Simply Dead

映画の感想文。

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『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009)

『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』
原題:復仇(2009)
英語題:Vengeance

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 素晴らしい。フランスが誇るロックスター、ジョニー・アリディを主演に招き、ジョニー・トー監督が得意のノワール演出の引き出しを全て開け放つかのようにして撮り上げた円熟の傑作。アンソニー・ウォンをはじめとする看板役者たちの名演、バイオレンスとロマンの幸福な融合がこれでもかというほど堪能できる作品でありつつ、意欲的な実験性にも溢れている。こんな贅沢なフィルムを、劇場で見逃してしまう手はない。未見の方は今すぐ映画館へ走るべきだ。

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 まず個人的に驚いたのは、ワイ・カーファイが単独で脚本にクレジットされていたこと。彼はジョニー・トーと同じく香港のテレビ局TVB出身のプロデューサー/演出家/脚本家で、1997年にジョニー・トーと映画制作プロダクション「銀河映像(Milkyway Image)」を共同設立して以来、長年パートナーとして組み続けている。『ダイエット・ラブ』(2001)や『アンディ・ラウの麻雀大将』(2002)といった香港人好みの弾けたギャグやラブコメが得意な「ベタ担当」なのかと思っていたら、仏教のカルマをテーマに据えたディープな怪作『マッスルモンク』(2003)で極めて特異な作風を発揮し、キチガイ探偵が大活躍する文字どおりのスクリューボール・ハードボイルド『マッド探偵』(2007)でも度肝を抜くストーリーを展開させた。この2作品における、いわゆるトンデモ設定をシリアスな語り口で強引に成立させようとするところは、ワイ・カーファイの個性と言っていいだろう。考えてみれば、躁病的なギャグセンスがダークサイドへ転じれば、理解不能な闇を呼び寄せるというのは、わりと自然なことかもしれない。

 今回の『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』は、ファンの多くが口を揃えて言うように、これまでのジョニー・トー作品でおなじみの要素がいたるところに散りばめられた、トー式マンネリズムの集大成的作品になっている。しかし、やはり同時に、ワイ・カーファイらしいツイストが根幹の部分を支配しているようにも思えるのだ。つまり「復讐とは何か」というテーマの追求と、その脱構築的展開。クリストファー・ノーラン監督の『メメント』(2000)にヒントを得たとおぼしき、記憶を失いゆく者による復讐劇が、やがて復讐という行為そのものの意味を問いただし、その空虚さを明るみにしていくという物語の構造である。

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 ジョニー・アリディ扮する主人公コステロは、ファーストカットから“復讐者”として登場する。ストーリーの推進力となるのは、当然のごとく、愛する娘の家族を殺された男の揺るぎない執念である。しかし、かつて頭部に受けた銃弾の傷によってコステロは刻々と記憶を失い始め、ストーリーを動かしていたエモーションは立場を失い始める。かろうじてそれは3人の殺し屋たちに「有無を言わさぬ男の友情」というかたちで引き継がれるものの、結局のところ復讐は「代行」によって片付けられることはない。最終的に、この物語の核たる復讐心を共有する者は、もはや観客しかいなくなってしまうのだ。この綱渡り的な構造のなかで、いかに映画を「A Story of Vengeance」として成立させられるか? という実験が、今回のワイ・カーファイの目標だったのだろう。

 シンプルかつソリッドな復讐譚を想像していた観客は、終盤のあまりに危なっかしく、たどたどしい復讐のプロセスに戸惑ったはずだ。しかし、この「ともすればギャグにも転びかねないオフビートな脱構築ぶり」が、ワイ・カーファイ&ジョニー・トー作品ならではの妙味であり、醍醐味といえる。主人公がたったひとりで犯罪組織を壊滅に導いてしまう一見ハチャメチャな展開も、すべてを失った彼がイノセントな“復讐の天使”として蘇るというプロセスを踏まえていればこそ、西部劇的/神話的なファンタジーとして受け止めることができる。

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 主人公が神への祈り=瞑想によって記憶を取り戻そうとするシークェンスも、ワイ・カーファイらしい。『マッスルモンク』でこだわった仏教的思想と「復讐」の観念とは相容れないのではないか、とも思うが、そこは解釈によるだろう。この場面でコステロが取り戻そうとするのは、復讐心そのものではなく、自分が他者(家族)のために何をしようとしていたか? という切実な思いであるところに、カーファイ独自の復讐譚解釈があり、感動がある。

