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Simply Dead

映画の感想文。

『死霊の罠2 ヒデキ』を忘れるな

『死霊の罠』ブルーレイ化クラウドファンディング
勝手に応援企画その4
『死霊の罠2 ヒデキ』を忘れるな

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▲『死霊の罠2 ヒデキ』北米盤DVDジャケット

 『死霊の罠』(88年)の好調なビデオセールスを受けて、当然のごとく立ち上がったパート2の企画。当初は1作目と同じくジャパンホームビデオビデオとディレクターズ・カンパニーの共作として進んでいたが、諸般の事情で企画は一時棚上げに。新たに仕切り直された『死霊の罠2』の監督として白羽の矢が立ったのが、橋本以蔵だった。トレンディドラマの先鞭をきった『君の瞳をタイホする!』(88年TV)、大友克洋監督の大ヒット作『AKIRA』(88年)の共同脚本などを手がけ、気鋭の脚本家として活躍していた橋本は、すでにジャパンホームビデオ製作のオリジナルビデオ『LSD ‐ラッキー・スカイ・ダイアモンド‐』(90年)などの監督作も手がけていた。『死霊の罠2 ヒデキ』では、共同脚本に『ほんとにあった怖い話』シリーズの小中千昭を迎え、即物的恐怖を追求した1作目とは異なる恐怖を描いてみせた。

 正直言って、これを池田敏春監督作品『死霊の罠』のパート2と考えると、ポカーンとするしかない内容の作品である。しかし、単体の映画として改めて観ると、これはこれで他の追随を許さない異貌の一作ではある。誤解を恐れずに言えば、これほど負のパワーに満ち溢れた映画も珍しい。

 前作の登場人物がほぼ全滅している以上、直接的な続編は作れない。しかも、宮崎勤事件の影響もあってそこまで無邪気なスプラッター・スラッシャーを撮るわけにもいかない。そこで橋本監督はどう考えたか? 先日、『死霊の罠』ブルーレイ化支援クラウドファンディング・サイトに寄せられた橋本監督のコメントを、以下にまるごと引用する。

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「死霊の罠」の続編ということでオーダーを頂きましたが、自分としてはアメリカ映画風の表面的なホラーに興味がなく、怖いのは人間の内面で、どろどろとした情念こそ恐ろしい魔だという思いがあり、それを映像化しようと思いました。
全部が登場人物の生きることへの恐怖や屈折、挫折感からくる怨念、そのぶつかり合いで、それが悪夢のように展開されるように構成しました。

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 ……とのことで、まさにその言葉どおりの映画になっている。登場人物全員が何かしらの鬱屈やコンプレックスを抱えており、そこから救われるためにモラルから逸脱した行為(殺人、淫蕩、自傷等)に走るのだが、まったく救われることはなく、むしろ傷つけ合い、さらなる地獄に堕ちていく。もっとも打算のない純粋な人間同士の関係となりうる「親友」という単位も、ここでは歪んだ劣等感と優越感を育む温床でしかなく、醜いマウントの取り合いはやがて血まみれの破局を迎える。それこそが本当のヒューマニズムだと言わんばかりに。そんな全方位的に共感を拒むドラマであるがゆえに、「誰にも好かれない映画」になることも、もちろん覚悟の上だっただろう。

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 映画館で働く亜紀(中島唱子)は、夜の街頭で見かけた美しい女たちを毒牙にかけるシリアルキラーである。肥満体型にあらゆるコンプレックスを詰め込んだ寡黙な都市生活者(かつ孤独な殺人者)である亜紀の肖像は、ちょっと『ハサミ男』も想起させる。だが、過食症の人間がいくら食べても戻してしまうように、いくら女たちを殺しても他人の血肉は彼女のものにならない……。亜紀に殺される街娼の役でルビー・モレノが登場するが、殺害シーンは直接映さず、いわゆる普通のホラー映画的カタルシスは徹底的に排除される。映し出されるのは、ギラギラと光るネオンの下で行われる殺人にも無関心な街。

 テレビドラマの明るくチャーミングな印象とは正反対の陰々滅々としたキャラクターに扮する中島唱子の熱演が、本作最大の見どころと言っても過言ではない。ヌードもアクションも辞さない体当たりっぷりに目を見張る。ちなみに亜紀が働く映画館でかかっているのは、韓国の巨匠イム・グォンテク監督の『アダダ』(87年)。映画館には同監督の『キルソドム』(85年)のポスターも貼ってあり、2本とも日本では1993年に劇場公開された。

