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Simply Dead

映画の感想文。

『愛と歌の日々』(1963)

『愛と歌の日々』(1963)
原題:I Could Go On Singing

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 MGMミュージカルの看板女優であり、歌手としても人気を博した稀代の大スター、ジュディ・ガーランド(1922~1969)。その晩年、1968年のロンドン公演でのエピソードを中心に、彼女の苛烈な生き様を追った伝記映画『ジュディ 虹の彼方に』(2019年)が3月6日に公開される【公式サイト】。原作は2005年にオーストラリアで初演されたというピーター・キルター作の舞台『End of the Rainbow』で、映画化に際してはトム・エッジによる脚色が施された。ジュディを演じたレネー・ゼルウィガーの体を張った熱演がすさまじく、多くのものを犠牲にしながらスターの道を歩み続けてきた大スターのプライドと苦渋を、全身の骨肉にまで染み込ませたような痛々しい演技は、まさに圧巻である(本人はまったくそういうタイプの女優ではないのに!)。

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▲『ジュディ 虹の彼方に』のレネエ・ゼルウィガー。さすがは『ベティ・サイズモア』の主演女優

 この映画を観たあと、米盤DVDを買ったまま放置してあったジュディ・ガーランドの遺作『I Could Go On Singing』を観てみた(日本では劇場未公開、テレビでは『愛と歌の日々』のタイトルで放映)。ミュージカル作品ではないが、映画では『スタア誕生』(54年)以来となるジュディの歌唱シーンを見どころに据えた音楽ドラマの佳作で、これが『ジュディ 虹の彼方に』といろいろな部分で共通性を感じさせる作品だった。

 監督はのちに『ポセイドン・アドベンチャー』(73年)を手がけるロナルド・ニーム。主にテレビ畑で活躍し、映画では『枢機卿』(62年)などを手がけた脚本家ロバート・ドジアーによる原案をもとに、『宇宙からの脱出』(69年)『フェイズIV/戦慄!昆虫パニック』(73年)などのSF作品の印象が強いメイヨ・サイモンが脚本を執筆した。劇中のセリフの一部を、共演者のダーク・ボガードが書き直したという話もある。物語の主な舞台がロンドンで、監督も脇を固めるキャストもイギリス人という、実質イギリス映画として作られているところも『ジュディ 虹の彼方に』と共通している。また、『巴里のアメリカ人』(51年)『キス・ミー・ケイト』(53年)『ウエストサイド物語』(61年)などの作曲を手がけたソウル・チャップリンが音楽監修に名を連ねているのも、往年のミュージカル・ファンなら見逃せないところだろう。

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 ジュディが演じるのは、彼女本人を模したようなアメリカの人気歌手ジェニー・ボウマン。この時代になると、やや生活の荒れが容姿に表れ始めている感じだが、それでもスターとしての華と貫禄は隠しようもなく、おそらく歌唱法の影響でやや猫背気味になったシルエットは、どこかエディット・ピアフも思わせる。

 ジェニーは公演先のロンドンに着いてすぐ、医師デヴィッド(ダーク・ボガード)と面会する。実は2人は元恋人同士で、お互いのキャリアのために結婚目前で破局した過去があった。そのとき、ジェニーは子供を身ごもっていたが、彼女は芸能人としての生活を選び、生まれた子供はデヴィッドが引き取ることになった。デヴィッドは幼馴染みの女性と結婚し、実の息子を養子という名目で15年間育て上げ、ようやく手が離れたところで妻と死別したところだった。その報せを受け、ジェニーは十数年ぶりにデヴィッドのもとを訪れたのだ……。これだけの設定を、デヴィッドの自宅兼診療所での会話だけで徐々にわからせていくシナリオと演出がうまい。というか、こういう「徐々にわからせていく」語りというのは近年の映画作りでは敬遠される手法だろう。

 ジェニーは生き別れた息子に一目会いたいと、デヴィッドに頼みに来たのだった。最初は渋るデヴィッドだったが、「本当に一目だけなら」という条件で彼女の願いを受け入れる。翌日、ジェニーはデヴィッドとともにバッキンガムシャーの寄宿学校に赴き、そこで実の息子マット(グレゴリー・フィリップス)と初めて対面する。マットは世界的大スターのジェニーが自分の母親だとは露知らず、大好きな歌を披露。溢れ出す愛情を抑えきれないジェニーは、ロンドン公演を観に来てほしいとマットに告げる。快諾するマットと、渋い顔のデヴィッド。

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 ロンドン公演での熱唱シーンは、まさにジュディの独り舞台をそのまま見ているような迫力がある。おそらく『ジュディ 虹の彼方に』のレネー・ゼルウィガーも大いに参考にしたはずだ。往年のMGMミュージカルのような派手な演出はないが、1人の小柄な女性が、その歌声と存在感だけで観客全員のハートを「持っていく」エンタテイナーとしての圧倒的力量は見事にフィルムに焼き付けられている。一方、スケジュールを守らなかったり、突然「今日は舞台に出ない!」と言い出して劇場スタッフをハラハラさせる一幕も描かれる。このあたりはジュディ本人のパーソナリティを反映していると思われるが、本人主演の映画でよく正直に描いているなと感心する(さすがにドラッグやアルコール癖については描いていないが……)。

