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Simply Dead

映画の感想文。

『死霊の罠3』こと『ちぎれた愛の殺人』

『死霊の罠』ブルーレイ化クラウドファンディング
勝手に応援企画その5(番外編)

『死霊の罠3』こと
『ちぎれた愛の殺人』


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 海外でのタイトルは『EVIL DEAD TRAP 3』、つまり『死霊の罠』シリーズの3作目と称されることもある、池田敏春監督×石井隆脚本コンビによるミステリースリラー。製作はパイオニアLDC、プロデューサーは『この世界の片隅に』(16年)の真木太郎。池田監督とは傑作『くれないものがたり』(92年)に続くタッグである。1993年6月にテアトル新宿ほか全国劇場で公開され、その後ビデオとLDが発売されたが、国内ではDVD化されていないので観る機会の少ない1本である。

 池田監督・石井脚本のコンビ作としては『天使のはらわた 赤い淫画』(81年)、『魔性の香り』(85年)、『夜に頬よせ』(86年TV/88年放映)、『死霊の罠』(88年)に続く5作目となる。さらに遡ると、池田敏春は曽根中生監督の『女高生 天使のはらわた』(78年)と『天使のはらわた 赤い教室』(79年)、田中登監督の『天使のはらわた 名美』(79年)でも助監督を担当し、原作者である石井と監督たちとの間で調整役を務めてきた。ゆえに互いに対する敬意と信頼は強く、嗜好も似ていて相性もよかったのだろう。にっかつ時代には西村望の小説『火の蛾』をともに映画化する企画もあったが、これは頓挫し、のちに石井隆監督作品『死んでもいい』(92年)として結実する。

  『ちぎれた愛の殺人』は、90年代に入ってすぐ大ヒットした『羊たちの沈黙』(91年)の向こうを張ったサイコスリラーとして企画されたであろう内容だ。さらにドラマ『ずっとあなたが好きだった』(92年TV)の常軌を逸したマザコン演技でブレイクした佐野史郎に、サイコキラー(的な)役を演じさせるなど、いろいろと「当てに行って」いる作品である。同時に本作は、石井隆が描き続けてきた名美と村木の救われないラブストーリーのひとつであり、池田監督がこだわり続ける人間の「二面性」を掘り下げた作品でもある。

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▲主人公の女性刑事・陽子を演じる横山めぐみ(左)と、その相棒となる食いしん坊刑事役の山田辰夫(右)

 身元不明の女性の切断死体が、出雲の海に打ち上げられる場面で、映画は幕を開ける。首も手足もない、裸の女の白い胴体だけが真っ黒な岸壁に打ち上げられたイメージが鮮烈だ。ほかにも劇中では「冷蔵庫に入りきらないほどみっしり詰め込まれた切断死体」といった、いかにも池田監督の好きそうなビジュアルも登場する。

 死体発見と時同じくして、東京のとある短大で1人の女子大生が投身自殺を図る。彼女の遺書には、剣道部顧問である助教授・村木(佐野史郎)との不倫関係が記されていた。警視庁の女性刑事・陽子(横山めぐみ)は、かつて自分の同級生だった女子大生の失踪事件と、やはりその際に関係者として浮上していた村木の疑惑を改めて洗い出そうと試みる。その背後にちらつく、村木の妻・名美の存在。彼女は精神を病んでおり、夫の故郷である出雲で療養生活を送っているという。だが、その姿を見た者はいなかった。陽子は謎の核心に迫りながら、同時に抗いようもなく村木に惹かれていくのだった……。

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▲終盤に登場するだだっ広い“処理室”はスタイリッシュな『悪魔のいけにえ』といった趣き

 横山めぐみ演じるおきゃんな女性刑事はあんまり有能そうには見えないが、そんな彼女とさながら「レクターとクラリス」のような禁断の関係に陥る村木役の佐野史郎は、『死霊の罠2 ヒデキ』(92年)のサイコパス演技とは打って変わって、妖しくも危うい魅力を放つカッコいい系のキャラクターを、ほんのり“得意技”の怪演をきかせながら生真面目に演じている。そのアンバランスな二枚目ぶりは、『死霊の罠』で本間優二が演じた大輔のニヒルなキャラクターに近い。村木と陽子が惹かれ合う描写はちょっとトレンディドラマっぽい雰囲気もあり、時代を感じさせる。

