Simply Dead

映画の感想文。

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『インセプション』(2010)

『インセプション』
原題:Inception(2010)

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 おもしろかったー! 109シネマズ川崎のIMAX上映にて観賞。まさか2010年にあんな大画面でトム・ベレンジャーの芝居が観られるとは思わなかった。才能のある監督が、今のハリウッドで内容面でも予算面でもほぼ完全な自由を手に入れて、本当にやりたいことをやりきったら、こんなに面白いものができるんだなあと感動。もちろん、ここまで意欲的な企画を通せたのも『ダークナイト』(2008)の大成功あってこそだろうから、きわめて異例のケースなのだろうけど。

(ここから先、なるべくネタバレはしませんが、なんの予備知識もなく映画を観たいという方はスルーしてください)


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 やや難解で途方もないアイディアとはいえ、この映画のテーマは非常に普遍的なものだ。誰もが日常的に経験しており、誰もがそれぞれに謎を感じており、誰もが恐れと恍惚を同時に抱くもの……〈夢〉。ほとんどの観客は自らの体験やイメージと重ね合わせながら、スクリーンに繰り広げられる破天荒な夢の世界を見つめるはずだ。そういえば、まるで外部からの干渉を受けているような夢を見たことがなかっただろうか? 劇中では「目覚め」のメカニズムもまた興味深く描かれており、個人的にはそのあたりのディテールも面白かった。また、夢の中の夢/そのまた夢という二重・三重構造の眠りに落ちていくことで、世界が増幅されていくというアイディアも秀逸である。

 とはいえ、夢を舞台にした物語となると、問題になってくるのが「夢なんだからなんでもアリ」という思考だ。これは「何が起こっても不思議じゃない→何が起ころうがどうでもいい」という著しい興味の減退に結びつく。だから、活劇やサスペンスの舞台として〈夢〉は向かないというか、自由度も高いがリスクも高いと言わざるをえない。ところが『インセプション』は〈夢もの〉としては傑出した緊張感に溢れ、生々しい迫力に満ちた傑作に仕上がっている。クリストファー・ノーランがこの映画で描く夢の世界は、他人を騙すために緻密なリアリズムで設計された仮想現実の一種であり、そこではいかにも夢らしい綻びやハプニング、物理法則や常識を超えた非現実的な状況が現れる瞬間、現実感覚を揺るがすサスペンスが発生する。そこにはまた、アナーキーなスリルも同居している。

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 いろいろな面白さに満ちた作品だと思うが、ぼくはやっぱりケイパーものとしての面白さ、それを斬新なSF的アイディアと融合させた手腕のみごとさにノックアウトされてしまった。前作『ダークナイト』で特に意外だったのは、クリストファー・ノーラン監督の犯罪映画作家としての目覚めだった。続く本作でも、痺れるくらい魅力的な犯罪映画の匂いが充満している。しかも、今回はチームプレイ。その道のプロフェッショナル同士が集まって困難なヤマに挑む(そして予想外の窮地に陥る)という、ドナルド・E・ウェストレイクの「ドートマンダー」シリーズ的な楽しさがある。『ミッション:インポッシブル』(1996)以降、ハリウッドでは基本スペックとなっている疑心暗鬼ギミックは薄めで、わりとクラシックな「チーム萌え」で愉しませてくれるのも好ましい。ラストなんか普通に泣かされてしまうし。

 また、いくらでも硬質で理知的な内容にもできたところを、随所にエモーショナルな人間ドラマ要素を組み込み、深みを持たせたシナリオもみごと。失われた愛の幻影にとりつかれた主人公の心の旅を描いた、セラピームービーとして観ても面白い。レオナルド・ディカプリオは『シャッター・アイランド』(2009)でも似たような設定の役を演じていたが、ぼくが真っ先に思い出したのはジョニー・トー&ワイ・カーファイ監督の『マッド探偵』(2006)だった。主人公の抱える愛の深さと痛切さの質感が似ている。

