Simply Dead

映画の感想文。

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『守節』(1973)

『守節』
原題:수절(1973)
英語題:Fidelity

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 UCLA仕込みの映画理論と強靭な反骨精神を武器に、制約に満ちた70年代韓国映画界を駆け抜け、代表作『馬鹿たちの行進』(1975)の続編となる『ピョンテとヨンジャ』(1979)の公開中、わずか38歳で世を去った不遇の天才監督ハ・ギルジョン。『守節』は彼の商業映画2作目となるホラー仕立ての時代劇である。古典怪談と武侠アクションを融合させたような筋立てを用いて、横暴な権力に苦しめられる民衆の痛みをこれでもかというほど苛烈に描き、当時の抑圧的な軍事政権体制を批判。劇場公開時には当局の検閲によって20分近くもカットされてしまったという、曰くつきの作品だ。これも「kmdb」の動画配信で観賞。

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〈おはなし〉
 高句麗時代。家族を残して戦に出ていた男・ユー(ハ・ミョンジュン)が、捕虜の身から解放され、10年ぶりに故郷へ帰ってくる。懐かしい我が家へ戻った彼を出迎えたのは、変わらぬ美貌を湛える妻のキル(パク・ジヨン)と、美しく成長した娘のヨン(イ・ヨンオク)だった。夢にまで見た一家団欒の時を過ごすユーたち。しかし、妻と娘はすでにこの世の者ではなかった。

 翌朝、ユーが目覚めると、そこは廃墟であった。そして、なぜか家の周囲を見回りに来ていた武士が、小川に顔を突っ込んで死んでいた。ユーは、血文字で書かれた妻の手紙を読み、真相を知る。数年前、戦争で女子供と老人しかいなくなった村を武士の一団が襲い、食糧や財産を全て奪った上、凄惨な虐殺や陵辱が繰り広げられたこと。キルたち母娘はからくも山奥へ逃げのびたものの、日照りのため地獄のような飢えに苦しんだこと。食糧を探しに行ったキルが、精魂尽き果て倒れたところを当主にさらわれ、強姦された挙げ句、生き残った村人たちに売女と罵られ嬲り殺しにされたこと。母の悲惨な死を目の当たりにした娘ヨンも、武士に犯され殺されたこと……。

 怒りに打ち震えるユーは、家族と村を破滅に導いた当主のもとへ向かい、単身戦いを挑む。配下たちを次々と叩き斬っていくユーに、当主は1対1の決闘を申し出る。後日、河原で対峙するふたりの男。はたして勝負の行方は……?

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 ホラー映画調の前半では、いかにも様式的な照明効果を駆使して巧みに怪奇ムードを醸成しており、また後半の剣戟アクションの部分でも、そつのない演出力を披露している。だが、この映画でハ・ギルジョン監督が最も力を注いでいるのが、権力に蹂躙される弱者の苦しみをとことんハードに描いた中盤のシークェンスであることは、誰の目にも明らかだ。

 特に、家も畑も失った母娘を襲う飢餓の描写は凄まじく、生々しいリアリティで観る者を圧倒する。荒らされた畑に残った芋の切れ端や、木の葉の裏についた露をかき集め、何も口にできない日はただ死んだように横たわるしかない。ついには、喉の渇きを訴えて苦悶する娘のために、母親が自らの指を噛み切り、その血を飲ませる。ここまで壮絶な“母子愛”のシーンはあまり観たことがない。演じているのがパク・ジヨンとイ・ヨンオクという、非常に美しい女優たちであるゆえに、なおさらその悲惨さと痛ましさが際立つ。

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 生々しいと言えば、略奪者の群れが村の女たちを陵辱するくだりも、当時としては過激だったであろうしつこさとリアリティをもって描かれている。昔から韓国映画には暴力としてのセックスが登場することが少なくないが、本作のそれはひときわ生々しく、パワフルで、陰惨だ。扇情的な意味合いよりも、明らかに怒りをもって韓国的マチズモを批判しており、言うまでもなく強圧的な政治体制のメタファーともなっている。

 後半でヒロインが当主に犯されるシーンも、かなりのインパクト。ここでは彼女の見る幻影として、原色照明の中で全裸の女たちが悶え苦しむサバト的光景が展開し、おどろおどろしい地獄絵図ビジョンで「女の悪夢」を表現している。検閲でカットされた場面の多くも、これらの暴力的シーンがほとんどだったそうだ。

 その一方、前半でユーと妻が10年ぶりに床を共にするシーンでは、あくまでナチュラルに夫婦の営みを描こうという別の意味でのリアリティが感じられる。そこまで露骨な描写ではないものの、ありがちな抽象表現には逃げていないところに、そこはかとない“ニューシネマ作家の血”を感じた。(ハ・ギルジョンがUCLA映画学科に在籍していた時、1年先輩にはフランシス・フォード・コッポラがいた)

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 力なき民衆を象徴する母娘を、考えうるかぎり最悪の結末へといざなう悲劇性の徹底ぶりには、凄まじいものがある。ハ・ギルジョンは常に作品中に象徴的な意味を持たせようとする作家だった。それは後年の『ハンネの昇天』でさらに研ぎ澄まされていくが、『ハンネ』はもはや「何かの象徴」であることが前提の物語になっていて、ドラマ単体として面白いかどうかは疑問の残る作品だった(それほど当時は「言いたいことが言えない」状況がどんどん悪化していた、という証拠でもある)。『守節』は、いくぶんB級ジャンル映画的な素材と、ハ・ギルジョン監督ならではの象徴性がうまい具合に噛み合った佳作だ。あからさまにカットされた部分も目立つし、残念なところもあるが、一見の価値はあると思う。

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 母親役のパク・ジヨン、娘役のイ・ヨンオクの熱演が何しろ素晴らしい。イ・ヨンオクは、ハ・ギルジョン監督の次作『馬鹿たちの行進』でもヒロインを演じ、一躍スターダムに駆け上がった。彼女たちの力のこもった演技に比べると、やや影の薄い主人公ユーを演じるのは、監督の実弟であるハ・ミョンジュン。のちに主演したイム・グォンテク監督の『族譜』(1978)や、イ・ドゥヨン監督の『最後の証人』(1980)などに比べると、とにかく若い! 主要キャストの中ではいちばん初々しく見えるくらいだ。


監督/ハ・ギルジョン
脚本/ハン・ユリム、ハ・ギルジョン
撮影/ユ・ヨンギル
照明/チャ・ジュンナム
音楽/ファン・ビョンギ
出演/ハ・ミョンジュン、パク・ジヨン、イ・ヨンオク、ユン・イルボン、オ・ジミョン
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