Simply Dead

映画の感想文。

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『武侠』(2011)

『武侠』(2011)

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 傑作。ドニー・イェン、金城武、タン・ウェイという豪華キャストを得て、ピーター・チャン監督が武侠アクションという香港映画伝統のジャンルに初めて挑んだ話題作。ド直球なタイトルから、極めてオーソドックスな王道復古的作品を連想するかもしれない。が、実際はおそろしくエキセントリックな語り口で観客を惑わす異色作に仕上がっていた。いわば『ヒストリー・オブ・バイオレンス』プラス『CSI:科学捜査班』ミーツ『片××殺×』、さらにホラー成分多めといった感じ。それでいて、過去作へのオマージュとリスペクトに溢れた武侠片としての醍醐味もしっかりと兼ね備えた、不思議な味わいの作品である。

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 映画の語り部となるのは、金城武が四川訛りで演じる捜査官スー・パイジュ。彼は、山奥にある平和で美しい村で起こった奇妙な事件の捜査にやってくる。村を訪れた指名手配中のならず者2人組が雑貨屋で強盗を働こうとしたところ、その場にいた平凡な紙漉き職人のリウ・ジンシー(ドニー・イェン)との乱闘の末、2人とも打ちどころが悪かったのか偶然死に至ったというのだ。ジンシーはたまたま悪者を退治した村の英雄として讃えられるが、パイジュは一介の紙漉き職人が“偶然”札付きの凶悪犯を倒せるわけがないと疑問を持ち、独自に調査を開始する。

 過去にあった事件がもとで「善人などいない。人間性など信じない」を信条とするパイジュは、わずかな状況証拠や医学的知識をもとに、実はジンシーがクンフーの達人であり、恐るべき殺人スキルの持ち主であると推測する。その推理は、ほとんど妄想と言っていい飛躍に富んだ映像として描写される。秒間500フレームの撮影を可能にするハイスピードカメラ「Phantom」を使った超スローモーション映像で映し出される致命的打撃の瞬間。さらに、CGを使って人体内部に視点がギュイーンと潜入し、脳への衝撃派、血管が詰まる様子、心臓の鼓動が止まる瞬間がリアルに視覚化される。ただし、それは完全にパイジュの脳内シミュレーション映像であり、観客にとってはおそろしく信憑性の希薄なものだ。はたして彼は本当に推理の天才なのか、それとも見た目どおりの単なる粘着質の妄想狂でしかないのか?

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 『武侠』前半は、そんな奇妙な味わいのサスペンス・ミステリーが延々と展開する。普通のアクション映画を期待していた人は、正直かなり面喰らうだろう(やや辻褄が合わないところもあったりするし)。平凡な善人に見えて実は恐ろしい使い手かもしれないジンシーと、勝手な推理を振りかざす狂人に見えて実は禁忌の扉をこじ開けようとする愚か者なのかもしれないパイジュ。彼らが暗い森の中でふと2人きりになるくだりは、けっこう本気でゾッとさせられる。緑濃い森の薄闇を美しく捉えた映像とも相まって、ほとんどホラー映画並みのスリルが味わえる鮮烈な場面だ。

 かようにピーター・チャン監督は、観客を煙に巻く妄想ミステリー劇と、著しくツイ・ハーク化の進んだひねくれた演出で観客を翻弄するが、かといって単に奇をてらった内容のままでは終わらせない。延々と溜めに溜め、やっとアクション映画としてのドラマが動き出す中盤以降、映画は「本格武侠片」としての輝きを猛烈に放ち始めるのだ。そこからの物語展開は、あえて秘すことにしよう。「忘れた頃にやってくるカタルシス」が本作の要であり、そこをバラしてしまったら楽しめないからだ。後半「そうか、これってあの映画のリメイクだったんだ!」と忘れた頃に思い出すシーンも死ぬほどカッコいい(ということは続編があるということだ)。幸い、日本での劇場公開も決まっているようなので、ぜひ映画館でシビレてもらいたい。

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 映画のターニングポイントとなるのが、かつて武侠映画のスターとして君臨したジミー・ウォング御大の登場シーンであるという構成の妙に、作り手のジャンルに対する深い愛情と理解、リスペクトを感じずにはいられない。そこに、女性クンフースターとして一世を風靡したベティ・ウェイ(クララ・ウェイ)の姿があるのも、ファン泣かせの嬉しい趣向だ。この両者が単に顔見せ的な登場に終わるのではなく、主演スターのドニー・イェンと互角の勝負どころか、風格も鬼迫も遥かに上回るアクションをしっかり繰り広げてくれるのが素晴らしい。いや、素晴らしいとか思う余裕もないほど、ただひたすら圧倒的である。

