Simply Dead

映画の感想文。

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『レバノン』(2009)

『レバノン』
原題:Lebanon(2009)

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 2009年の第66回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を獲得したイスラエル映画。アリ・フォルマン監督の秀作『戦場でワルツを』(2008)でも描かれた、1982年のイスラエル軍によるレバノン侵攻を題材にした戦争映画である。監督・脚本を手がけたサミュエル・マオスは、レバノン戦争当時、実際に戦車兵として従軍しており、その実体験をもとにこの映画を作ったそうだ。日本ではあと1ヶ月もしないうちにDVDが発売されてしまうが、現在、シアターN渋谷1館のみで果敢に劇場公開中(ただしDLP上映、しかも通常料金なのが微妙だけど)。

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 映画はレバノン戦争の開戦初日に駆り出されたイスラエル軍の戦車兵4人の姿を描く。登場するのは、いずれも実戦経験がなく、優柔不断だったり反抗的だったり臆病者だったり、兵士としては未熟な連中ばかり。カメラは戦車の中からほとんど外に出ず、外界の様子は照準スコープを通してしか映されない。いわゆる密室劇の一種である。装甲に隔てられた外の世界で何が起こっているのか分からない不安、あるいは現実感覚の乏しさは、一体なぜ自分たちがレバノンで戦っているのか分からないイスラエル人兵士の率直な心境をそのまま象徴してもいるのだろう。劇中で「どうしてレバノンにシリア人がいるんだ?」という台詞が出てくるように、兵士たちの全てがこの戦争の状況を把握していたわけではなかった。そして、眼前で自分たちの戦闘によってレバノン市民の生活が蹂躙されていくさまを見つめながら、それを奇妙に白日夢めいた光景としてしか認識できない歯痒さも、兵士たちのリアルな心情として描かれる。泣き叫ぶ女性や家族を失った子供、怒りに満ちた老人の表情を前にしても、彼らにはどうすることもできない。『戦場でワルツを』にも通じる描写だ。

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 イスラエル人(国家ではなく)にとってのレバノン戦争、ひいては、不条理な政治的紛争とそれに利用される個人という関係すべてについて、さまよう戦車兵たちの1日のドラマを通して暗喩的に描くというアイディアは特筆ものである。しかし、本作はそのアイディアに足を取られすぎたのか、先に述べた文章ひとつで表現できてしまう“コンセプト”以上の何かが足りない(とはいえ、この映画も監督の“リアル”な戦争体験に基づいているという事実はあるのだけれども……)。例えば映画としての豊かさ、観客を画面に引きずり込むパワーとかいったものがあるかというと、はっきり言ってかなり弱い気がする。

 もし『プライベート・ライアン』(1998)とか『ブラックホーク・ダウン』(2001)的な、観る者の体を揺さぶるような臨場感や緊張感を求めた場合、この映画はまったくその期待に応えないだろう。実際、僕が観に行った時は、映画が終わった瞬間に「くだらねえ! 期待はずれだ!」というオジサンからの怒号が飛んだ。ある程度、どんな映画であるか予習してから観に行った方がいいかもしれない。むしろ、緊迫した状況下にありながら事情を把握できないことの不安、気がついたら生命の危機に追い込まれていると知った時の恐怖、閉鎖空間の中でだんだんと正気を失っていく過程を描く心理スリラー的戦争映画といった方が近い。

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 1本の映画として観た時、正直ちょっと退屈なところが多いのは、舞台となる戦車という密室の捉え方があまり面白くないからだと思う。かなりの低予算で作っているだろうから無理も言えないのだけど、せめてもう少しグラフィカルに表現するとか、その空間の特殊性を表す上で何かハッとするような演出を用意するとか、映像的な色気を加味してもよかったのではないか。それに「戦車内の描写と、戦車から見た視点だけで構成する」という作り手自身の設けたルールが、あまりに窮屈で限定的な印象を与えてしまうのもマイナス。同じく超低予算・コンセプト優先の戦争映画『リダクテッド/真実の価値』(2007)ぐらい、映画のウソを前提とした自由闊達さがあってよかったと思う。本作にも「戦車兵がヘルメットもゴーグルもなしで任務に就くか?」とか「動いてる状態の戦車のスコープからそんな見え方するか?」とか、ウソくさい部分は幾つも出てくるのだけど、それらは表現を豊かにするための映画のウソというより、構図の凡庸さも相まって、単に雑なだけじゃないかという感が否めない。

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 もちろん、ヴェネチア映画祭の審査員たちがそうだったように、優れたコンセプトと志の高さで十分にこの映画を評価できる人もいるだろうし、不透明な状況下で混迷を深めていく兵士たちの脂汗べっとりの心理ドラマに感情移入する人もいるだろう。ただ、ド派手な戦争アクション大作のようなポスタ?と、ヴェネチア国際映画祭グランプリというアオリに惹かれて観に行くと、肩すかしを食らう可能性は高い。何より、この映画もまた『戦場でワルツを』と同様、イスラエル人側の「俺たちもよく分かってなかったんだ」という自己弁護的な匂いを感じさせたままに終わってしまうところが、最大の弱点だ。

・Amazon.co.jp
DVD『レバノン』


監督・脚本/サミュエル・マオス
撮影/ジオラ・ビヤック
編集/アリク・ラーヴ=リーボヴィッチ
音楽/ニコラス・ベッカー
出演/ヨアヴ・ドナ、イタイ・タイラン、オシュリ・コーエン、ミハエル・モショノフ、ゾハー・ストラウス
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