Simply Dead

映画の感想文。

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『マーガレット』(2011)

『マーガレット』
原題:Margaret(2011)

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 ある日、自らの過失がもとで見知らぬ他人を死なせてしまった17歳の少女。その苦悩と葛藤を、上映時間150分という長尺を費やしてじっくりと見つめた骨太のヒューマンドラマ。監督・脚本を手がけたのは、アカデミー最優秀脚本賞・主演女優賞にノミネートされた『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』(2000)のケネス・ロナガン。『ピアノ・レッスン』(1993)のアンナ・パキンが等身大のリアリティをもって主人公を熱演し、その脇をマット・デイモン、ジャン・レノ、マシュー・ブロデリック、キーラン・カルキンといった錚々たる面子が固めている。

 本作はその内容以前に、公開までの複雑な道のりで有名になった。撮影は2005年に行われたが、そこから6年間もオクラ入りにされたのである。監督のロナガンは3時間バージョンでの公開を望んだが、製作会社のフォックス・サーチライトはこれを拒否。再編集を巡るゴタゴタが何年も続き、結局は『ユー・キャン・カウント~』や『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2001)でロナガンと仕事をしたマーティン・スコセッシが助っ人を買って出て、名編集者セルマ・スクーンメイカーとともに150分の劇場公開版を編集した。日本でDVDリリースされているのは劇場版で、アメリカで発売されたBlu-rayとDVDのカップリング盤には、3時間のディレクターズ・カットも収録されている。

 さらに、プロデューサーが製作費をスタジオに払えず訴訟問題となり、厄ネタとして放置されている間、同じく製作に名を連ねるアンソニー・ミンゲラとシドニー・ポラックが死去。結構な業を背負った作品であり、ストーリー的にもまた一筋縄ではいかない。ちなみにタイトルの由来は、劇中の1シーンに登場するジェラルド・マンリー・ホプキンスの詩「Spring and Fall」から。舞い散る落ち葉に悲しみを覚えるマーガレットという幼子に、語り手が「枯れゆくさだめは生きるものの営みであり、その悲しみはおまえ自身に向けられたものなのだ」と諭す、というような内容である。

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〈おはなし〉
 ニューヨークの私立高に通う17歳の女子高生リサ(アンナ・パキン)は、舞台女優の母親ジョーン(J・スミス=キャメロン)と、幼い弟とともに、マンハッタンで何不自由ない生活を送っていた。ある日、彼女は西海岸に住んでいる父親との旅行にテンガロンハットを被っていこうと思い立ち、ショッピングに出かける。その途中、リサはバスの運転手(マーク・ラファロ)がテンガロンハットを被っているのを見かけ、歩道から「素敵な帽子ね!」と声をかける。彼女の声が聞こえない運転手は、手を振って笑いかける。目の前に、横断歩道を渡ろうとする中年女性(アリソン・ジャニー)がいたことには気づかず。

 次の瞬間、バスは女性を真正面から轢き潰す。タイヤが脚を引きちぎり、大量の血が道路に溢れる。リサは絶叫し、慌てて女性のもとへ駆けつけ、その血まみれの体をかき抱く。出血多量のせいで意識が混乱した女性は、リサを自分の娘と勘違いしながら息絶えた。警官に事故の原因を訊かれたリサは、とっさに「被害者の女性が信号を無視したせいです」とウソをつく。それは不憫な運転手を守るためであり、自分を守るためでもあった。

 それからしばらく、リサはいつもと変わらぬ日常を取り戻そうとしながら、落ち着かない日々を過ごす。ディベートの授業で必要以上に激しい議論を展開したり、ボーイフレンド以外の同級生(キーラン・カルキン)に処女を捧げたり、事故後のPTSDを心配する若い教師(マット・デイモン)に色目を使ったり。最近、新しい恋人(ジャン・レノ)ができた母親との溝も、どんどん深まっていくばかり。

