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映画の感想文。

『八道の男』(1969)

『八道の男』
原題:팔도 사나이(1969)
英語題:Gallant Man

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 おなじみKMDB(韓国映画データベース)の月替わり無料動画配信コーナー、2011年6月のテーマは「ギャングスター映画の情熱的な男たち」。その中の1本としてセレクトされている本作『八道の男(パルドサナイ)』は、60~70年代にアクション俳優として名を馳せたチャン・ドンフィ主演の大ヒット作だ。タイトルの「八道」とは、李氏朝鮮時代に置かれた8つの行政区画(道)に由来し、朝鮮全土という意味をもつ。監督は『実録キム・ドゥハン』(1974)や『韓国版 大阪代理戦争』(1980)など、侠客アクションものを数多く手がけたキム・ヒョチョン。

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〈おはなし〉
 日帝時代の京城(現在のソウル)。町いちばんの腕っぷしの強さで知られる「ソウルの虎」ことホ(チャン・ドンフィ)は、義侠心に厚く、弱い者いじめを許さない頼れる男。その噂を聞きつけ、全国から多くのヤクザ者がやってきては彼に対決を挑んでくる。だが、幼い頃から武術を学んできたホの前に敵う者は、誰もいなかった。やがて、ホの周りには“仁川の雷”(トッコ・ソン)や、“光州のヨンパル”(パク・ノシク)など、彼を慕う舎弟たちが身を寄せ合うようになる。

 ある日、ホは傍若無人な日本人ヤクザの阿部(ホ・ジャンガン)を懲らしめたため、憲兵に逮捕される。投獄されている間、育ての親のおじいさんが火事で死んでしまい、ホは横暴な日本人への怒りを新たにする。しばらくして、ホと仲間たちは宴会中に憲兵隊の襲撃を受け、舎弟たちは全員監獄送りに。ホは彼らの身代わりとなって単身収監される。激しい拷問に耐え、空手家や剣道家たちとの練習試合にも打ち勝ち、ようやく解放されるホ。

 その頃、町ではホの不在をいいことに、日本人ヤクザたちが我が物顔で振る舞っていた。阿部は、ホの義理の妹であるソニ(テ・ヒョンシル)を拉致して殺し、挑戦状を叩きつける。ついに堪忍袋の緒が切れたホは、仲間たちを引き連れて決闘の場へと赴くのだった。

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 近代朝鮮史に詳しい方ならすぐに分かると思うが、本作の主人公は実在の人物キム・ドゥハンをモデルにしている(詳しくはWikipediaを参照)。少年時代は浮浪児として苦しい生活を送りながら、18歳にして約3万人ともいわれる構成員を率いる侠客団の頭目となり、反日運動に邁進。解放後には政治家・活動家として破天荒な活躍を繰り広げ、国民から絶大な支持を得た。彼のドラマティックな生涯は、前述の『実録キム・ドゥハン』や『侠客キム・ドゥハン』(1975)、そしてイム・グォンテク監督の『将軍の息子』シリーズ(1990~)などの映画でも描かれている。

 本作『八道の男』では、孤児として暮らしていた主人公が親切な老人の家に引き取られ、日本人の悪ガキども(その中には、のちに宿敵となる阿部もいる)にいじめられたのをきっかけに武術を習得し、やがて全国一の強さを誇る男として仲間を増やしていく。そんな男の一代記が、日帝時代のノスタルジックな雰囲気のなかで情感豊かに描かれる。アクションものというよりは、むくつけき男たちが熱い義侠心と友情で結ばれていく姿に焦点を当てた、任侠ドラマとしての面白さで見せていく作品だ。

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 チャン・ドンフィは、マッチョな貫禄と思慮深さを兼ね備えた表情で、絵に描いたような「男の中の男」を説得力十分に演じている。また、それぞれにキャラの立った舎弟たちを演じるトッコ・ソン、オ・ジミョン、パク・ノシクらのにぎやかなアンサンブルも楽しい。中でも、パク・ノシクが全羅道(チョルラド)訛りでコミカルに演じた“光州のヨンパル”(日本でいえば吉幾三的なキャラクター?)は、当時の観客から絶大な人気を集め、続編『帰ってきた八道男』(1969)と『怨恨の八道男』(1970)では主役に格上げされた。その後、パク・ノシクは「ヨンパル」シリーズを独自に継続し、彼のキャリアを代表する当たり役となった。

