Simply Dead

映画の感想文。

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『朝退勤する女』(1979)

『朝退勤する女』
原題:아침에 퇴근하는 여자(1979)
英語題:A Barmaid / The Woman Who Leaves Work in the Morning

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 韓国が生んだ世界的巨匠にして弧高のカルト監督、キム・ギヨン。代表作『下女』(1960)をはじめとするパワフルな傑作・怪作群を放った映画作家として広く知られる一方、彼は自ら製作会社を経営するプロデューサーでもあった。1979?82年の間には「新韓文芸映画株式会社」の製作・配給で、自身の監督作のほかに何本もの作品をプロデュースしている。例えば『龍門豪客』(1979)や『精武門'81』(1981)などのクンフーアクション、そして『窓の外の女』(1980)や『終点』(1981)といったメロドラマ、さらに怪作ホラー『肉体の門』(1981)などなど。本作『朝退勤する女』もその1本で、これは70年代に『ヨンジャの全盛時代』(1975)のヒットを機に流行した“ホステスもの”の流れを汲むメロドラマ。監督のパク・ヨンジュン、主演のコ・ドゥシムにとっては、本作がデビュー作となった。

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〈おはなし〉
 ナイトクラブのホステスとして働くチャンミ(コ・ドゥシム)は、公園で自分の姿をスケッチしていた青年ソン・ウヨル(ハ・ミョンジュン)と知り合う。エキセントリックで調子の良すぎるところはあるが、どこか憎めないウヨルに、だんだんと惹かれていくチャンミ。いつしかふたりは付き合い始め、ウヨルはチャンミの暮らすアパートに転がり込んでくる。ある日、チャンミは妹のように可愛がっている同居人のヨンア(チ・ミオク)が、ウヨルとキスをしているところを目撃。チャンミは彼女を叱責し、部屋から追い出してしまう。ウヨルも軽率な行動を慎み、チャンミをより真剣に愛するようになる。

 だが、幸福な日々は長く続かなかった。元々裕福な家に生まれたウヨルには美しい許嫁(イ・ファシ)がおり、両親から結婚を迫られていたのだ。それを知ったチャンミは、土砂降りの中、ウヨルを問いつめる。彼はチャンミへの揺るがぬ愛を誓い、婚約破棄を宣言するために実家へと出かけていった。意気揚々とご馳走を用意して、彼の帰りを待つチャンミ。だが、彼は翌朝になっても戻ってこなかった。思わずナイフを手に取り、ウヨルの結婚式に向かうチャンミ。しかし、式場で彼の苦渋に満ちた表情を目にして虚しさを感じた彼女は、ひとり来た道を引き返すのだった。

 数年後、チャンミはウヨルとの間にできた子供を産み、女手ひとつで幼い息子を育てながら、ホステスの仕事を続けていた。彼女は息子の幸福を思い、その親権をウヨル夫婦に譲り渡すことにする。悲しみに引き裂かれながら息子に別れを告げ、チャンミはまた夜の仕事に戻っていく。やがて彼女は重い病に倒れ、孤独に息を引き取った。チャンミの葬式に現れたウヨルは、冷たくなった彼女の骸に、別れの接吻をするのだった……。

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 上記のあらすじは、KMDBに記載されていた若干の間違いを含むあらすじと、実際の映画のストーリーをまとめたものだが、後半部のヒロインが病死するくだりに関しては定かではない。というのも、ぼくが観た『朝退勤する女』の韓国版ビデオは、残り10分くらいのところでテープが終わって勝手に巻き戻ってしまい、映画の結末を観ることができなかったからだ。昔の韓国のビデオは、90分テープに100分以上の映画本編をそのまま収録してる場合がたまにある。テープの長さに合わせて再編集しているものの方がよほど良心的だと思えるような、いいかげんな商売が成り立っていたのだ。

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 で、肝心の映画本編について。ストーリーだけ読むと典型的な「夜の女の哀歓」を描いたメロドラマっぽいが、実際の映画は前半と後半でまるっきりトーンが異なる。前半は現代的で活き活きとしたヒロインと、キャラがよく掴めないハ・ミョンジュン演じる軽佻浮薄な青年との恋の駆け引きをメインに、ちょっと躁病っぽいくらいのテンションで明るく軽いラブストーリーが展開する。その合間に、ヒロインの過去の失恋話や、妹のように可愛がっていたルームメイトの裏切りなどがあり、だんだんとシリアスなタッチに変化。そして、実は青年は良家の生まれで美しいフィアンセがいました、という大時代的な展開になり、一挙にメロドラマ化が加速していく。

 終盤では、前半あんなに活き活きしていたヒロインが苦労人のシングルマザーとなり、枯葉舞い散る公園で幼い息子と別れの愁嘆場を演じたりする。前半部を思い出すと別人だったんじゃないかと思うくらい、役者の演技の質もすっかり変わってしまう。そういう印象を抱かせる映画は、青春ものや一代記には珍しくない。が、この映画ではアフレコで登場人物の声をまるっきり変えてまで、そういう印象の変化をつけているのが凄い。相手役を演じるハ・ミョンジュンの吹き替えが、映画前半のやたら甲高い素っ頓狂な声から、後半では渋い声の声優にバトンタッチするのだ(当時の韓国映画はアフレコが主流だったので、香港映画のように、演じる役者本人ではない吹き替え専門の声優が台詞を吹き込むケースは多々あった)。

 このような分裂した構成には、もしかしたら製作者キム・ギヨンの「前半部だけで観客にどんな映画か悟られるような、意外性のない映画を作るな!」という“教え”が入っているのかもしれない。考えてみれば『虫女』(1972)も『殺人蝶を追う女』(1978)もそうだった。

