Simply Dead

映画の感想文。

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『蝶々、懐で泣いた』(1983)

『蝶々、懐で泣いた』
原題:나비품에서 울었다(1983)
英語題:Crying in a Butterfly's Embrace

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 韓国映画界を代表する名匠イム・グォンテクが、キャリアの絶頂期に手がけたアダルトな恋愛ドラマ。製作は、敏腕プロデューサーにして監督でもあるチョン・ジヌ。風変わりなタイトルは、チョン・ジヌの監督作『愛の望郷/激流を超えて(原題:オウムからだで鳴いた)』(1981)、『娼婦物語/激愛(原題:カモメよ、すいすい飛ぶな)』(1982)などの“鳥シリーズ”に連なるイメージを狙ったものだろう。主演は『娼婦物語/激愛』でヒロインを熱演した演技派女優、ナ・ヨンヒ。

 「TRASH-UP!! vol.3」にも少し書かせてもらったが、ナ・ヨンヒという女優さんは80年代韓国映画ウォッチャーなら誰もが気になる存在で、イ・ジャンホ監督の問題作『暗闇の子供たち』(1981)で主演デビューした後、キム・ギヨン、ぺ・チャンホ、ユ・ヒョンモクなど錚々たる名監督たちと組んだほか、『ソウル・コンパニオン/肉体の虜』(1988)という大ヒット作にも主演している。それらの作品を追いかけているうち、早い話が彼女のファンになってしまい、巨匠イム・グォンテクと一緒に仕事をした作品と聞けば、これはぜひ観てみたいと思っていた。が、DVD化などはされておらず、中古ビデオ店に注文しても「探してみたらありませんでした」とか言われたりして、なかなか観ることができなかった。そして、最近ようやく(ちょっと高めの店で)中古VHSを発見し、念願かなって観ることができたという次第。

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〈おはなし〉
 美しい山々に囲まれたホテルをあとにした女性が、道端で1台のタクシーを拾う。彼女の名はヒョンジュ(ナ・ヨンヒ)。12年前に別れた初恋の人ミンソプを訪ねて、遠く離れたこの地までやってきたのだ。タクシー運転手のスンホ(イ・ヨンハ)は、彼女の想いに共感し、その願いを叶えるために一肌脱ぐことを約束する。目的地の炭坑町に着いたヒョンジュは、ミンソプの職場を訪ねてみるが、すでに彼は別の町へ引っ越したあとだった。今度はその移住先へと向かうふたり。その途中、地元の老人や僧侶、ヒッチハイカーのカップル、酒飲みの中年ドライバーなど、様々な人々と出会いながら、タクシーでの旅は続いていく。いつしかスンホは、ヒョンジュに惹かれ始めていた。

 ついに、ヒョンジュたちはミンソプの暮らす寂れた田舎町に辿り着く。だが、そこで待っていたのは、妻子持ちの疲れた中年男となったミンソプの姿だった。失意のヒョンジュに、よりいっそう深い愛情を感じるスンホ。ふたりは憂さ晴らしに地元のバーに立ち寄るが、そこでヒョンジュは中年ドライバーと再会。バンドの演奏に合わせて楽しげに踊る彼らの姿に嫉妬したスンホは、酔っぱらって男に絡むものの、返り討ちにあってしまう。

 気まずい空気のまま、ホテルに身を寄せたヒョンジュとスンホ。いつしか彼らは激しく求め合う。昼が過ぎ、夜が過ぎ、いつまでも愛し合い続けるふたり。が、ヒョンジュもまた、夫と子供がいる身だったのだ。その日の朝、ヒュンジュはソウルからの電話を受け取ると、置き手紙を残して去っていた。残されたスンホの胸に、虚しさが去来する……。

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 ストーリーはいたってシンプル。女と男が出会い、旅をし、結ばれ、女は去る。ただそれだけの話だ。イム・グォンテク監督は、その簡潔さをこの物語の美徳として最後まで守りながら、巧みな語り口で見せきってしまう。いちばんの立役者は、ロケーションだ。ロードムービーの背景として映しだされる、雄大で趣深い自然美の数々。そして時間が止まったような奥地の僻村や、炭坑町の情景が「キック」としてストーリーを盛り上げ、観る者を惹きつけ続ける。それらのビジュアルが本作最大の魅力であるといっても過言ではない。ひとつひとつの画面がそのまま絵葉書や写真集にできそうなくらいで、ぜひ綺麗なプリントで再見したいと思った。

 おそらく本作は、主演女優ナ・ヨンヒありきで企画されたものだろう。愁いを帯びたヒロインを演じる彼女は、確かにこれ以上にないハマリ役だが、それゆえ意外性にも乏しい。すでに似たような役柄しかもらえない映画女優の宿命=マンネリズムに足を取られているような印象を受ける。とはいえ、イム・グォンテク監督は彼女に極力抑えた芝居を課しながら、魅力的なショットをいくつも押さえている。シャワーシーンやベッドシーンも交え、女優映画としての体裁をしっかり保っているあたり、さすが職人の手際よさ。

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 ヒロインよりも、どちらかというと気のいいタクシー運転手を演じるイ・ヨンハの好演の方が記憶に残る。どこか子どもっぽさを引きずった青年役を、表情豊かに演じていて魅力的だ。ふたりが道中で出会う人々もそれぞれ印象的で、中でもチョイ悪な中年ドライバーを演じる名優ユン・ヤンハがいい。エンストした車の修理を待ちながら缶ビールをグイグイ飲んでいるという絵面もインパクト大だし、酒に酔って絡んできたイ・ヨンハを豪快な背負い投げでブンブン投げまくるシーンも面白い。また、ヒロインのかつての恋人役で、イ・ドゥヨン監督の『ムルドリドン』(1979)や『おかしな関係』(1983)に主演したハン・ソリョンが顔を見せている。同じくイ・ドゥヨン作品の常連であるハン・テイルも、1シーンだけ出演。

 韓国の美しい景観を情感豊かに切り取ったキャメラマンは、ソン・ヒョンチェ。イム・グォンテク監督とは前年の『アベンコ特殊空挺部隊/奇襲大作戦』(1982)などで組み、チョン・ジヌ監督&ナ・ヨンヒ主演の『娼婦物語/激愛』でも撮影を担当している。イ・ドゥヨン監督とは20年近くに渡ってコンビを組んできたことでも知られるベテランだ。脚本のソン・ギルハンは、イム・グォンテク監督と『曼陀羅』(1981)や『キルソドム』(1985)などの傑作群を共に送り出してきた常連スタッフである。

 イム・グォンテク監督としては、この映画は作家的欲求を満たす企画というより、完全なる雇われ仕事のひとつだったと思う。それでも、一歩間違えば退屈なメロドラマになりそうな企画を、ここまで情感豊かに、シンプルかつ寓話的なラブストーリーの秀作として仕上げてしまうあたり、絶頂期の凄みを感じさせる。

 水辺の道をタクシーが走り去る、哀愁漂うエンディングを締めくくるのは、なぜか『ロッキー3』(1982)のテーマ曲としておなじみの「Eye of the Tiger」。一体、誰の選曲なのだろうか……監督本人のセンスとは思えないが。


製作/チョン・ジヌ
監督/イム・グォンテク
脚本/ソン・ギルハン
撮影/ソン・ヒョンチェ
照明/イ・ミンブ
音楽/キム・ヒガプ
編集/キム・ヒス
出演/ナ・ヨンヒ、イ・ヨンハ、ハン・ソリョン、キム・オクジン、チェ・ドンジュン、ユン・ヤンハ
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