Simply Dead

映画の感想文。

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『生死の告白』(1978)

『生死の告白』
原題:생사의 고백(1978)
英語題:Confession of Life or Death

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 そんなわけで、現在は今秋発売の「TRASH-UP!! vol.7」に向けて、韓国映画界の巨匠イ・ドゥヨンの研究に没頭中。なんせ監督作が全部で60本という人なので、今まで書いた記事のなかでいちばんの大物になることは必至。さすがにひとりでは無理なので、知り合いのライターさんにも参加してもらって全作品解説を鋭意作成中なのだけれども……心が折れそうです……。

 さて、本作『生死の告白』は、イ・ドゥヨン監督のフィルモグラフィーのちょうど真ん中にあたる30本目の作品で、軍事政権時代の韓国で頻繁に作られていた「反共映画」の1本。反共映画とは、戦争映画やスパイ映画など様々なフォーマットを用いて、北朝鮮に代表される共産主義国を批判し、ついでに民主主義の素晴らしさを謳い上げたりするプロパガンダ映画のこと。こうした国策映画を撮ると、政府から製作会社に援助金が出たため、韓国の映画監督は必ずこの手の作品を撮っていた。本作もまた、北朝鮮から潜入したスパイが改心して南側に転向するという、立派なプロパガンダ映画である。

 とはいえ、この頃のイ・ドゥヨンは演出家として脂が乗りきっており、政府のお達しで作られた反共映画であっても手を抜くことなく、非常に見どころの多い娯楽作に仕上げている。トレードマークであるハイテンポで歯切れの良いストーリーテリング、剃刀のようにシャープな編集テクニックも健在だ。

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〈おはなし〉
 孤児の少女ヨンオク(ユ・ジイン)は、障害をもった弟の教育費を稼ぐため、地下鉄でスリをはたらいていた。ある日、彼女は寂しげな中年男チャンドゥク(パク・クニョン)と出会い、いつしか心を通わせ合うようになる。だが、彼の正体は北朝鮮のスパイであった。自らの任務に疑念を抱き始めていたチャンドゥクは、罪を悔いて再出発を誓うヨンオクの姿を見て、自身も警察への出頭を決意。彼はヨンオクたち姉弟が報償金を受け取れるよう、自分を密告しろと促すのだが……。

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 映画は、主人公が逮捕されるくだりを起点として、ヒロインの証言と主人公の回想という、ふたつの異なる視点から過去の経緯を描いていく。そのミステリー仕立ての語り口が、非常に巧みで魅力的。また、孤独な男と少女の交流、そして両者の再生のドラマという「型」をうまく使って、転向者の物語をヒューマニスティックに描くことにも成功している。

 スパイとしての使命感を見失い、苦悩に陥っていく男の心理ドラマとしても、説得力がある。葛藤に苛まれる主人公がひたすら床の上をのたうち回るシーンや、夢の中で引き裂かれたアイデンティティと対峙する場面などは、ちょっと圧巻だ。その一方で、北朝鮮からやってきたばかりの新米スパイである主人公が、大都市ソウルの繁栄ぶりと人々の豊かな生活を目の当たりにして混乱を来していくという見せ方は、いかにもプロパガンダ的ではある。それでも、あざとくなる一歩手前で次の展開に移行する演出が、ものすごくうまい。

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 随所に表れるイ・ドゥヨンならではの活劇的センスも魅力で、まずオープニングからして素晴らしい。キム・ヒガプ作曲による『007』調のタイトル音楽にのせ、教会の鐘楼から今しも飛び降りようとするヒロインの姿が、ダイナミックなクレーン撮影で捉えられる……これを観てワクワクしない観客がいるだろうか? 前半の密告電話と逮捕シーンのカットバック、中盤の雪の公園内での要人暗殺未遂から銃撃戦へと畳みかけるシークェンスの歯切れよさにも唸らされる。イ・ドゥヨンの卓抜した職人的演出がたっぷりと味わえる快作だ。

 お約束のハッピーエンドには多少の投げやり感があるものの、一方ではおそらく主人公の家族が処刑されることを示唆するハードな後味も残している(字幕のないビデオで観たので、ちょっと解釈に自信がないけど)。ヒロインを演じるユ・ジインの可憐な美しさ、チャン・ドンゴンを思わせる風貌の主人公パク・クニョンの好演も印象的だ。

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 こういう映画を観てしまうと、「70年代は韓国映画にとって不遇の時代」という定説が、一部の作品に関してはぜんぜん通用しない言葉であると思えてくる。確かに抑圧的な軍事政権下での映画作りは、まったく不遇としか言いようのない窮屈なものだったろう。だが、限られた題材、厳しい表現規制といった条件のもとでも、才能のある監督たちは立派に豊かな映画表現をしていたのだ。イ・マニしかり、ハ・ギルジョンしかり、イム・グォンテクしかり。1970年に監督デビューし、10年間でヴェネチア映画祭受賞監督へと成長したイ・ドゥヨンも、その代表選手のひとりと言えるだろう。


監督/イ・ドゥヨン
脚本/イ・ムヌン
撮影/ソン・ヒョンチェ
音楽/キム・ヒガプ
出演/ユ・ジイン、パク・クニョン、ユン・イルボン、チェ・ボン
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