 これがデビュー作のパク・ヨンジュン監督は、エネルギッシュな演出で前半の若者たちのラブストーリーをさばき、やや過剰な演出にも思いきって挑んでいる(例えば、波打ち際でヒロインが初恋相手に抱かれるシーンで、彼女の顔にザブザブ波がかぶるさまを繰り返し映し、パッションの高まりを表現しようとしているが、観てる方は「溺れてるじゃねーか!」と突っ込まずにいられない)。後半のいかにもメロドラマ的な展開では、前半の元気のよさを発揮できず、仕方ないとはいえ単なるまとめ仕事になってしまってつまらない。が、朝まで恋人の帰りを待っていたヒロインがさっと包丁を引っ掴み、次のカットでタクシーに乗っているあたりのシャープなリズムはなかなか秀逸だ。また、恋人が帰ってこないことを示す時間経過のひとつとして、12時をさす時計の針と警備隊の警笛(当時の韓国では夜間外出禁止令が続いていた)を使う簡潔な演出も、時代性を感じさせつつ巧みである。

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 コ・ドゥシムは近所のお姉さんタイプという感じの美人で、夜の蝶というイメージではないが、逆に生活感があってリアリティを感じさせる。デビュー作にしてかなり起伏の激しい、ハードルの高い役柄ながらも、果敢に、活き活きとヒロインを演じている。後半の疲れた母親ぶりもなかなか似合っていて、それはそれで「デビュー作でこんな表情まで演じさせんでも……」と少し複雑な気分になる。近年は母親役の似合うベテラン女優というイメージが定着しているから、韓流ドラマとかで彼女の姿を見慣れている人が観たら、そのはち切れんばかりの若さと可愛さに驚くのではないか。

 相手役のハ・ミョンジュンは、同年公開のキム・ギヨン監督作品『ヌミ』(1979)にも主演しており、イ・ドゥヨン監督の大作『最後の証人』(1980)の撮影もこの年に行われている。どちらかというと真面目でナイーブな印象の強い彼が、ヘタクソな肖像画をヒロインに見せて厚かましく口説きにかかるという、チャラチャラした変わり者キャラとして登場するシーンは、けっこう度肝を抜かれる(しかも、どう聞いても本人の声ではないハイトーンな声優の声なので、なおさらおかしい)。ただ、そのいかにも板についてない感じが逆に面白かったりして、後半でいつもどおりのシリアスな演技スタイルに戻ってしまうと、やや残念な気も。

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 余談になるが、ハ・ミョンジュンはこの年に実兄の映画監督ハ・ギルジョンを亡くし、以前から持っていた監督志望の夢をより強くしていた。そして、ある日キム・ギヨンから電話で「今度な、わしのプロデュースで君が監督をやりたまえ! ガッハッハッハ!」みたいなことを言われ、いきなり監督デビューすることになるが、間もなくキム・ギヨンの会社は経営難から倒産。仕方なく進行中の企画を別の会社に持ち込み、『X』(1984)で監督デビューを果たす。彼が監督業に進出するきっかけのひとつを与えたのは、キム・ギヨンだったのだ。

 そして、本作でハ・ミョンジュンの婚約者役を演じているのが、イ・ファシ。ここでは単なる綺麗どころ以上のものではない、印象の薄い役に甘んじているが、彼女はキム・ギヨン作品のミューズとして『異魚島』(1977)のヒロインや、『殺人蝶を追う女』冒頭に登場する自殺志願の女など、強烈なインパクトを与えるキャラクターを次々と演じている。『ヌミ』ではわりと普通の端役だったが、本作もそのポジションに近い。迫力すら感じさせる美貌と優れた演技力を兼ね備えた稀有な人気女優だったものの、当時の韓国ではあまりにセックスアピールが強すぎて風紀を乱すとの理由で、政府当局から圧力がかかり、仕事が来なくなって海外に移住したという壮絶な伝説を持つ(現在では復帰)。政権交代で性表現の規制が解かれた80年代からは『エマ夫人』(1982)のアン・ソヨンがセクシー女優として大人気を博すのだから、まったく不運としか言いようがない。

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 パク・ヨンジュン監督は、80年代に数多くのメロドラマやエロ映画などを演出。日本でも『ソウル・マダム・レイプ/白い肌の秘事』(1985)や『韓国幼性伝/いちぢく』(1989)などの作品が紹介されている。本作には思い入れがあったのか、1990年にリメイク的な続編『朝退勤する女2』を発表。90年代以降も活動を続け、2009年、64歳で他界した。

 『朝退勤する女』は、工夫はあるし、出演者も魅力的だが、はっきり言って平凡なメロドラマ以上でも以下でもない、普通の作品である。とはいえ、相変わらず台詞の内容がよく分からないまま無理やり観ているので、ひょっとしたら洒脱な台詞が満載の大傑作かもしれない(?)。実際、傑作なんてどこに転がっているか分からないのだ。その国の、その当時に作られた娯楽映画の在りようを知りたいという外国人観客のニーズに、もうちょっと耳を傾けてもらえれば、その探索作業もやりやすくなるのだけど……。


製作/キム・ギヨン
監督/パク・ヨンジュン
原作・脚本/イム・ハ
撮影/キム・ナムジン
照明/ソ・ヒョンス
美術/イ・ミョンス
音楽/ハン・サンギ
編集/ヒョン・ドンチュン
出演/コ・ドゥシム、ハ・ミョンジュン、チ・ミオク、イ・ファシ
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