Simply Dead

映画の感想文。

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『傘の中の三人の女』(1980)

『傘の中の三人の女』
原題:우산 속의 세 여자(1980)
英語題:Three Women Under the Umbrella

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 ありとあらゆるジャンルの娯楽作を手がけた職人監督にして、70?80年代の韓国映画界を支えたヒットメイカーとしてもリスペクトされる巨匠、イ・ドゥヨン。「テコンドー映画のパイオニア」「コリアン・エロス・ブームの火付け役」などの称号をもつ彼だが、女性を主人公にした繊細なドラマ作りにも定評がある。本作『傘の中の三人の女』は、以前に紹介したミステリー大作『最後の証人』(1980)と同年に発表された女性ドラマの秀作だ。原作はチョ・ソンジャク、キム・ジュヨン、チョ・ヘイルによる合作小説。互いに見も知らぬ3人の現代女性が、ひとりの男の死をきっかけに奇妙な縁で結ばれていくさまを、ミステリアスな語り口で描いていく。監督お得意の心理スリラー的要素、都会の冷たい孤独感を湛えた映像、そして良質のセンチメンタリズムがとても魅力的な作品である。お話としてはメロドラマなのだけれども、それらの要素が重奏的な効果を生み、単純なカテゴライズを許さない奥行きと膨らみを物語に与えている。

 近年はテレビドラマの名脇役として活躍するチョン・エリやキム・ミスクといった女優陣が、本作では若々しい美貌を披露しているのも見どころ。そして『最後の証人』の主人公役も印象深いハ・ミョンジュンが、ここでもナイーヴな好人物を味わい深く演じている。韓国映画界の至宝と言われる名キャメラマン、チョン・イルソン撮影によるクールな映像も素晴らしい。また、韓国ロックを代表するバンド「サヌリム」のリーダー、キム・チャンワンが音楽を手がけているという点でも、注目の作品である。

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〈おはなし〉
 ミヨン(チョン・エリ)は若くして結婚し、ごく普通の主婦として暮らしていた。が、ある日突然、夫のミョンジェ(ハ・ミョンジュン)が事故死。悲嘆に暮れながら葬式を終え、遺品の整理を始めたミヨンは、夫の使っていた手帳を見つける。そこには、KとMという、ふたつのイニシャルの人物と彼が秘かに会っていた記録があった。それを目にした瞬間、ミヨンの脳裏に、葬式に訪れたふたりの女たちの面影が蘇る。ファッションデザイナーのミン・シネ(キム・ミスク)と、ホステスとして働くコン・スミ(イ・ムンヒ)という女たちだ。ミヨンの胸中に、どす黒い感情が湧き上がる。夫の死は、単なる事故ではなく、あの女たちが関わっているのではないか?

 ミヨンはさっそく彼女たちの身辺調査を開始。そして、たまたまテープに録音されていた夫の電話口での話し声を編集し、シネとスミに電話をかけ、そのテープを聞かせた。さながら死んだはずの夫から電話がかかってきたかのように……。ミヨンの思惑どおり、大変なショックを受けるシネとスミ。だが、それはミヨンにとって手始めに過ぎなかった。

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 シネは恐怖を感じながらも、ミョンジェと過ごした幸福な日々のことを思い返す。彼女はかつて孤児院でミョンジェと一緒に育った仲だった。大人になってファッション業界で成功し、裕福なパトロンの愛人になってからも、彼女は兄のように優しかったミョンジェのことが忘れられずにいた。そして思いがけない再会を機に、ふたりはようやく結ばれたのだが、その前途は多難であった……。一方、スミもまた、ミョンジェとの短く儚い恋に思いを馳せていた。初めて出会った夕暮れの動物園、常連客として店に足繁く通ってくれた日々、初めて結ばれた時のこと、そして自ら切り出した別れの瞬間……。ふたりの女たちにとっても、ミョンジェはかけがえのない存在だったのだ。

 女たちのことを調べれば調べるほど、夫ミョンジェの知られざる一面を知っていくミヨン。しかし、彼女の中に芽生えた悪意はもはや歯止めを失い、彼女自身にも分からない結末に向かって、計画は着々と進行する。3人の女が出会う時、一体何が起こるのか?

