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Simply Dead

映画の感想文。

JHV、ディレカン、『死霊の罠』

『死霊の罠』ブルーレイ化クラウドファンディング
勝手に応援企画その2

JHV、ディレカン、『死霊の罠』
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 ジャパンホームビデオとディレクターズ・カンパニー。映画『死霊の罠』を生んだ、ふたつの会社。前者は話題のドラマシリーズ『全裸監督』(19年/Netflix)でもスポットが当てられた黎明期のアダルトビデオ業界で、最も成功したビデオメーカーのひとつ。そして後者は日本映画界の新しい波を自ら生み出そうと荒海へ漕ぎ出した、若き映画作家たちによる独立映画制作集団。どちらも80年代の映像業界を語るうえでは外せない存在である。

 ジャパンホームビデオは、日本のアダルトビデオ最初期のメーカー「日本ビデオ映像」の設立メンバーだった升水惟雄によって、1984年に設立。1986年に「アリスJAPAN」レーベルを立ち上げ、人気女優を起用した数々のヒット作を世に放った。『死霊の罠』のメインキャストに、小林ひとみ、中川えり子という当時の人気AV女優が起用されているのも、その繋がりからだ。アダルト部門と並行して、一般作品の制作・販売を行う「JHV」というレーベルを設け、川尻善昭監督・菊地秀行原作のアニメ『妖獣都市』(87年)『魔界都市〈新宿〉』(88年)、実写作品『砂の上のロビンソン』(89年)などを自社制作。塚本晋也監督の『鉄男』(89年)をビデオリリースした会社としても思い出深い。

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▲初期JHVが生んだ傑作のひとつ、『妖獣都市』(87年)。2019年、待望のブルーレイがリリースされた

 一方のディレクターズ・カンパニーは1982年に設立。「既存の大手映画会社に頼らず、作家性と娯楽性を両立させた作品を企画・制作していく、監督中心主義の映像プロダクション」を標榜し、業界内外で大いに話題を呼んだ。参加監督は長谷川和彦、相米慎二、池田敏春、根岸吉太郎の元日活組に加え、自主映画出身の井筒和幸、石井聰亙、大森一樹、黒沢清、そしてピンク映画界で監督・プロデューサーとして活躍していた高橋伴明の9名。社長には博報堂社員だった宮坂進が就き、その同僚だった渡辺敦が企画や専属監督のマネージメントをつとめた。

 本格的長編第一作となった池田敏春監督の『人魚伝説』(84年)は、それこそ伝説的といえる予算超過&スケジュール遅延でいきなり会社の屋台骨を揺るがし(そもそも当初の目算が誤っていた説もある)、良くも悪くもディレカンという会社を象徴する一作となった。その後もディレカンは企業VPやCM、カラオケビデオや本番なしのアダルトビデオといった小さな仕事をこなしつつ、石井聰亙監督の『逆噴射家族』(84年)、相米慎二監督の『台風クラブ』(85年)『光る女』(87年)といった意欲作を次々と放っていく。が、興行的成功には結びつかず、さまざまな問題を抱えたまま1992年に倒産することになる。

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▲池田敏春監督作品『人魚伝説』(84年)。キングレコードよりブルーレイ・DVD発売中

 池田監督は渾身の一作『人魚伝説』の興行的不振にもめげず、アダルト作品やカラオケビデオといった長編以外の仕事も挟みながら、ディレカンの専属監督として活動。結城昌治の小説を『天使のはらわた』シリーズの石井隆が脚色したにっかつロマンポルノ『魔性の香り』(85年)、同じく石井脚本によるTVドラマ『夜に頬よせ』(86年/88年放映)を手がけた。そこに、ジャパンホームビデオから渡辺敦プロデューサーのもとに持ち込まれた企画が、『死霊の罠』として結実するのだ。

 ジャパンホームビデオは「オリジナルビデオ作品として売る長編のホラーもの」の製作をディレクターズ・カンパニーに依頼。JHVでは同じころ、かの悪名高きスプラッタービデオシリーズ「ギニーピッグ」を復活させ、日野日出志監督の『ザ・ギニーピッグ マンホールの中の人魚』、倉本和比人監督の『ザ・ギニーピッグ2 ノートルダムのアンドロイド』(ともに88年)をリリース。『死霊の罠』もその枠に入る予定だったのだろう。

 監督として白羽の矢が立った池田敏春は、石井隆脚本による『死霊の罠』という企画案を提出。これにOKが出て、製作が本格スタートする。

 低予算作品のため、ロケ地選びにも大きな制約があったが、ディレカン側のプロデューサー神野智(のちのツインズジャパン社長)が朝霞のキャンプ・ドレイク跡地を発見。池田監督と石井隆は現地の下見に赴き、その不気味なムードを買ってメインロケ地に決定。当時はまだほかの映画やテレビの撮影にも使われておらず、夜になると完全な真っ暗闇になるため、さしもの池田監督も「本当に怖かった」という。