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 ビジュアル面での見せ場も山盛りだ。予告編でさんざん見せられているので新鮮味が薄れそうな不安もあったが、各シーンとも本来の尺とシーン繋ぎで見せられると、やっぱり興奮する。特に圧巻なのは、無重力空間と化したホテルの廊下での取っ組み合いシーン。ジョゼフ・ゴードン=レヴィットがこんなに動けるとは! という驚きもあるが、何しろ緻密に設計されたスタントと視覚効果のコラボレーションが素晴らしく、これこそまさに最先端の映像アクションと呼べるものではないだろうか。このあとに続く「梱包作業」など、無重力空間でのくだりは全体的にやたらと面白かった(そこだけJ・G・レヴィットがひとりで健気にがんばっているという「萌え」もある)。このシークェンスだけでも入場料の元は取れる気がする。

 他にも、予告編でおなじみのパリの街がめくれ上がっていく場面や、大通りを列車が暴走するシーン、雨の中での銃撃戦など、とにかく過剰なまでにスペクタクルを盛り込み、ひたすらサービスしまくるのである(これで『ダークナイト』ほどの予算はかかっていないというのだから恐ろしい)。それらは、入り組んだ構造や理屈っぽい設定でアタマが煮えかかっている観客に与えられる「キック」の役割も果たしている。それほどに本作のストーリーやルール設定を簡潔に説明するのは難しい。が、ノーランは持ち前のミステリアスな語り口を駆使しつつ、実に巧みに自らの作りだした世界観を伝えきっており、それもまた本作の素晴らしさだ。「ルール説明」のうまさは『ダークナイト』の時よりもレベルアップしているのではないか?

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 とはいえ『ダークナイト』同様、すべてが完璧とは言えないところもある。前半で「身辺調査はオレの専門分野だ」とか言ってたトム・ハーディが、次のシーンでなんの説明もなく大手企業の社長室みたいなところに紛れ込んでたり、中盤のモロッコでの追っかけっこと、後半の『007』みたいな雪上アクションが完全にいらなかったり、ホテルからの脱出プロセスがどう考えても時間かかりすぎだったり、デカプが渡辺謙を助けに行く方法がよく分かんなかったり、いろいろ引っかかる(or ズッコケる)ところもある。だけど、そういう瑕疵を猛然とカバーしてしまう映画的魅力に溢れた快作であることは、疑いの余地がない。

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 さて、優れたケイパーものを作る絶対条件として、まずキャラクターが魅力的でなければならない。小説ならまだしも、映画においてはそこにキャスティングという不安定要素も加わるのが厄介だ。本作の場合はと言うと……100点。これ以上は望むべくもない、完璧な配役ではないだろうか。終始深刻な顔つきで“夢泥棒”の首謀者コッブを演じるレオナルド・ディカプリオは、力の入りすぎた表情芝居が近年ようやく貫禄に結びついてきた感があり、今回はかなりのハマリ役。いい意味での自意識過剰=スター性を存分に発揮して、娯楽映画としては若干ハードルの高い本作を全力で牽引している。

 そして、ケイパーものの命といえば魅力的な脇役。ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、トム・ハーディ、エレン・ペイジらの存在感は、主役を凌ぐほどだ。特に、ナイーヴな青年役から脱皮し、モダンで精悍な“相棒”を演じたJ・G・レヴィットが最高に素晴らしい。声が印象的な“偽造師”トム・ハーディのうさんくさい色気、観客の視点の拠りどころとなる“設計士”エレン・ペイジの等身大の佇まいと共に、絶妙なバランスを形作っている。そこに半ば強引に加わる渡辺謙は、『バットマン・ビギンズ』(2004)でのアンマリな扱いからは想像もできない大活躍ぶり。クレジットのビリングが2番目にランクアップしているのも伊達じゃない。設定としては大物実業家のはずなのに、チームの一員として思いっきり作戦に参加するという儲け役で、観ていてなんだか嬉しくなる。

