Simply Dead

映画の感想文。

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『肉体の門』(1981)

『肉体の門』
原題:육체의 문(1981)
英語題:The Door to the Flesh / The Gates of Flesh / Lost Corpse

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 キム・ギヨンが自身の製作会社「新韓文芸映画」でプロデュースした、韓国では珍しいスラッシャーホラー。監督はこれがデビュー作となったイ・ギファン。同じく本作で主演デビューを飾った新人女優の名は、キム・ヘスク。今では母親役を得意とするベテラン女優であり、パク・チャヌク監督の『渇き』(2009)では姑役を大迫力で怪演して強烈なインパクトを与えた、あのキム・ヘスクである。彼女は韓国恐怖映画の古典『殺人魔』(1965)をリメイクした怪作『キラー・レディ/首なき殺人』(1985)にも主演しており、ホラージャンルとはキャリアの初期から縁深かったようだ。

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〈おはなし〉
 マネキンの結髪の仕事をしているヘスク(キム・ヘスク)は、職場の女友達と飲み会を開いたり、ボーイハントにいそしんだりと、都会の自由な生活を満喫している。ある時、友人のひとりが結婚することになり、それに刺激されたのか周りの友人たちも経済力のないボーイフレンドを捨て、裕福な男との結婚に走り始める。が、どこか不気味な男と結婚した友人のひとりが、ハネムーン中に夫によって惨殺され、彼もまた飛び降り自殺をはかるという痛ましい事件が起きる。

 ヘスクは恋人の勤め先でもある法医学研究室で、殺された友人の遺体と対面。そのとき、同じく検視台に横たわる自殺した友人の夫の姿を見て、彼女は言いようのない恐怖を覚えるのだった。しばらくして男の遺体が忽然と消え、ヘスクの周囲で残忍な連続殺人事件が続発。ひとり、またひとりと友人たちの命が奪われ、ついに犯人の魔手はヘスクにも迫ろうとしていた……!

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 この映画に登場する女性は、平気で男を捨てたり、打算的な結婚をしたり、恋人がいるのに金のために愛人と寝たりする「いけない娘たち」として描かれる。そんな彼女たちに対して、マッチョな殺人鬼が地獄の淵から蘇ってきて制裁を加えるというわけだ。ラストシーンでは『キャリー』(1976)風のオチがついたあと、ヒロインの恋人が画面に向かって指差して「女たちよ、気をつけろ! 次はお前の番だー!!」みたいなことを叫んだりする。韓国的マチズモに染まりきった男性の立場から放たれる全女性への「説教」であり、「あんまり男のことをバカにすんなよ!」という切実かつ情けない叫びでもある。ホラー映画(特にスラッシャー)においては、性に奔放な女性に対する「お仕置き」的なニュアンスが入りがちだが、ここまでハッキリ言い切った作品も珍しいのではないか。身も蓋もないというか、なんというか。

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 今なら問題になりそうな偏った性意識と女性への悪意に満ちていながら、その姿勢がホラーとしては上等ないかがわしいムードを醸し出してもいて、なかなか捨て難いものがある。傑作などとは口が裂けても言えないが、全編に漂うスリージーな雰囲気と、厳しい表現規制のなかで懸命にスラッシャーホラーを作ろうとするイ・ギファン監督の情熱と心意気は買える。『バーニング』(1981)よろしく女の喉くびにハサミを突き立てるカットもあるし、水槽に生首が転がっているショックシーンは『サイレント・パートナー』(1978)からのいただきか。法医学研究所のモルグを舞台にしたクライマックスでは、遺体にかけられたビニールシートが扇風機の風で次々に剥ぎ取られていく幻想的な場面や、原色照明を巧みに使った廊下での緊迫感溢れる追っかけシーンがあったりと、かなり頑張っている。

 特筆すべきはハン・サンギによる音楽。リズムトラックやドラムマシンのループを使って独特の無機質なリズムを全編にあしらい、やたらとテンポのいい語り口と相まって観客を(半ば無理やり)ストーリーに引き込んでいく。キム・ギヨン監督の『ヌミ』(1979)でも同じような手法がとられていたが、その応用とも言える。

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 不死身で神出鬼没という殺人鬼の設定はまるっきり『ハロウィン』(1978)のマイケル・マイヤーズ。しかし、本作ではビルから飛び降りて死亡確認されても生き返り、拳銃で撃たれても蘇ってきて、終いには家の鏡をぶち破って出てくるという『ファンタズム』(1979)のトールマン並みの活躍を見せてくれる。タクシーの上にしがみついて、車中のヒロインに襲いかかったりするスタントアクションもあり。

 苦虫を噛み潰したようなコワモテと珍妙なヘアスタイルのミスマッチが強烈なインパクトを与える殺人鬼を演じるのは、チャン・イルシク(張一植)。元々はアクション俳優で、イ・ドゥヨン監督の『武装解除』(1975)にも出演しており、チョン・モン(張莽)という別名でも知られている。とにかく本作は、この人の見た目の怖さだけでホラー映画として十分に元がとれる。最初に普通のおじさんとして出てきた瞬間からムチャクチャおっかないんだもの。

