧を持った男が邸内に侵入してきた。ノラは気を失い、エドガーの絶叫が響き渡る。

 翌朝、ノラが目を覚ますと、そこにはヴァイゴ夫人がいた。「女の血など流すわけがないでしょう。女は大地に実りをもたらす存在なのだから」。そして、フィッシャーの姿もあった。彼はこの村に伝わる古代信仰について語る。20年に一度の儀式に捧げるいけにえとして、身寄りのない男子がロビン・レッドブレスト=ヨーロッパコマドリと呼ばれ、手厚く育てられてきたこと。その相手として未婚の女性が選ばれ、両者のもうけた子が代々いけにえにされてきたこと。ノラは妊娠した子を村の孤児院に預けなさいと告げられる。つまり、20年後にはその子が……。

 ノラは修理を終えた車に慌てて飛び乗り、急発進する。背後を見ると、そこには異教の衣装に身を包んだフィッシャーやヴァイゴ夫人たちの姿があった。

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 80分の小品だが、非常に不気味な後味を残す作品である(もともとはカラーで撮影されたが、現存するのはモノクロ16ミリフィルムの転写素材のみ)。主人公を巧みに孤立へと導いていく作劇、ロビン(コマドリ)という言葉を用いたトリックが見事で、特殊効果も特殊メイクも一切使っていないのに、立派な恐怖譚として成立している。もう少しムードのある映像演出が欲しいところだが、当時のテレビドラマとしてはじゅうぶん意欲的な作品といえよう。ラストに映し出される異教徒たちの姿――慌てて村を去るノラが垣間見るビジョン――は、当時なんの気なしにテレビを見ていた視聴者にとっては、悪夢のようなインパクトだったのではないか。

 「都会から来た独身女性が、傷心を癒すため田舎の一軒家に越してくる」という設定、さらに「宗教」「自然」「妊娠」といったモチーフなどが『MEN 同じ顔の男たち』と似通っており、アレックス・ガーランドは本作をかなり意識したのではないかと思わざるをえない(すでに両作の相似性に触れたレビューも存在する)。

 ただ、『MEN』で描かれたのが「古来より連綿と受け継がれてきた、有害な男性性による支配」「男は男しか産まないという悪循環」といった明確な男性批判だとしたら、本作『Robin Redbreast』で描かれるのは、あくまで異教の揺るぎない存在、理不尽な因習に巻き込まれる現代女性の受け身のドラマである。そういう意味では『ウィッカーマン』や『ミッドサマー』(2019)などに近い。

 地理的に隣り合う「都会と田舎」が、時空を越えた「現代と古代」として人知れず隣接しており、最終的には恐怖譚として完結する作りは『ウィッカーマン』と共通している。主人公ノラはロンドンで働く現代女性だが、彼女の辿り着く帰結として、それこそ『ミッドサマー』のように「解放」や「癒し」が描かれていれば、いまの時代にこそ盛んに言及されるカルトムービーになったかもしれない。そんな口惜しさを差し引いても、1970年の作品としては、自立した社会人女性であるノラの人物像はじゅうぶんに現代的である。

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 脚本は数多くのテレビドラマを手がけ、劇作家・小説家でもあったジョン・ボウエン。ソフィア・ローレンとリチャード・バートンが共演したリメイク版『逢いびき』(1974)の脚本も手がけている(これも元はテレビムービー)。監督のジェームズ・マクタガートは英国テレビ黎明期から数多くのテレビシリーズに参加しているベテランで、ケン・ローチとも親交が深く、「Play For Today」では計6編を演出している。「Play of the Month」シリーズの一編『ロビンソン・クルーソー』(1974)は日本でもテレビ放映されたが、マクタガートは同作の編集中に心臓発作で急逝。彼が生涯に演出・プロデュースしたテレビ作品は100本近くにのぼるとか。

 撮影を務めたのは、のちに『トレインスポッティング』(1996)や『リトル・ダンサー』(2000)などを手がける名手ブライアン・テュファーノ(2023年1月に逝去)。BBCからキャリアをスタートした彼は、若き日のケン・ラッセルやスティーヴン・フリアーズといった監督たちと仕事を共にし、一方でピート・ウォーカー監督の超低予算映画『ザ・アンタッチャブル/暗黒街のハスラー』(1968)なんかも手がけている。一本立ちして間もないころに撮り上げた本作は、当時のテレビ番組らしくロケシーンとスタジオシーンの質感の差が一目瞭然だったりして、あまり映像的に特筆すべきところはない。もっとも、カラーの原版ではなく現存するモノクロ素材しか見ていないので、なんともいえないが。

 主演のアンナ・クロッパーは主に舞台とテレビで活躍したベテラン女優で、息子は同じく俳優のライナス・ローチ。ロブ役のアンディ・ブラッドフォードは俳優兼スタントマンでもあり、劇中でカラテと引き締まった肉体美を披露するのもその経歴を活かしてのことだろう。

 謎めいた佇まいの歴史家フィッシャー役で、インパクト絶大の怪演を披露するバーナード・ヘプトンは、マイク・ホッジス監督の映画『狙撃者』(1971)で演じた地元ギャングの使いっ走り・ソーピー役でも知られている。彼も多くのテレビドラマに出演し、ホッジス監督のミニシリーズ『Dandelion Dead』(1992)にも顔を出している。

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▲『狙撃者』のバーナード・ヘプトン

 すべての罠を仕掛け、すべてを見透かしているかのような家政婦ヴァイゴ夫人役のフリーダ・バムフォードも、主役を食うほどの強烈な印象を残す。彼女も英国が誇る名バイプレイヤーのひとりで、『国際諜報局』(1965)では諜報局員のアリス役でマイケル・ケインと共演している。ジョン・ボウエンが再び「Play For Today」のために書き下ろした一編、『A Phtotograph』(1977)にも、ギョッとする役で出演した。

 イギリス本国では単品ソフトリリースもされているが、日本ではほとんど知られていない。初オンエア時は番組終盤で多くの地域が停電になったらしく、3カ月後に再放送されたという逸話もある(それはそれで不気味かもしれない)。どこの国でも、こういう「昔テレビでなんとなく見て、ずっと記憶に残っている作品」が、意外と現在の映像業界に影響を与えているような気もする。

・Amazon.co.uk
DVD『Robin Redbreast』(英国盤・PAL)

・Amazon.com
Blu-ray BOX「ALL THE HAUNTS BE OURS: A COMPENDIUM OF FOLK HORROR」(米国盤・15枚組)

1970年12月10日、イギリスBBCにて放映/イギリス/モノクロ(原版カラー)/80分/スタンダード(日本未公開)
製作/グレム・マクドナルド
監督/ジェームズ・マクタガート
脚本/ジョン・ボウエン
撮影/ブライアン・テュファーノ
出演/アンナ・クロッパー、アマンダ・ウォーカー、ジュリアン・ホロウェイ、フリーダ・バムフォード、アンディ・ブラッドフォード、バーナード・ヘプトン

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