 日本人ヤクザ・阿部を憎々しく演じるのは、韓国の宇津井健ことホ・ジャンガン。彼はヒーロー役や善人役なども数多く演じているが、当時の韓国の売れっ子映画俳優は、悪玉だろうが善玉だろうが主役だろうが端役だろうが何でもやっていた。阿部の親分・木村を演じているのは、韓国アクション映画には欠かせない名物俳優ファン・ヘ。クライマックスでは長ドスを手に、チャン・ドンフィを相手に躍動感溢れる殺陣を見せてくれる。また、日本人にちょっかいを出されていたところを主人公に助けられるヒロイン役は、近年『詩』(2010)が大きな話題を呼んだ人気女優ユン・ジョンヒ。そして、主人公と実の兄妹のように育ったソニ役で、テ・ヒョンシルがキュートな魅力を振りまいている。

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 ただし、本作をアクション映画として観た場合、今の観客の目からは物足りなく映るだろう。韓国映画界に本格的な格闘技アクションが導入されるよりも前の時代に作られた作品だからだ。基本的に、立ち回りのシーンは単純な殴る蹴るの応酬に大げさな効果音を被せ、カメラワークや編集でごまかしたものである(日本でいう日活アクションみたいなものだ)。のちにアジア全土を席巻したブルース・リーの登場をきっかけに、韓国でもイ・ドゥヨン監督が『龍虎対錬』(1974)から本物の武術家を起用してテコンドーアクション映画ブームを開拓していくわけだが、『八道の男』は旧来の様式的アクションをただ応用しているに過ぎない。とはいえ、出演者の中ではもっとも動きにキレと力強さがあるパク・ノシクのダイナミックな立ち回りや、ロングショットを巧みに使ったクライマックスの演出などは、なかなか見応えがある。

 韓国映画黄金期を支えた人気俳優のひとりであるチャン・ドンフィは、1920年に仁川で生まれた。彼は1957年、キム・ソドン監督のリメイク版『アリラン』に主演し、37歳にして映画デビュー。その後、イ・マニ監督の『帰らざる海兵』(1963)で演じた人間味溢れる小隊長役が高く評価され、「頼れる兄貴分」というイメージで観客に親しまれた。『八道の男』は、チャン・ドンフィがアクションスターとしての名声を確立した最初の作品だが、彼自身は特に肉体的アクションに秀でていたわけではない(どちらかというと立ち回りは不得手に見える)。その男くさい表情やどっしりした存在感が「男性アクション映画の顔」にぴったりだったのだ。

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 本作『八道の男』は、1967年に公開された映画『八道江山(パルドカンサン)』の大成功を受けて始まった「八道もの」の1本でもある。『八道江山』は、ある老夫婦が全国各地に住んでいる8人の娘たちを訪ねて旅をする姿を描いた観光映画型のヒューマンドラマであり、高速バスで颯爽と韓国全土=八道を縦断する老夫婦の目を通して、韓国の近代化と産業発展を謳い上げたプロパガンダ映画である。1960年代後半の京釜(キョンブ)高速道の開通によって「全国一日生活圏」というスローガンが掲げられた、当時の韓国の社会背景が反映された作品だ。『八道江山』の作り上げた物語の骨子と、プロパガンダ映画としての発想・スタイルは、例えばイ・ドゥヨン監督の『昼と夜』(1984)などにもそっくり引き継がれている。『昼と夜』では、老校長夫妻の世界一周旅行を追うかたちで、世界各地のさまざまな分野で活躍する韓国人たちの姿が映しだされる。

 タイトルに「八道」を冠した『八道江山』の便乗作品は、コメディやドラマなど多彩なジャンルで作られた。その中で最も大きな商業的成功を収めたのが、アクション活劇として作られた本作『八道の男』であった。ここでは“ソウルの虎”を筆頭に、“光州のヨンパル”やら“平壌のパク”やら“仁川の雷”といった全国各地の侠客たちが一堂に会する。団結心と民族意識のもとに国力を結集し、外敵に立ち向かうというわけだ。のちのシリーズでは、これらの御当地キャラクターがさまざまなシチュエーション(時代背景・舞台設定)で悪と戦うというパターンが繰り返される。その後の続編やスピンオフ作品も、いつかまとめて観てみたい。

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・SCRIPTVIDEO
DVD『八道の男』(韓国盤・リージョンオール・字幕なし)


監督・脚色/キム・ヒョチョン
脚本/ピョン・ゴヨン
撮影/キム・カンヒョク
照明/コ・ヘジン
音楽/ハン・サンギ
編集/チャン・ヒョンス
出演/チャン・ドンフィ、パク・ノシク、ユン・ジョンヒ、テ・ヒョンシル、トッコ・ソン、ファン・ヘ、ホ・ジャンガン、チェ・ナムヒョン、チェ・チャンホ
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