Simply Dead

映画の感想文。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『オブザーブ・アンド・レポート』(2009)

『オブザーブ・アンド・レポート』
原題:Observe and Report(2009)

observe-report_poster.jpg

 ハリウッド・コメディ映画業界をリードする人気者として、最近は日本でもグッと知名度が上がってきた感のあるセス・ローゲン。本作はその主演作の1本で、なぜかアメリカでも日本でもさして話題にもならずDVDスルーになってしまった小品である。リリースから1年経ってようやく観てみたら、これがなかなかの拾い物だった。ただし、観る人を選ぶ映画ではある。

 本作には、ローゲン扮する主人公を含め、感情移入などという言葉からは1万光年ほど遠く離れた登場人物しか出てこない(例外は1?2人くらい)。全編そんなブラックな人間観で塗り固められている上に、ちょっと心配になるくらい劇的な盛り上がりをハズしたシンプルかつオフビートな演出が貫かれているので、単純に明るく楽しく騒がしいコメディ映画を期待すると「地味で笑えない失敗作」に見えてしまうかもしれない。が、ハマる人は大喜びするタイプの作品である。実際、クエンティン・タランティーノは「2009年お気に入り映画ベスト11」の中に本作をランクインさせていた(ちなみに順位は『チョコレート・ファイター』に次ぐ第7位)。

observe-report_squad.jpg

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
〈おはなし〉
 主人公ロニー・バーンハート(セス・ローゲン)は、ショッピングモール「フォレスト・リッジ・モール」の警備主任として日夜平和を守っていた。ある時、モールの駐車場に露出狂が出没し、ロニーが想いを寄せるコスメ店員のブランディ(アンナ・ファリス)までもがハレンチ行為の被害者に。怒りに燃えたロニーは変態野郎を捕まえようと躍起になるが、捜査にやってきたベテラン刑事ハリソン(レイ・リオッタ)とはソリが合わず、挙げ句に「たかが警備員が余計な手出しをするな!」と釘を刺されてしまう。

 ロニーは同僚たちと独自の捜査チームを結成するが、今度は強盗事件まで発生。何ひとつ事件を解決できていないのに正義感だけはパンパンに膨らんでいくロニーは、とうとう本物の警官になるべく、警察の採用試験に挑む。いつもコーヒーをおごってくれるフードコートの女性店員ネル(コレット・ウォルフ)の心配をよそに、自信満々で警官になることを周囲に吹聴するロニーだったが、現実はそう甘くなかった……。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

observe-report_driving.jpg

 要するに『モール・ラッツ』(1995)と『新Mr. Boo!/アヒルの警備保障』(1981)と『タクシー・ドライバー』(1976)を合わせたような内容で、ヒーローに憧れる主人公が手柄を立てようと奮闘するものの、全てが裏目に出てしまう姿を描くという、映画ファンにはおなじみの物語。コメディとしては、大笑いするというよりは意地悪な小ネタの数々にクスクス笑ってしまうような感触で、インディペンデント映画っぽい雰囲気も強い。最近の作品だと『ロック・ミー・ハムレット』(2008)の感じに近いだろうか。また、主人公たちを取り巻く「平和で楽しく安心」なショッピングモールという場所の閉塞感と、そこで働き続ける人々の行き詰まった日常感覚も、とても見事に描かれている。

observe-report_wall.jpg

 監督・脚本をつとめたジョディ・ヒルのコメディ演出は、基本的にはとてもシンプルで、物静かで、抑制が利いている。が、そこには強烈な毒があり、シャープな悪意がある。主人公と仲の悪い中東系店員が悪口の応酬をしているうちに、どんどん小声になっていくというシーンは象徴的だ。コメディ=狂騒的みたいなイメージを持っていると、やや戸惑ったり、退屈に見えてしまうかもしれない。ただ、これと同じコメディにおける「静寂と爆発」のメリハリをデリケートに考えている、ハリウッドでは稀有な喜劇センスの持ち主が、ジョン・ランディスと、他でもないクエンティン・タランティーノである。おそらくタランティーノは、余分なものを削ぎ落とした静けさが生み出す笑いのポテンシャルを堅く信じる、ジョディ・ヒル監督のギャグセンスに共鳴したのではないだろうか。

 また、ひたすら下品でアタマの悪そうな台詞の切れ味とパワーも、間違いなくタランティーノが好きそうなテイスト。できるかぎり知性や品性を削ぎ落とし、ウィットのある会話を成立させるという難作業に敢然と挑んでいる。正直そのあたりが観客に嫌われやすい一因なのではないかとも思うが、その努力は買いたい。忘れられない台詞も幾つかある。(例:「ビール党になるわ」)