 終盤では艶やかな女装姿を見せたり、多重人格的な芝居をノリノリで披露したりするものの、実はそれも……というのが本作のツイスト。佐野史郎が当時得意とした変態キャラ的イメージを逆手にとったキャスティングといえる。剣道シーンでのキレのある動きなど、アクション俳優としてのポテンシャルを池田監督が引き出そうとしているかのようだ。

 狂っているのは余貴美子演じる名美である。登場シーンはおそらく10分にも満たないが、そのインパクトは絶大だ。白いデスマスクを被り、巨大な鉄斧を振りかざす雄姿、痙攣する前衛ダンサーのような動作が、なんとも禍々しく魅力的である。

 愛する者のために手を汚し続ける村木の純愛は、すでに腐臭を放っていることに本人だけが気づいていない。愛はすべてを狂わせる。石井隆らしい捻ったロマンティシズムであり、『死霊の罠』のいじらしくも血にまみれた兄弟愛に通じるホラー観である。そう思えば池田監督は、殺人者/復讐者の動機には常に「愛」があることを描いてきた作家であり、『人魚伝説』(84年)も『湯殿山麓呪い村』(84年)も『死霊の罠』も『MISTY/ミスティ』(91年)も『ハサミ男』(04年)も、すべて「ちぎれた愛の殺人」の物語と言える。

 青を基調とした……というより、シーンによっては真っ青に染め上げられた過剰にスタイリッシュな映像美は、『死霊の罠』以上にダリオ・アルジェントの影響を感じさせる。もしかしたら当時の邦画ファンが心酔していた「キタノ・ブルー」への対抗意識か……などと勘ぐってしまうほど、本作の「青」は強烈だ。巨大な換気扇が回る、だだっ広い地下の“処理室”で展開するクライマックスでは、『サスペリア』顔負けの条理を超えた原色照明エフェクトが炸裂! ぜひ高画質で再見したい名場面だ。

 脇を固めるキャストのなかでは、『MISTY/ミスティ』に続いて池田組に参加した山田辰夫の好演も心に残る。四六時中なにかをムシャムシャ食ってばかりいる所轄の刑事・武藤という役で、いいところを見せようと思った矢先に不憫な最期を迎えるのが悲しい。池田監督は、山田辰夫がデビュー間もなく出演したにっかつ作品『鉄騎兵、跳んだ』(80年)の助監督も務めていた。その後、池田監督が手がけたオリジナルビデオ『暴力商売』シリーズ(01~02年)にもレギュラー出演している。

 杖をついた先輩刑事役の清水宏、特殊美術創作として参加した若狭新一、操演の岸浦秀一、音楽の吉良知彦といった『死霊の罠』組もとい池田組の面々はここでも健在。企画は『死霊の罠』も含め、ディレクターズ・カンパニー時代から池田監督を支えてきた渡辺敦。本作も『くれないものがたり』同様、日活出身の半沢浩プロデューサーが立ち上げたフィルム・シティが制作プロダクションを担った。これも本来ならディレカンで撮るはずの企画だったのかもしれない。『死霊の罠』に続いて、この映画も『くれないものがたり』とセットで「池田敏春×パイオニアLDC Blu-ray BOX」みたいなかたちでリリースしてくれないだろうか?

●クラウドファンディング・サイト
MOTION GALLERY
「邦画スプラッター・ホラーの傑作
『死霊の罠』『死霊の罠2 ヒデキ』のブルーレイ化を実現させよう!」
https://motion-gallery.net/projects/cinema_donuts-001

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『ちぎれた愛の殺人』 1993/101分/東京テアトル、パイオニアLDC配給
製作/真木太郎
プロデューサー/半沢浩、山本文夫
監督/池田敏春
脚本/石井隆
撮影/田口晴久
照明/木村誠作
録音/小高勲
整音/神保小四郎
編集/井上治
美術/丸尾知行
特殊美術創作/若狭新一(MONSTERS INC.)
操演/岸浦秀一(ローカスト)
音楽プロデューサー/梶原浩史
音楽/吉良知彦
製作協力/フィルムシティ
製作/パイオニアLDC株式会社
出演/佐野史郎、横山めぐみ、山田辰夫、浜田晃、椎谷建治、清水宏、竹井みどり、中村由真、広岡由里子、今井健二、余貴美子
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