 亜紀の親友、といいながらねじくれた愛憎を彼女に抱き、常に劣等感と裏返しの優越感をぶつけてくる絵美(近藤理枝)のキャラクターも強烈だ。いくら外見的に勝っても、自分はゲスな業界ノリに染まった三流番組のレポーターでしかなく、亜紀の生来持つ魅力には敵わない……そんな屈折を全身から発散する近藤の力演に、観ているほうも辟易とすること請け合いだ(そういう狙いの芝居と演出なのだから、これは正しい)。ついには文字どおりの死闘に至る2人の関係性は、どこか『AKIRA』の金田と鉄雄にも似ている。

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 そこにさらなる混迷を生じさせるのが、佐野史郎の怪演である。『LSD ‐ラッキー・スカイ・ダイアモンド‐』に続いての橋本組となる本作では、絵美の不倫相手・倉橋役で、バブル景気に浸かったヤッピー風の色男として登場する。ハンバーガーをむさぼり食いながらセックスする『鉄砲玉の美学』(73年)のオープニングくらい分かりやすい飽食ニッポンイズムを生理的嫌悪感たっぷりに演じる珍場面を挟みながら、亜紀への偏執を募らせていくサイコパス演技はまさに怪優・佐野史郎の真骨頂。誰もいない映画館でぴょんぴょんシートを飛び回り、亜紀をいたぶる姿はもはや痛快。狂気すらも軽薄になっていった80年代末~90年代初頭にかけての時代に向けた、作り手の憎悪がすさまじい。

 さすがに池波志乃演じるカルト教祖のくだりは盛り込みすぎのきらいもあるが、1995年の地下鉄サリン事件以前に新興宗教のいかがわしさを描いた作品としては『教祖誕生』(93年)と並んで貴重ではある。ほかにも、きたろう、岩松了、大島蓉子、角替和枝といったバイプレイヤーたちの意外に豪華な顔ぶれにも驚かされるが、なかでも「普通に見えて実はいちばん恐ろしい」という役柄でいきなり場をさらってしまう平泉成がぶっちぎりのMVPである。

 これらの濃すぎる人間ドラマのなかに心霊ホラーの構造を組み込んだのは、おそらく共同脚本で参加した小中千昭の功績だろう。亜紀が映画館や殺人現場でたびたび目撃する謎の少年=ヒデキの影。その姿は絵美がレポートする死体発見現場のビデオ映像にも映り込む……。傍観者のようにも見えるし、殺しをそそのかす悪霊にも見える少年ヒデキは、多くの人が指摘しているが『呪怨』(00年)の俊雄くんによく似ている。さらに言うと『氷の接吻』(99年)の主人公ユアン・マクレガーの行く先々に出没する少女の幻影、あるいは『親切なクムジャさん』(05年)に登場する、誘拐・殺害されたときの格好のまま歳をとってしまった少年の亡霊(ユ・ジテ)にも佇まいが似ているかもしれない。亜紀にとっての悔恨と喪失感の源泉である点も含めて。そのほか『死霊の罠』1作目との共通性として、番組レポーターという設定、そして廃墟(厳密には建設現場)といった要素が押さえられている。

 クライマックス、誰もいない建設現場でやおら始まる亜紀VS絵美の対決シーンは、それまでのドラマをすべて吹き飛ばすほどのド迫力だ(やっぱり構造が『AKIRA』に似ている)。建設現場の建物自体はありものだろうが、気合の入った美術の作り込みがすごい。「えっ、こんな小規模な映画でそんなに大がかりでステージの多いセット組んで大丈夫なの!?」と心配になるくらいだ。廃墟そのものが映画の主役でもあった1作目への対抗意識が強かったのだろうか。

 美術を担当した沢田清隆(澤田清隆)は、ジャパンホームビデオ製作の『砂の上のロビンソン』(89年)にも参加しており、90年代には廣木隆一監督の『さわこの恋』(90年)や神代辰巳監督の『棒の哀しみ』(94年)などで美術を手がけている。現在もテレビドラマで活躍中だ。また、撮影の藤石修は、橋本監督とは『LSD ‐ラッキー・スカイ・ダイアモンド‐』と『帝都物語 外伝』(95年)でも組んでおり、その後は『踊る大捜査線』劇場版シリーズなどの撮影を手がけている。