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 男性的な作風で知られるイ・ドゥヨン監督だが、デビュー当時はもっぱらメロドラマ職人として活躍していたという下地があり、全キャリアを通じて女性心理を描くことへの興味を示し続けている。本作『傘の中の三人の女』は、かつて彼が70年代初期に量産していたメロドラマとはまた違った現代的アプローチによる、新たな女性映画路線の端緒となった作品といえよう。これが後年、チャン・ミヒ主演の犯罪スリラー風ドラマ『欲望の沼』(1982)へと繋がり、はたまた土俗的時代劇路線と融合して『避幕』(1980)や『桑の葉』(1985)へと結実していく。ジャンルムービー不遇の時代に叩きつけたヒロインアクション『黒雪』(1990)も、女性映画を数多く手がけてきたイ・ドゥヨンならではの企画だったといえるだろう。

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 『傘の中の三人の女』に登場するヒロインたちは、それぞれに身分も出自も職業も違う。同時に、それぞれが都会に暮らす現代韓国女性のサンプルとしても描かれている。中流家庭育ちの平凡な若妻であるミヨン。孤児院育ちで社会的に成功したデザイナーのシネ。純真無垢で子どもっぽいが他人に依存しない生き方を貫き、ホステス業に勤しむスミ。3人の対照的な生きざまをクールに見つめる描写も魅力的だが、彼女たちの人生を通して、ひとりの男の肖像が浮き彫りになっていく過程もまたスリリングである。現代的なキャラクター造形、語り口の鮮やかさは、今観ても色褪せていない。

 三者三様の愛のかたちを手際よく見せていく語り口のうまさは、さすがメロドラマ職人としてならした監督の面目躍如。特に、バーで働く少女スミとミョンジェが結ばれるまでの描写に顕著だが、ベタな描写の積み重ねにも嫌味がない。いつもは静かに飲んでいた常連客がたまさか悪酔いし、気のいいホステスの自宅に連れ込まれ、その夜は何事もなかったが、朝になって……なんていう展開はベタの極致だと思うが、イ・ドゥヨンは実に淀みなく心地好く見せてしまう。つまり「ベタ」のツボが分かっており、代わりに「クサさ」を排除する術をきちんと心得ているのだろう。ベッドシーン演出のうまさも特筆モノだ。80年当時の韓国映画ではここまでが限度、という簡潔な描写ながら、きちんと生々しいエロティシズムが表現できている。

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 嫉妬と喪失の痛みが殺意を招く、女性心理の闇にスポットをあてたスリラーとしても、本作はすこぶる魅力的である。サスペンス演出に卓抜した冴えを見せる、イ・ドゥヨンならではの名場面が目白押しだ。ミヨンによる電話の録音テープを使ったトリックの描写は、さながらブライアン・デ・パルマを思わせるし、電話を受け取った女たちが恐怖に顔を引きつらせるシーンの大袈裟な原色照明ときたら、ほとんどマリオ・バーヴァである。そのベタさが嬉しい。同年の『鬼火山荘』(1980)でもそうだったが、イ・ドゥヨンは電話を使った演出が非常にうまいという、なかなか奇特な才能の持ち主である。映画の後半、ミヨンがシネに対して「ある凶行」に走るシークェンスも、サスペンスフルな緊張感とほのかなブラックユーモアのバランスが楽しい。『サイコ』と『下女』(共に1960)のパロディを同時に盛り込むあたりもナイス。

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 最大の見どころは、なんといってもヒロインたちの美しさ。3人全員がことごとくハマリ役で、それぞれがこれ以上になく魅力的に撮られている。静かに憎しみを研ぎ澄ますヒロイン・ミヨンを演じたチョン・エリは、前半では夫の裏切りを知った若妻の焦燥と混乱を痛ましく演じ、後半では新珠三千代を思わせる冷酷な美貌で観る者を陶然とさせる。キム・ミスクの都会派クールビューティぶりも、しっかりキャラクターと合致しており、その硬質な表情が時にユーモアさえ漂わせるあたりが素晴らしい。あどけない表情がキュートなスミ役のイ・ムンヒは、ちょっと矢田亜希子(または卓球の福原愛)に似ているロリ系アイドル女優という感じで、さぞかし当時の韓国では人気だったんだろうなーと思いきや、映画出演は本作1本だけなんだとか。もったいない!