 良心の呵責に耐えかねたリサは、ついに真実を告白することを決意する。悪いのは、事故死した女性ではない。あのバスの運転手なのだ、と。リサは死んだ女性の親友エミリー(ジェニー・バーリン)のもとを訪ね、ふたりで訴訟を起こす手続きを始める……。

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 ……上記のあらすじを読んだ方も、そして実際に映画を観た方でさえも「一体なんでこんな話を2時間半もかけて描いてるんだ?」と思うのではないか。日本版DVDのジャケットには「心揺さぶられるヒューマンドラマ」とか「真実は、私の闇に光を与えた」といった文句が並んでいるが、全然そういう映画ではない。むしろ自分の中にある真実から目を背けるために、ものすごい勢いで目を曇らせる女の子の物語であって、ストレートな意味での感動作とはかけ離れている。では、これは何についての映画なのか?

 おそらく、これはブッシュ政権時代のアメリカについての物語である。主人公リサは、自らの過失が遠因となって起きた惨事(つまり9.11テロ)に胸を痛め、最初は自己嫌悪と罪悪感に苛まれるが、やがて精神学用語でいうところの「防衛機制」が発動すると、責任を他に求めて自己正当化を図る(つまりイラク戦争)。いかに自分が傷ついた人間であるかをアピールし、周囲を籠絡し、自らの罪を棚に上げて一方的な「正義の戦争」を繰り広げる。その内面は完全に混乱しているのだが、本人も自己欺瞞に溺れるうち、その嘘を自ら信じ込んでしまうのだ。ケネス・ロナガンは、ひとりの愚かな少女の言動を通して、この映画が製作された当時のアメリカの病理を浮き彫りにしてみせた。その愚かさを全身全霊で演じきったアンナ・パキンの熱演が凄まじい。もし本作が順調に公開されていれば、主演女優賞のひとつやふたつは間違いなく獲得していただろう。

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 ただ、先述のとおり本作は編集段階のトラブルで長らく塩漬けにされ、その間にアメリカはブッシュからオバマ大統領に政権交代。サブプライムローンやリーマンショックといった新たな社会問題が浮上し、他に責任転嫁するどころではなくなってしまった。だから今となっては、メタファーとして伝わりづらくなってしまった感は否めない。

 ドラマとしても、煮え切らなさが残る。ヒロインがひたすら保身と欺瞞と混乱にまみれていく展開は、長尺を感じさせないドライブ感に溢れ、すこぶる面白いのだが、物語の決着が明らかに弱い。それはとりもなおさず、製作時にはアメリカという国の行方がどうなるのか作り手にも見えなかったからだろう。しかし、中途半端な救済を描いて落とすくらいなら、途中でブチッと終わってしまってもよかった気がする(繋ぎ方がものすごく無感動なのは、スコセッシの意図だろうか)。あるいは、3時間のディレクターズ・カット版を観れば、また印象は変わるのかも?

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 ともあれ『マーガレット』は大変な意欲作である。ある時代の空気を切り取ったモニュメントとしても、また「罪から目を背けるという罪」を容赦なく描いた普遍的な人間ドラマとしても、多くの人の目に触れてしかるべき重要作だと断言できる。正直、いまの日本だって、本作が描いているものと大差ない、ロクでもない論法で動いていると思うから。

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DVD『マーガレット』


監督・脚本/ケネス・ロナガン
製作/ゲイリー・ギルバート、シドニー・ポラック、スコット・ルーディン
製作総指揮/アンソニー・ミンゲラ
撮影/リシャルト・レンチェウスキ
編集/マイク・フェイ、アン・マッケイブ
出演/アンナ・パキン、J・スミス=キャメロン、マーク・ラファロ、マット・デイモン、ジャン・レノ、ジェニー・バーリン、アリソン・ジャニー、キーラン・カルキン、サラ・スティール、オリヴィア・サールビー、マシュー・ブロデリック、ローズマリー・デウィット、ケネス・ロナガン
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