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 ジャパンホームビデオの升水惟雄社長とともに、本作の製作に名を連ねている斉藤佳雄は、製作会社エイジェント21の代表取締役だった人物。同社は『クレオパトラD.C.』『DOMINION』(ともに89年)などのアニメ作品を主に手がけていた会社で、橋本以蔵が脚本を担当した谷村ひとし原作のOVA『ハイスクールAGENT』(87年)、そして橋本以蔵の監督・脚本作『cfガール』(89年)もプロデュース。『死霊の罠』1作目の併映作品『DOOR』(88年)もディレクターズ・カンパニーと共同製作している。『死霊の罠2』にエイジェント21のクレジットはないが、製作協力のギャラント・カンパニーは『DOOR』の企画協力も担っているので、おそらく近いところにあったプロダクションだろう。

 企画のクレジットには、国際映画社を経て、エイジェント21でアニメ作品のプロデュース・脚本を数多く手がけた藤家和正の名前もある。のちに彼が天沢彰名義で原作を手がけた劇場長編アニメ『ガンドレス』(99年)の脚本には、藤家とともに、本作の助監督を務めた伊崎健太郎も参加している。

 当時は中野武蔵野ホールでのレイトショー公開のみ(ずっとテアトル新宿だと勘違いしていた……関係者の方、すみません)。やはりビデオリリースのほうに主眼が置かれていたのだろう。バブル崩壊直後という時代の空気が、すさまじい嫌悪感とともにパッケージされたこの作品を、いよいよ我々は改めて直視するときが来たのではないだろうか。

●クラウドファンディング・サイト
MOTION GALLERY
「邦画スプラッター・ホラーの傑作
『死霊の罠』『死霊の罠2 ヒデキ』のブルーレイ化を実現させよう!」
https://motion-gallery.net/projects/cinema_donuts-001

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▲『死霊の罠2 ヒデキ』英国盤DVDジャケット

『死霊の罠2 ヒデキ』
エンドロール


キャスト/中島唱子、近藤理枝、佐野史郎、池波志乃、平泉成、角替和枝、大島蓉子、新井康弘、きたろう(友情出演)、榎本翔太(子役)、前田淳、岩松了、大久保了、晶衛里仁、坂入宏子、水戸部千希己、小野綾華、由良宣子、白川綾音、大島宇三郎、田辺年秋、小形雄二、梶原賢二、法嶋伸雄、坂井功、緑川美津、江鳥山佳子、早川プロ
大野剣友会

製作/升水惟雄、斉藤佳雄
企画/石井渉、藤家和正
プロデューサー/伊藤直克、藤田光男
脚本/小中千昭、橋本以蔵
音楽/阿部正也
音楽プロデューサー/高津芳治
撮影/藤石修
照明/居山義雄
録音/矢野勝久
美術/沢田清隆
編集/只野信也
助監督/伊崎健太郎
制作担当/山口謙二
特殊メイク/伊藤太一、木村明彦、三浦嘉子(A.T. Illusion)
操演特殊効果/神尾悦郎
記録/天池芳美
衣装/川口修治
美粧/庄司真由美
スチール/遠藤秀司
宣伝/水谷祐子
監督助手/芹澤康久、三輪勝司
撮影助手/笠告誠一郎、前田智、谷川創平
照明助手/細谷育男、東海林毅、溝渕健二、久保覚
録音助手/井上幸雄、藤本賢一、岩橋政志
美術助手/長谷川圭一、山浦克己、坂本朗、鈴木隆之
編集助手/福田千賀子
ネガ編集/橋場恵
効果/柴崎憲治
制作進行/香川智宏、鈴木和行
制作デスク/星野弘恵

《衣装協力》
衣装デザイン/長谷川貴子
AGGIE GREY'S

《美術協力》
パネット株式会社
アクアデザインテック
林建設株式会社
ABISTE
PENTAX
TOMY

《協力》
カネボウステージコスメティック株式会社
東映化学
日本コダック
映像サービス
三和映材社
高津映画装飾
山崎美術
東京衣装
日映美術
ニオステック
東宝映像美術
ランナーズ
東映東京撮影所AV事業部
サウンドボックス
アップルボーイ
アオイスタジオ

制作協力/ギャラント・カンパニー

監督/橋本以蔵

製作/ジャパンホームビデオ

(C)1991 ジャパンホームビデオ
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