 ジェニーはマットが単身ロンドンに来てくれたことに大喜びで、彼と一緒に遊覧船に乗ったり、ヘリコプターに乗ったりと、ロンドン観光を満喫する。もちろん素性は隠したまま……。この親と子のドラマを主軸にしたストーリーも『ジュディ 虹の彼方に』の重要なエッセンスとなっており、ここまでくると「原作」と言ってもいいような気もしてくる。『ジュディ 虹の彼方に』では、ジュディが良き母親であろうとしながらも、借金まみれの巡業生活のなかで子供たちに安定した生活を与えてあげられない現実、そして子供たちをL.A.に置き去りにしたまま長期の海外公演で生活費を稼がねばならない苦悩と孤独が映し出される。それを踏まえて本作の「疑似親子団欒」の光景を見ると、なかなか切ないものがある。はたしてジュディ本人はどんな気持ちでこの母と子の交流を演じていたのだろうか?

 当然、ジェニーの嘘は長続きするものではなく、息子を迎えに来たデヴィッドとの口論のさなか、自分が実の母親であることをマットに聞かれてしまう。真実を告げたことで、自らのもとを去っていく家族……。このシーンのあと、ステージでジェニー=ジュディが「By Myself」を熱唱するシーンは、本作最大のクライマックスと言っていい。「これでロマンスは終わり/私は私の道を行く」という歌詞の内容も、大切な人間関係を失っても1人でたくましく生き抜こうというジュディ・ガーランド自身の「芸道一筋」の決意表明を迫力たっぷりに聞かされているようで、圧巻としか言いようがない。ちなみにこの曲は、『ジュディ』でレネー・ゼルウィガー扮するジュディが劇中で初めて披露する曲にもなっていて、ジュディ本人に負けじとド迫力の歌声で観る者を圧倒してくれる。



 このあと、マットの親権をめぐってジェニーが泥沼の闘争に突き進みかけるくだりも『ジュディ 虹の彼方に』の脚本に大きな影響を与えたのでは……というか、ジュディ・ガーランド自身の実人生を予見していたのではないか、という気もする。板挟みになったマットは、母のため、父のためを思い、ある決断を下す。そして終盤、公演に穴を開けかねないほど錯乱状態に陥ったジェニーを、デヴィッドは病院の診察室で懇々と説得する。この2人芝居のシーンもまた、本作のクライマックスのひとつである。激しさと穏やかさが火花を散らす名優同士のサイコセラピー的演技合戦からは、ひと時も目が離せない。引き裂かれた人間の心を全身で表現できる、ジュディ・ガーランドの女優としての実力を思い知らされる名場面だ。

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 エンディングを締めくくるのは、本作の主題歌「I Could Go On Singing」。開演時間から大幅に遅れて登場したジェニーが、「どこ行ってたんだ?」「そのカカトの怪我はどうしたんだ?」というロンドンっ子たちの温かいヤジに答えながら歌い出すくだりは、そのまま『ジュディ 虹の彼方に』の一場面でも再現される(ただし、もっと悲惨な展開だが……)。あくまでもハートウォーミングな再生のドラマとして幕を下ろす本作では、ジェニーがようやく心の平静を取り戻したかのような、優しく前向きな歌声が観る者の胸を打つ。



「君が自分の力で、その2本の足でしっかり立てるまで、僕がそばにいるよ」と告げたデヴィッドは、ステージ袖から彼女の姿を見守り、いつの間にか姿を消している。その不在に気付き、一瞬揺らぎながらも、再びエネルギッシュに「私は歌い続ける」と熱唱するジュディの演技が絶品だ。本作公開から6年後、ジュディは滞在先のロンドンで、47歳という若さで死去。これが最後の主演映画となった(ジョン・カサヴェテスが監督した『愛の奇跡』と同年公開だが、こちらのほうが数カ月遅く封切られている)。掛け値なしの傑作とか、不朽の名作とかいうものではないが、『ジュディ 虹の彼方に』が公開されるいま、見逃してはならない作品ではあると思う。どこかで日本語字幕つきでテレビ放映してくれないだろうか?

・DVD Fantasium
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米国盤ブルーレイ『I Could Go On Singing』限定版

1963年イギリス、アメリカ/99分/カラー/シネマスコープ/ユナイテッド・アーティスツ作品
製作:ローレンス・ターマン、スチュアート・ミラー
監督:ロナルド・ニーム
原案:ロバート・ドジアー
脚本:メイヨ・サイモン
撮影監督:アーサー・イベットソン
美術:ウィルフレッド・シングルトン
衣装(ジュディ・ガーランド):イーディス・ヘッド
音楽:モート・リンゼイ
音楽監修:ソウル・チャップリン
編集:ジョン・シャーリー
メインタイトル&グラフィックデザイン:モーリス・ビンダー
出演:ジュディ・ガーランド、ダーク・ボガード、ジャック・クラグマン、アリーン・マクマホン、グレゴリー・フィリップス
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