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 撮影のチョン・イルソンは、構図・色彩・明度など、全ての面において最高水準の仕事を残している。特にナイトシーンや、ちょっと暗めの室内シーンなどに、繊細な明度のコントロールが冴え渡っている。実はこの時期、医者から死刑宣告を受けるほどの大病を患っていたらしいが、画面を観るかぎりはそんな不調を全く感じさせない(その後、手術を受けて復帰)。『最後の証人』に続くイ・ドゥヨン監督とのコンビ作だが、ふたりの最高傑作『長男』(1984)についても、また別の機会に語りたいと思う。

 キム・チャンワンによる音楽も貢献度が高い。クラシック楽曲をアレンジした劇的なオーケストラスコアのほか、電子楽器をフィーチャーしたゴブリン調のスリラー音楽も聴かせてくれるなど、多才な腕前を披露している。映画の前半では、彼がリーダーをつとめるバンド「サヌリム」も特別出演。うーん、サントラ欲しい。

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 ……と、ここまでベタ誉めしてきたわけだが、とはいえ手放しで傑作と断言するのはためらってしまうような、若干いびつな瑕疵も含まれていることは認めざるを得ない。初めは主人公ミヨンの主観で進行するストーリーなのかと思いきや、途中から3人それぞれの記憶がフラッシュバックする構成になるあたりは、やや観ていて戸惑ってしまう。それに、ミヨンが他の女たちの過去を知っていくプロセスが、ほとんど描写されないのも説明不足だ。また、先述の電話の録音テープを使った犯罪トリックのくだりも、録音時の状況を考えたら、そんなクリアに会話だけ録音されてるわけないだろ! と誰もが突っ込んでしまうはず(しかし、観ていて実にワクワクするシークェンスであることは誰にも否定できまい!)。

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 ラストシーンの処理の仕方も賛否両論だろう。いちばん身近にいるはずの伴侶のことを理解できていなかったというヒロインの絶望は、理解と赦しをもって、かすかな希望に着地する。字幕なしで観たので、ミヨンによるモノローグ=物語の結論部分のすべてを理解できているわけではないのだけれども、やはり最終的に「夫の浮気」は不問に付されていることは間違いない。女性から見ると、なんて男側に都合のいい話なのかしら! と怒られても仕方ないようにも思える。ただ、そこで思い出されるのが、あのハ・ミョンジュンのナイーヴな笑顔なので、「ああいう男じゃ仕方ないか」と思ってしまう人も少なくないのではないだろうか(と、また都合のいい結論)。

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 イ・ドゥヨン監督が1980年に製作した5本の作品のうち、本作は最も早く封切られ、次にキム・ソンジョンの長編小説を映画化した力作『最後の証人』が公開された(本当は79年に撮り終えていたものの、検閲によって再編集を余儀なくされ、公開が延びたという事情がある)。残りの3本もバラエティに富んでおり、どれも見応えある作品ばかり。ヴェネチア国際映画祭ISDAP賞を獲得したフォークロア・ミステリーの秀作『避幕』、監督のスリラー演出が冴え渡る恐怖映画の快作『鬼火山荘』、そして香港映画『鷹爪鐵布彬』に追加撮影と再編集を施した珍品『双雄』。まさに八面六臂の活躍ぶりであり、イ・ドゥヨン監督の40年にわたるキャリアの中でも、特に充実していた時期だったと言えるだろう。

 おなじみ「KMDB」の動画配信サービスで観た本編は、シネマスコープ・119分の完全版。韓国映像資料院の所蔵プリントを、そのままデジタルデータ化したらしく、画質はすこぶる良好(それにしても作品紹介ページのあらすじが実際の内容と違うのは、なんとかならないもんだろうか)。『草墳』とか『長男』とかの傑作群と合わせて、DVD-BOX化してくれないかなあ……。

▼韓国公開時のポスター
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・KMDB
『傘の中の三人の女』作品紹介ページ(英語)
『傘の中の三人の女』動画配信ページ(英語)

監督/イ・ドゥヨン
脚本/チ・サンハク
原作/チョ・ソンジャク、キム・ジュヨン、チョ・ヘイル
撮影/チョン・イルソン
照明/チャ・ジョンナム
音楽/キム・チャンワン
編集/イ・ギョンジャ
出演/チョン・エリ、キム・ミスク、イ・ムンヒ、ハ・ミョンジュン、チャン・ドンフィ、シン・ウチョル、チョン・スク
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