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 ノーラン組の常連キリアン・マーフィーとマイケル・ケインの登場も嬉しい。特に前者はすごくいい役で、特別出演扱いに終わった『ダークナイト』の鬱憤を晴らすかのように、少ない出番ながらも鮮やかな印象を残す。マリオン・コティヤールは非常に特殊な役柄でありながら、その美しさを十二分に引き出されており、ファンは必見だろう(劇中でエディット・ピアフの曲が効果的に使われるのは、やっぱりそういうギャグ?)。『スペル』(2009)の占い師役で印象を残したディリープ・ラオの軽妙な演技も効いていた。

 適度にアタマも使わせてくれるし、視覚的快楽も作劇的愉悦もガッツリ味わわせてくれるし、役者もみんないい。後味の悪さを残すキャラクターがほとんど出てこないというのも、ノーラン作品にしては意外で、その点でも万人に勧めやすい気がした。こういう映画が当たるといいなあ! と、素直に思える作品。今年は『第9地区』といい『レポゼッション・メン』といい、SFに良作が多くて嬉しい。

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・Amazon.co.jp
DVD『インセプション』
Blu-ray & DVDセット『インセプション』
Blu-ray & DVDセット『インセプション』プレミアムBOX

製作/クリストファー・ノーラン、エマ・トーマス
監督・脚本/クリストファー・ノーラン
撮影監督/ウォリー・フィスター
プロダクションデザイン/ガイ・ヘンドリクス・ディアス
特殊効果スーパーバイザー/クリス・コーボールド
視覚効果スーパーバイザー/ポール・フランクリン
スタントコーディネイター/トム・ストラザース
音楽/ハンス・ジマー
編集/リー・スミス
出演/レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、トム・ハーディ、エレン・ペイジ、マリオン・コティヤール、ディリープ・ラオ、キリアン・マーフィー、マイケル・ケイン、トム・ベレンジャー、ピート・ポスルスウェイト、ルーカス・ハース、タルーラ・ライリー

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コメント

ちょっと前のネタで恐縮ですが、おすすめの「バード★シット」みてきました。
おっしゃるとおり素晴らしかった。特にラストの飛翔シーン。撮影はのちにブレードランナーの人なんですね。。。知らなかったです

ところで邦題のSHTの意味が見たのに分かりませんでした(汗)

  • 2010/07/18(日) 23:12:30 |
  • URL |
  • marron #-
  • [ 編集]

コメントありがとうございます。
『バード★シット』いいですよね。ぼくも劇場でやっている間に観に行きたいと思ってます。あのラストは今観ても圧巻ですよね。
旧邦題の「BIRD★SHT」なんですが、確か連続殺人事件と鳥の関係を暗示するシーンのひとつとして、車のナンバープレートに「BRD-SHT」と書いてあり、それが大写しになるカットがあったと思います。そこから取ってるんですね(細かい!)。

ちなみに上の『インセプション』の感想で書きそびれてしまったんですが、前作『ダークナイト』で印象的に繰り返される台詞「That's more like it.」が、『インセプション』の前半でもレオナルド・ディカプリオの口からさらりと発せられる場面があります。まあ、日常的な言い回しなので、意図的な遊びかどうか分かりませんが、ファン的にはちょっと「おっ!」と思った場面でした。

  • 2010/07/19(月) 04:16:52 |
  • URL |
  • グランバダ #-
  • [ 編集]

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なんという事でしょう。 面白すぎます!  

  • 2010/07/24(土) 12:09:16 |
  • Akira's VOICE

INCEPTION

すばらしい。。 人によって意見が分かれるかもしれないが、まさしく夢ってこうなん...

  • 2010/07/24(土) 22:09:43 |
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  • 2010/08/04(水) 23:28:44 |
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