 それぞれのキャラクター描写は、前述のとおり「人類の90%はダメ人間」と言わんばかりの容赦ない突き放し方で描かれており、その辛辣さがだんだんクセになってくる。とはいえ、最近流行の「負け犬奮起もの」としてのツボは外しておらず、後半ではちゃんとポジティヴなカタルシスを得られるように作られている。主人公ロニーも最初は狂人にしか見えないが、物語が進むにつれ、だんだんと彼のいい面を観客が見つけられるように計算が行き届いているのだ。

observe-report_duel.jpg

 ヌルい職場の中でひとりダイ・ハードな保安官を気取る警備主任ロニーを、セス・ローゲンは持ち前の迫力ある体躯を活かして怪演。自意識過剰で短絡的で思い込みが激しく、そのくせ自分の中にある破壊衝動には無自覚な危なっかしい男を悠々と演じている。かつてのジョン・グッドマンにも通じる狂気を湛えたキャラクターを演じさせたら、今や右に出る者はいないのではないか。それと同時に、どんなにアナーキーで傍若無人なキャラクターに扮しても、どこか憎めない可愛げを感じさせるのが、この俳優の最大の長所(なんか実際は凄くマジメそうだし)。本作でも、始めのうちは扱いづらい男と思わせて、実は夢に向かって努力もするし、それなりに仕事もできるのだが、単に正義感の打ち出し方が間違っているだけという繊細な役柄を、ちゃんと説得力をもって演じきっている。さすが。

 また、複数のギャングや警官隊を相手に、たったひとりで大がかりな立ち回りを繰り広げるアクションシーンも見どころだ。特に、刑事役のレイ・リオッタとのガチンコ格闘シーンは、短いながらもまさに頂上決戦と呼びたいスペシャル感があってメチャクチャ盛り上がる。

observe-report_suspicious.jpg

 脇を固める役者陣もそれぞれにキャラが立っていて印象に残る。主人公の同僚デニス役を、得体の知れない存在感を漂わせながら怪演するのは、『大いなる陰謀』(2007)や『それぞれの空に』(2007)での好演も記憶に新しいマイケル・ペーニャ。後半では意外(?)な本性を現して爆笑させてくれる。そして、いかにもタイプキャスト的なベテラン刑事役をいつもの半分くらいの力で演じるレイ・リオッタの片手間仕事ぶりが素晴らしい(注:誉めてます)。とはいえ、先述のセス・ローゲンとの対決シーンはそこだけyoutubeに上げてほしいくらいの名勝負で(と思ったらあった。超かっこいい!)、かつての狂気を感じさせてくれて凄く嬉しかった。ジョディ・ヒル監督の出世作『The Foot Fist Way』(2006)に主演したダニー・マクブライドも、ストリートギャングの役で特別出演している。

observe-report_crying.jpg

 女優陣の顔ぶれも充実。コメディエンヌとしてはもはや中堅の域に入りつつあるアンナ・ファリスが、主人公が恋い焦がれるコスメ店員ブランディ役で登場。薄っぺらな尻軽女をリアリティたっぷりに演じており、ファンとしてはいささか複雑な気分になるが、文句なしの巧演である。セス・ローゲンと親子という設定が異様にハマっている母親役のセリア・ウェストン、そして地味なヒロイン役を慎ましくも愛らしく演じるコレット・ウォルフの好演も光る。

 音楽の使い方も気が利いていて、本作のクライマックスともいえる終盤のとあるアクションシーンでは、『ファイト・クラブ』(1999)のエンディングでおなじみのザ・ピクシーズ「Where is My Mind」が、実に効果的な使われ方をする。画面内で起こっている強烈にバカバカしい出来事とは裏腹に、全てを失ったはずの主人公が、自分の理想を初めて“行動”として実現させ、再びアイデンティティを取り戻すというエモーショナルな場面であり、思わず涙ぐんでしまうほどの感動を観客にもたらすのだ。が、日本版DVDでは延々とモザイク処理がかけられているのが惜しい(まあ、別に無修正で見たいもんじゃないけど)。

observe-report_home.jpg

 シネマスコープの横長構図を無理なく使い、腰の据わった画作りを見せるのは、『セックス・クラブ』(2008)も手がけたティム・オア撮影監督。作りの粗いところもあるが、あんまり注目されずに終わってしまうのは惜しい佳作である。パンチのきいたブラックコメディと、じんわり感動できるダメ人間の再起ものを同時に楽しみたい方は、ぜひ。

・Amazon.co.jp
DVD『オブザーブ・アンド・レポート』


監督・脚本/ジョディ・ヒル
撮影監督/ティム・オア
音楽/ジョゼフ・スティーヴンス
編集/ジーン・ベイカー
出演/セス・ローゲン、アンナ・ファリス、マイケル・ペーニャ、セリア・ウェストン、コレット・ウォルフ、ジョン・ユァン、マット・ユァン、レイ・リオッタ、ダニー・マクブライド
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://simplydead.blog66.fc2.com/tb.php/451-5f581b21
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。