Simply Dead

映画の感想文。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『渇き《拡張版》』(2009)

『渇き《拡張版》』
原題:박쥐 ?확장판?(2009)

chan-wook_thirst_poster2.jpg

 現在、日本でも絶賛公開中のパク・チャヌク監督最新作『渇き』。映画の詳しい内容や、いかに素晴らしく面白い傑作であるかということについては雑誌「TRASH-UP!! vol.5」に書きつくしたので、ここでは割愛する。今回は、先頃リリースされたばかりの韓国版DVDに収録された《拡張版》、カタカナで書くところのエクステンデッド・バージョンについて紹介したい。

 バンパイアとなった神父の苦悩を描いた『渇き』は、パク・チャヌク監督が10年間にわたって温め続けてきた夢の企画であり、監督自身も「最も愛着のある作品」と公言してはばからない入魂の1作である。ゆえに編集段階では相当悩んだらしく、多くのシーンをカットせざるを得なかったという。そのうちのいくつかの削除パートを復活させたのが、この拡張版だ。日本でも上映されている劇場公開版は133分だが、こちらは145分と、約10分ほど長い。これはオレが中身を確かめずに誰が確かめるんだ! という使命感(?)のもと、さっそく観てみた。

(ここから先は、すでに映画をご覧になった方だけ、お読みください)


chan-wook_thirst_in-white.jpg

 とりあえず気がついた範囲では、拡張版には15ヶ所以上の追加部分がある。シーンごと復活しているところもあれば、カット単位で長さが増えていたりするところもあり、ひょっとしたらもっと多くの細かな違いがあるかもしれない。(一応、最近公開されたばかりの映画なので、いちいち差異をリストアップするのはやめておく)

 登場人物への感情移入がしやすいという面で、この拡張版のほうが優れているとする意見もある。が、個人的な好みで言えば、やっぱり劇場公開版のほうがいいと思った。短くすることでスマートに研ぎ澄まされ、シャープな仕上がりになっているから、といった理由ではない。公開版は思いきった省略を施すことで、よりアンバランスな魅力を生み出し、眩暈を誘うような混沌と深みを増しているような気がするからだ。たびたび訪れる独特の「飛躍」が観客の意表を突き、ある種の深読みを促す。そのあたりを説明不足と感じる人もいるかもしれないが、逆に言うと拡張版は少し「親切」すぎるのだ。元々、パク・チャヌクは過剰に饒舌なところがタマにキズの監督なので、拡張版はまだ言葉数が多く、若干思いきれていない感は否めない。

 とはいえ、ここを切ったのは惜しい! と思えるシーンもいくつかある。特に、拡張版では主人公の神父サンヒョンと、ヒロインのテジュが交わす会話シーンが増えていて、それが非常に魅力的なのだ。聖職を捨ててテジュの家に転がり込んできたサンヒョンが、地下室のベッドの中で「なんだってやれるさ。タクシーの運転手でも」などとテジュに語るシーンは、さりげなくも重要な一場面だ。敬虔さを失ってアグレッシブになったサンヒョンの変貌ぶりと、それに対して「客を殺して血を吸うつもりでしょ」と悪戯っぽく答えるテジュのシニカルな性格が描かれ、ふたりのモラル的断絶も浮き彫りにされていて素晴らしい。そして、物語のターニングポイントとなる夜のダム湖のシーンでは、水面から顔を出したサンヒョンが「俺たち、幸せになれるんだよな?」と泣きそうな顔で問いかけ、テジュがボートの上から「そうよ!」と答える、絶妙な位置関係によるやりとりが追加されている。ユーモラスでありながら、彼らの破滅的な未来を予感させる秀逸な場面だ。大して長いくだりでもないので、今からしれっと公開版に挟み込んでも良さそうなもんだと思った。また、病院にいるサンヒョンを訪ねたテジュが、聖堂の椅子に寝転んで彼を待っている場面も、穏やかな美しさを湛えていて印象に残る。

 その他、大きな追加部分でいうと、サンヒョンが修道院長の死体を海に捨てに行くシーン、そしてサンヒョンとテジュが警察署で嘘発見器にかけられるシーンがある。前者は、父のように慕っていた院長を殺してしまったサンヒョンが車中で呟き続ける独り言──半ば逆ギレ気味の自己正当化=自己欺瞞がアイロニカルで面白い。後者は、バンパイア化したテジュが初めて殺人を犯すシークェンスと密接に繋がっていて、公開版とは随分と意味合いが違っていることに驚かされる。個人的には、公開版の衝動殺人的な展開のほうが、モンスターホラーとしてのインパクトがあって好きなのだけれども。また、映画の冒頭に出てきたメガネの医者が、映画終盤でテジュに殺される医者と同一人物だったことに、拡張版を観て初めて気付いたりもした。彼の登場シーンも前半で大きく増えていて、そのやる気のないキャラクターが強調されており、サンヒョンがなぜテジュのえじきとして彼を選んだのかも理解できるようになっている。

 内容的な印象はあまり変わらないものの、映画としてどちらがベストかと言われたら、個人的には僅差で劇場公開版の大胆さを評価したい。それでも日本でソフト化する際には、ぜひ拡張版と公開版のセットでリリースしてほしい。できれば監督のオーディオコメンタリーつきで。(韓国版は本編にしか英語字幕がついてなかったので……)

・SCRIPTVIDEO
DVD『渇き』初回限定版3枚組(韓国版・リージョン3・英語字幕つき)


監督/パク・チャヌク
脚本/パク・チャヌク、チョン・ソギョン
原作/エミール・ゾラ 「テレーズ・ラカン」より
撮影/チョン・ジョンフン
照明/パク・ヒョンウォン
音楽/チョ・ヨンウク
出演/ソン・ガンホ、キム・オクビン、キム・ヘスク、シン・ハギュン、パク・イナン、ソン・ヨンチャン、オ・ダルス、メルセデス・カブラル、ソ・ドンス

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://simplydead.blog66.fc2.com/tb.php/422-6ad11377
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

『渇き』お薦め映画

俳優陣の身体を張った頑張りで、狂気の世界が生まれた。ヴァンパイアよりお化けより神様よりも女が怖い…。

  • 2010/04/13(火) 01:28:49 |
  • 名機ALPS(アルプス)MDプリンタ

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。