Simply Dead

映画の感想文。

『八月生れの女』(1963)

『八月生れの女』(1963)

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 神保町シアターで開催中の特集「みつめていたい!若尾文子」で観賞。若き女性社長に扮した若尾文子が、身分を隠したライバル会社の御曹司・宇津井健と出会い、おかしな騒動を繰り広げる恋愛コメディ。タイトルは「8月生まれの女は気が強い」ということわざから(あんまり聞いたことないけど)。毒にも薬にもならない、実にどうということのない映画だけど、若尾文子様の美しさと可愛らしさを愛でるためのアイドル映画としては十二分に楽しめた。監督は戦前から活躍する大ベテラン、田中重雄。軽妙かつ安定感のある語り口で、魅力的なサブキャラクターを活かしながら、ゆるーいシナリオを手際良くまとめている。

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〈おはなし〉
 滝川光学の社長をつとめる滝川由美(若尾文子)は、容姿端麗・才色兼備をほこる妙齢の女性。だが、生まれついての気の強さのせいか、男っ気がまるでない。ある日、彼女は自慢のスポーツカーに車をぶつけられ、運転していた村瀬力(宇津井健)という演劇青年と口論になり、ついには警察沙汰に。それがきっかけで、ふたりはたびたび会うようになる。力は悪びれもせず由美に対して好意を示し、由美もまた呆れ返りながらも彼のことが気になり始める。そこで由美は、探偵事務所で働く友人の早苗(浜田ゆう子)に、力の身許調査を依頼する。

 一方、先々代から滝川家の秘書をつとめる津田数右衛門(東野英治郎)は、由美の将来を心配し、四国一の富豪・志野村家の次男との縁談を画策。商用と偽って由美を高松へ連れ出し、お見合いの場を設ける。途中で真相を知った由美は怒って東京に飛んで帰るが、数日後、見合い相手の志野村次郎(川崎敬三)が滝川家を訪ねてきた。家業を手伝うのがイヤになり、東京で一旗揚げることにしたから居候させてほしいというのだ。多少変わり者ではあるが好青年の次郎を、由美の祖母しづ(村田知栄子)は大いに気に入り、おかしな同居生活が始まることに。由美はすでに力のことが好きになり始めていたが、実は力の正体は、ライバル会社の社長の息子だったのだ……。

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 見どころはやはり、ツンデレ気味の都会派お嬢様キャラをのびのび演じる、若尾文子のハマりっぷり。開巻早々、宇津井健を相手に車をぶつけた・ぶつけないの言い争いから映画を始めるあたり、分かってらっしゃるという感じ。浜田ゆう子や川崎敬三とのコミカルな掛け合いも楽しく、ストーリー展開と共にくるくる変わるファッションとヘアスタイルにも眼を奪われる。

 ジェリー・ブラッカイマー作品ばりに5分に1度はホォーとため息をついてしまうほど、若尾さんの可愛さが爆発しまくっている映画だが、それが頂点に達するのが終盤のナイトクラブでの一場面。またしても宇津井健と言い争いになり、彼が思わずパチーンと彼女の顔をぶってしまう。すると一瞬きょとんとして、そのあとコテンと気絶したふりをする若尾さんの鬼キュートぶりったら、もう筆舌に尽くしがたい。こっちが気絶するかと思った。

 若き日の宇津井健が元気いっぱいの裕次郎風芝居で演じるのは、前衛演劇に情熱を燃やすボンボン役。生真面目な力演タイプの役者さんという印象が強く、本人的にもこういう役は得意ではなかったと思うけど、この映画での軽妙な演技はなかなかいい。また、甲斐甲斐しくヒロインの世話を焼く社長秘書役の東野英治郎をはじめ、興信所で働く女探偵・浜田ゆう子、お調子者の女中さん・渋沢詩子、踊りの先生で実は東野英治郎とイイ仲という色っぽい役柄の角梨枝子など、脇役陣の好演も印象に残る。

 特に魅力的なのが、川崎敬三のすっとぼけたキャラクター。ヒロインとお見合いしたことをきっかけに、上京して彼女の家で居候を始める青年役をユーモラスに演じ、ハンサムな外見を逆手に取った飄々とした佇まいが絶品。共演者の中でも突出した存在感を示している。ふぐ料理が得意で、熱帯魚の生態を研究しはじめたかと思えば、最後は高校の先生になると言い出す無軌道ぶりもおかしい。同じ日に観た『銀座っ子物語』(1961)でもやはり浮世離れしたキャラクターを好演していて、かなり見直してしまった。『青空娘』(1957)とか、あんまり印象に残らない出演作ばかり観ていたせいか。

 映画史的に評価されることなどハナから望まず、とことん通俗に徹し、いっときの娯楽として楽しんでもらえればそれで十分、という志に貫かれた1本。こういう日本映画をもっと探して観ていきたいなあ、という気持ちにさせられた。ちょっとだけ難を言うなら、ヒロインが日本舞踊を見せるシーンがふたつもあって、それがむやみに長い。まあ、そういうのが女優さんの見せ場として成立していた時代だからなのだろうけど、当時でも少し古くさかったような気はする。ただ、最初の踊りの場面では「お嬢様は踊りの稽古中です」という振りから、いきなり獅子舞の練習をしているというハズシ技で来るので、それなりに工夫はある。


監督/田中重雄
脚本/舟橋和郎
撮影/高橋通夫
音楽/北村和夫
主題歌/朝丘雪路
出演/若尾文子、宇津井健、川崎敬三、浜田ゆう子、東野英治郎、角梨枝子、渋沢詩子、村田知栄子、左卜全
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