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 これがデビュー作のキム・ヘスクは、正統派の美人ではないものの、この頃からすでに独特の可愛らしさを放っていて魅力的。小悪魔っぽいヒロインを表情豊かに瑞々しく演じていて、少なくとも『キラー・レディ』よりは断然イキイキして見える。後半のスクリーミング・クイーンっぷりが素晴らしく、そこからは俄然美人に見えてくるのが不思議(ちょっとユ・ジインに似てるなーと思う瞬間もあったりする)。

 ヒロインの恋人を演じたのは、のちにキム・ギヨン監督の『肉食動物』(1984)で主人公の息子を演じたり、『馬鹿狩り』(1984)でも主役のひとりを演じたキム・ビョンハク。『自由処女』(1982)に出演した石立鉄男似のキム・ウォンソプも端役で顔を見せる。

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 主演のキム・ヘスク、相手役のキム・ビョンハク、そして殺人鬼役のチャン・イルシクも含め、ことごとく美男美女ではない、どこかリアルな生々しさが漂う容貌の俳優ばかり選んでいるキャスティングには、作り手の明確な意図が感じられる。一見すると女性蔑視的な内容だが、よく見ると女性にも男性にも等しくシニカルで突き放した視線が向けられており、その上で意識的に偏ったジェンダー論を展開して、諷刺的な空気を作ろうとしている。恋人がいながら中年のパトロンとの関係を引きずるヒロインに対しても、いいか悪いかの結論づけなどはしていない(と思わせて、ラストで「倫理的に」制裁が加えられるあたり、ホラージャンルへの逆説的なパロディにも見えなくもない)。また、殺人鬼の執拗な追跡から命からがら逃げてきたヒロインが、いきなり欲求不満の恋人に無理やり犯されてしまうという展開では、男の一方的かつ暴力的な欲望がハッキリと醜悪なものとして描かれている。

 その生々しさとシニカルなムードも、この映画のちょっとした魅力だが、イ・ドゥヨン監督の『鬼火山荘』(1980)のパワフルな性的優位性の逆転には完璧に負けているのもまた事実だ。イ・ギファン監督は翌年に『他人の巣』(1982)というメロドラマも撮っていて、これもやはり同じようなスキャンダラスな匂いをもった作品らしい。夫の不能のせいで結婚生活がうまくいかなくなったヒロインが、夫の同僚と駆け落ちし、それを知った夫が自ら命を絶つというストーリーだという。また、イ・チュンフィ名義で撮った『細い道』(1988)は、巫堂(ムーダン)のヒロインが偶然知り合った犯罪者を自首させようとするストーリーの作品らしく、こちらも気になる。

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 なお、キム・ギヨンが1979?82年の間に「新韓文芸映画」作品のプロデューサーとして携わった作品は、以下のとおり(間違いもあるかも)。『龍門豪客』(1979)では脚本も手がけているようだ。また、本作『肉体の門』でシナリオを担当したキム・ヨンジンは、新韓文芸映画のプランナー・脚本家として多くの作品に携わっている。

●1979
『龍門豪客』용문호객(アン・ヒョンチョル監督)
『朝退勤する女』아침에 퇴근하는 여자(パク・ヨンジュン監督)
『水女』수녀(キム・ギヨン監督)
『ヌミ』느미(キム・ギヨン監督)

●1980
『この世の全てを与えるとしても』이 세상 다준다 해도(パク・ヨンジュン監督)
『窓の外の女』창밖의 여자(キム・ムノク監督)
『派手な経験』화려한 경험(イ・サング監督)
『龍拳蛇手』용권사수(キム・シヒョン監督)

●1981
『精武門'81』정무문 '81(イ・ウンス監督)
『怪盗出馬』괴도출마(チェ・ヨンチョル監督)
『終点』종점(チョン・イニョプ監督)
『肉体の門』육체의 문(イ・ギファン監督)
『人蛇夜闘』인사야투(クォン・ヨンスン監督)

●1982
『少林寺酒天鬼童』소림사 주천귀동(キム・ジョンソン監督)
『火女'82』화녀 '82(キム・ギヨン監督)

 この間、キム・ギヨンは自身の監督作『水女』『ヌミ』『火女'82』もセルフプロデュースしている。ちなみに、1981年に公開された監督作『潘金蓮』は、1974年に撮影されながらオクラ入りにされ、原版とは異なる編集を施されて封切られた不遇な作品。そして、当時の人気女優アン・ソヨン主演の『自由処女』(1982)は、別のプロデューサーから依頼された雇われ仕事である。


製作/キム・ギヨン
監督/イ・ギファン
脚本/キム・ヨンジン
撮影/ミン・ワンギ
照明/ソ・ビョンス
音楽/ハン・サンギ
編集/ヒョン・ドンチュン
出演/キム・ヘスク、キム・ビョンハク、チャン・イルシク、キム・ギソプ、ヨ・ジェハ、キム・ウォンソプ

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