
9月のシネマヴェーラ渋谷の特集「妄執、異形の人々」で観てきました。『吸血鬼ゴケミドロ』(1968)の佐藤肇監督による、ブラックな笑いに満ちたスリラーの秀作。主演は西村晃。一般的にはTV「水戸黄門」の黄門様でおなじみですが、その本分はやはり“怪優”。個人的に一番好きなのは今村昌平監督の『果しなき欲望』(1958)です。『ルパン三世』(1978)のマモー役とかも演ってます。チラシの作品紹介文にあった「日本のロン・チェイニー」という形容はぴったり(笑)。
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〈おはなし〉
しがないタクシー運転手の麻見(西村晃)は、グラマーな妻・すぎ江(春川ますみ)の浮気性に悩んでいた。彼は嫉妬のあまり妻を殺し、霊柩車に死体をのせ、浮気相手の政治家(曽我廼家明蝶)や医師(金子信雄)のもとを訪ねて回る。麻見のただならぬ気迫におびえた男たちは、なんとか金で解決しようとするが、実はすぎ江は生きており、全ては夫婦の仕組んだ狂言だった。しかし、事態はやがて思いも寄らぬ方向に転がり始める……。
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全編これ西村晃のアイドル映画みたいなもので、不気味だったりキュートだったり変な動きしたり(笑)、彼のミリキがたっぷり堪能できます。映画の後半で唐突に歌いだす場面も素敵。
脇を固める顔ぶれも非常に楽しくて、特にいいのが、霊柩車の運転手を演じる渥美清。後の『男はつらいよ』の押し付けがましさとはかけ離れた、クールな佇まいで映画を引き締めています。この映画での演技を見ていると、「ああ、本当に戦後初めて現れたタイプのコメディアンだったんだな」と痛感します。人の闇を見透かす者がこれほど似合う役者はいません。西村・渥美の奇妙な掛け合いだけで、霊柩車が延々と走り続けるロードムービーが見たかったと思うほど。
悪妻をコケティッシュに演じる春川ますみもナイス(彼女もやっぱり今村組のヒロイン)。西村・春川の夫婦が病院に死体を捨てに来るシーンが面白くて、守衛が加藤嘉と小沢昭一、モルグの見回りやってるのが浜村純という、名バイプレイヤーしかいない病院(笑)。出演陣だけ見るとホントに今村作品のようですが、佐藤肇の演出にはぎらついた暑苦しさはなく、適度にブレーキが利いてます。怪奇映画らしい涼しさというか……その点では『ゴケミドロ』ともまた違った感触。
「狂った怪作」とか「封印必至の突然変異」とかいうよりは、全編を通して思った以上にウェルメイドな出来。日本映画でこれほど「残念な方向に流れない」怪奇風味のユーモアスリラーというのは珍しく、やはりレアな作品と言えます。当時としても、観る人が観ればかなりの拾い物だったはずなんだけど……。
製作/東映
監督/佐藤肇
原作/樹下太郎
脚本/松木ひろし、藤田傅
撮影/西川庄衛
美術/進藤誠吾
音楽/菊池俊輔
出演/西村晃、春川ますみ、渥美清、金子信雄、曽我廼家明蝶、岡崎二朗、宮園純子、浜村純、加藤嘉、小沢昭一、花澤徳衛