 ド兄ィ=ジンシーが初めてその実力を村人たちの前で発揮し、ベティ・ウェイ演じる刺客と激しい対決を繰り広げるシークェンスは、それまでのヘンテコ展開から急激に舵を戻すようなドライブ感とも相まって、超絶にアガりまくる屈指の名場面だ。何よりベティ姐御が昔と全然変わらないスピードとキレの良さでガンガン動けることに涙が止まらなくなる(今でもビックリするほど超美人だし)。村のど真ん中にある広場で始まり、家々の瓦屋根伝いに移動して、狭い牛舎内での近接戦闘に至る場面内でのバリエーションの豊かさも秀逸だ。

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 そして、ジミー・ウォング大先生におかれましては、もうマジでションベンちびるくらい恐い。ほとんど『地獄の黙示録』のカーツ大佐のごとき大迫力である(ムチャクチャ動くけど)。10年ぶりの映画出演となるジミー先生をここまで恐ろしく撮ったというだけで、ピーター・チャン監督は尊敬に値する。この人が怒ったり笑ったり咆哮したりするたびに、なんの理由もなく一陣の風が吹き抜けても「うん、まあ、風吹くよな」と納得させられてしまう。

 クライマックスのジミー御大とド兄ィの激闘シークェンスは、まさか本当に観られるとは思わなかった奇跡のカードの実現というスペシャル感に打ち震えつつ、ほとばしる重厚なドラマ性、そして本物の殺気にも「震え」が走る。そこだけ何度も繰り返して観たい名勝負、というのも通り越して、いちど観たらしばらくは恐ろしくて再見できないと思ってしまうくらいヘヴィーな真剣勝負が繰り広げられるのだ。また、アクションに移行する前、ふたりが会話するシーンの緊張感も凄まじい。そこでジミー御大が見せる壮絶な表情芝居は、まさに「本物」の凄みとフリーキーな異様さに満ちていて圧巻。10年間も役者業から離れていたとは到底思えない、エモーショナルな演技を炸裂させている。

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 ついつい本作について語りだすとジミー・ウォングとベティ・ウェイの話題に偏ってしまうが(それくらい“格の違い”というものを見せつけてくれる)、他のキャスト陣の演技も十分に素晴らしい。特に、金城武の名演は特筆ものだ。論理的でありつつ歪んだ心の持ち主であるスー・パイジュという複雑なキャラクターを、真剣さとおかしさの混じり合う微妙なさじ加減で魅力的に演じ、作品の牽引役としての役割をしっかり果たしている。彼の台詞回しが面白い作品でもあるので、まずはオリジナルの北京語版で観るのがベターだろう。

 ドニー・イェンは『イップ・マン 序章』(2008)で掴んだ一見優しくて寡黙なキャラクターという得意の役柄をさらりと好演。アクション監督としてもノリにノッている感じで、広場でのダイナミックな戦闘から、狭い家屋内での趣向に富んだ動作設計まで、タイトル負けしない見応えあるアクションシーンの数々を構築している(我らが谷垣健治さんも凶悪犯コンビの片割れ役で大活躍!)。ジンシーの妻アユウを演じるタン・ウェイの清楚な美しさも見どころ。彼女を眺めているだけでも入場料の元は取れる。

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 溜め息が出るほど美しい山村の情景を捉えたジェイク・ポロック&ラウ・イウファイの撮影、緻密なリアリティと趣深さを兼ね備えたイー・チュンマンの美術、時代劇らしさにとらわれないロック調の音楽(『孫文の義士団』で組んだピーター・カム&チャン・ クォンウィン)も、鮮烈な印象を残す。ただし、部分的にチャカチャカした編集のめまぐるしさは、好悪の分かれるところだろう。ぼくは香港盤Blu-rayで観たのだが、収録されていたメイキング映像などを観ると、どうやら撮影したのにカットされたシーンも少なくないようだ(ジンシーと妻のなれそめを描く場面など)。まだ日本公開もされてないのに気が早いと思うが、もし全長版が作られるなら凄く観てみたい。

(追記:2012年4月に『捜査官X』のタイトルで劇場公開。同年11月にBlu-ray・DVDリリース)

・Amazon.co.jp
『捜査官X』Blu-rayDVD


製作・監督/ピーター・チャン
脚本/オーブリー・ラム
撮影監督/ジェイク・ポロック、ラウ・イウファイ
美術/イー・チュンマン
音楽/ピーター・カム、チャン・クォンウィン
出演/ドニー・イェン、金城武、タン・ウェイ、ベティ・ウェイ、ジミー・ウォング、谷垣健治
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