 ジョニー・トー自身、カーファイほどではないにしろ、意表をつく「外し」を好むところがあり、実験や脱構築を映画の中で試すことに躊躇はない。ただ、カーファイとバッテリーを組む時は、どちらかというと職人的手腕でカーファイの変化球をカバーする名捕手に徹する傾向がある。個人的には、そんなトーさんも好きなのだ。実は誰よりも破壊的で暴走型のカーファイ節を、共同監督のジョニー・トーが持ち前のクールな映画力を駆使してまとめ上げるというパターンでは、現時点では『マッド探偵』が最高作だろう。この先しばらくは共同監督としてコンビを組むことはないらしいが、本作『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』には、トー&カーファイ組ならではの香りがあり、映画自体のテーマでもある男の友情が脚本家×監督の間にも匂い立つ。そういう意味でも、なんだか嬉しいフィルムだった。

 ジョニー・トー作品のファンなら、本作はいたるところでデジャヴを覚えるであろう内容だが、それでいて新しいアクションの見せ方も試みているところに信頼が置ける(今回のポイントはやはり血煙の美しさだろう)。開巻早々強烈なインパクトを刻みつける「惨劇」の鮮やかな編集処理、薄汚れた雑居アパートで繰り広げられる雨の夜の攻防、子供の戦争ごっこそのままのだだっ広い空き地での銃撃戦まで、その演出はますます熟練の域に達し、ファンタジックな飛躍の潔さにも惚れ惚れするばかりである。スクリーンを見つめながら、本作がこれまでの銀河映像作品のなかでどれにいちばん近いかを考えてみたとき、意外にも『ロンゲストナイト』(1997)が真っ先に思い浮かんだ。マカオの夜の切り取り方、物語がどこへ向かうか分からない迷走感が、けっこう似ている気がしたのだ。映画としての後味は、全く正反対と言っていいのだが。

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 主演のジョニー・アリディは、もう立ってるだけでカッコイイという人なので、多少の演技のぎこちなさも気にならない。このカッコよさに対抗できる日本人がいるとすれば、断然りんたろう監督をおいて他にいないだろう(見たことない方はキネマ旬報社刊「PLUS MADHOUSE 4 りんたろう」の超クールな写真をご参照ください)。アリディの異邦人としての所在なさげな表情が、記憶を失っていくという映画後半のストーリー展開ともあいまって、さらに深みを増していくあたりも味わい深い。車中で唐突に「オレの店の名前は“レ・フレール”っていうんだ」と言い出すときの可愛らしさときたら! 渋みを兼ね備えたイノセンス……つまり、ジョニー・トー作品の重要なエッセンスを自ら体現する存在になっていくのだ。そこに愛を感じられるか、そうでないかで、クライマックスの楽しみ方も違ってくるだろう。

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 ジョニー・トー作品には欠かせない常連たちの好演も、言うまでもなく素晴らしい。中でも今回はラム・カートンのカッコよさが際立っていると思う。『PTU』(2003)を思い出させるマギー・シュウの登場も嬉しいし、子だくさんの肝っ玉母さんビッグママを演じるミシェル・イェのエレガントな変身ぶりも魅惑的だ。香港映画ファン的には、空き地のボロ家で暮らす銃器商人トニー役で、フォン・ツイファン(スタンリー・フォン)が顔を出していることにグッとこざるをえないだろう。日本では『五福星』(1984)のリーダー格“マジメ”役がいちばん有名だと思うが、イー・トンシン監督のデビュー作『癲佬正傳』(1986)での好演も印象深い。未見だが、ジョニー・トーがプロデュースをつとめた『意外』(2009)にも出演しているという。フランス人女優シルヴィー・テステュのジョニー・トー組参加も、ジョニー・アリディと同じくらい嬉しかったが、やや存在感が薄かったのが残念。彼女は日本を舞台にした諷刺コメディの秀作『畏れ慄いて』(2002)で、まさに孤独な異邦人を演じており、その点ではアリディの先輩である。


製作/ミシェル&ロラン・ペタン、ピーター・ラム、ジョニー・トー、ワイ・カーファイ、ジョン・チョン
監督/ジョニー・トー
脚本/ワイ・カーファイ
撮影/チェン・シウキョン
美術/シルヴィー・チャン
音楽/ロオ・ターヨウ
編集/デイヴィッド・リチャードソン
出演/ジョニー・アリディ、アンソニー・ウォン、ラム・シュ、ラム・カートン、サイモン・ヤム、ミシェル・イェ、チョン・シウファイ、フェリックス・ウォン、バーグ・ウー、マギー・シュウ、シルヴィー・テステュ


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