▼『死霊の罠』ガールズの面々。上から小野みゆき、小林ひとみ、中川えり子、桂木文
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 ジャパンホームビデオ側は主演に売れっ子AV女優の小林ひとみを推したが、池田監督は面談の結果「主役には向かない」と判断し、別の主演候補を探すことに。そして「シガーニー・ウィーヴァーに雰囲気が似ている」という理由で、小野みゆきが抜擢された。池田監督の頭には最初から、本作の主人公のあるべき姿として『エイリアン』(79年)『エイリアン2』(86年)のシガーニー・ウィーヴァーのような「戦うヒロイン像」があったのだ。小野みゆきは池田監督直々の出演オファーを快諾。自前の衣装で撮影に臨むなど、並々ならぬ意欲で戦うヒロインを熱演した。一方、助演に回ることになった小林ひとみ、中川えり子も、ホラー映画のサブヒロインになりきってなかなかいい演技を見せている。厳しい池田演出の賜物だろうか?

 当初はビデオ用作品だった『死霊の罠』は、フィルムの出来の良さから劇場作品に格上げ(どの段階で決定されたかは不明)。同じくディレクターズ・カンパニーが製作した高橋伴明監督のホーム・インベージョン・スリラー『DOOR』(88年)と2本立てで、ジョイパックフィルム配給で公開された。このとき、池田監督はハードな撮影の疲れからか体調を崩して入院しており、公開中に劇場まで足を運ぶことはかなわなかった。初めて大きなスクリーンで観たのは10年後、アメリカで『死霊の罠』が上映されたときだったという。

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▲『死霊の罠』と同時公開された高橋伴明監督『DOOR』

 劇場での興行成績は芳しくなかったものの、『死霊の罠』はもともとターゲットにしていたビデオ市場で好調な売れ行きを記録。すかさずパート2の企画が立ち上がった。ディレカンの渡辺敦プロデューサーは、『DOOR』の助監督をつとめた平山秀幸の監督デビュー作として企画を進め、脚本に『人魚伝説』の西岡琢也を迎えてストーリーを練り上げていった。ジャパンホームビデオが所有するサイパンの寮を使ったロケーションも念頭に入れたシナリオは、いつしかブラックコメディの色合いを強めていき、純然たるホラー作品を求めていたジャパンホームビデオは製作から撤退。結局、この企画はディレカンが引き継ぎ、アルゴ・プロジェクト作品『マリアの胃袋』(90年)として完成する。

 一方、ジャパンホームビデオでは脚本家の橋本以蔵を監督に起用し、新生『ザ・ギニーピッグ』シリーズの第3弾を製作していた。しかし、1989年夏に日本中を騒然とさせた連続幼女誘拐殺人事件の影響でお蔵入りの憂き目に。翌90年に『LSD -ラッキースカイダイアモンド-』のタイトルでひっそりとビデオ発売された。そして、橋本監督が次に同社で撮ることになったのが、新たに仕切り直された続編企画『死霊の罠2/ヒデキ』(92年)であった。

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 『死霊の罠』で成功を収めたスプラッターホラーという命脈が、まさかの事件でいきなり絶たれてしまったJHVは、スプラッター以外のホラー路線を模索する。その結果生まれたのが、Jホラーの原点のひとつである小中千昭脚本・鶴田法男監督の『ほんとにあった怖い話』シリーズである。すべては歴史のなかで繫がっているのだ。

 池田敏春監督は、その後もジャパンホームビデオとの関係を晩年まで保ち続けた。JHVとディレカンが組んだオリジナルビデオ『ねっけつ放課後クラブ』(89年・全3巻)のVol.1とVol.3を監督したほか、『監禁逃亡 禁断の凌辱』(95年)をはじめとする『監禁逃亡』シリーズの3作品、新堂冬樹原作・竹内力主演の『無間地獄 凶悪金融道』二部作(02年)などを監督。また、竹橋民也名義で『監禁逃亡』シリーズや『痴漢の指』(98年)などの脚本作も数多く手がけた。よくあるエロVシネかと思ってよくよくジャケ裏のストーリーを読んでみると、猟奇殺人や異常心理といった池田監督好みのモチーフがじゃんじゃん盛り込まれていて楽しい。

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▲池田敏春監督作のひとつ、『監禁逃亡 性奴隷』(97年)

 しばらくしてディレカンを離れた渡辺敦プロデューサーとも、1991年の『女囚さそり 殺人予告』、1992年の『くれないものがたり』、1993年の『ちぎれた愛の殺人』、2004年の『ハサミ男』で仕事をともにしている。特に『ハサミ男』は池田監督が自ら集大成と語る入魂の一作であり、『死霊の罠』との共通点も少なくない。2人にとっては、ディレカン時代からの総決算といえる作品だったのではないだろうか。

(つづく)

●クラウドファンディング・サイト
MOTION GALLERY
「邦画スプラッター・ホラーの傑作
『死霊の罠』『死霊の罠2 ヒデキ』のブルーレイ化を実現させよう!」
https://motion-gallery.net/projects/cinema_donuts-001
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