Simply Dead

映画の感想文。

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『審判』(1999)

『審判』
原題:심판(1999)

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 パク・チャヌク監督が『3人組』(1997)と『JSA』(2000)の間に撮った、白黒パートカラー・26分の短編映画。病院の霊安室を舞台に、ある身元不明の若い女性の遺体をめぐって、ブラックな笑いに満ちた群像劇が展開する。この作品こそ、現在に至る監督の作風を決定づけた重要な一編なのではないだろうか。他の長編作品にも引けをとらない、隙のない傑作だと思う。

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〈おはなし〉
 地震によるデパート崩落事故で亡くなった若い女性の遺体が、病院の霊安室に安置されている。顔や体の損傷が激しく、身元が判別できない状態だったが、ある夫婦(コ・インベ、クォン・ナミ)が「数年前に家出した自分たちの娘だ」と名乗り出てきたことで、一件落着した……はずだった。

 TVレポーター(チェ・ハンナク)ら取材班の立ち会いのもと、変わり果てた娘の遺体と対面する夫婦。すると突然、霊安室の職員(キ・ジュボン)が「これは俺の娘だ!」と言い出す。そこから、証拠の古傷を探せだの、DNA鑑定をしろだの、喧々囂々の押し問答がスタート。事故担当の公務員(パク・チイル)はなんとか事態を収拾しようとしながら、互いに主張を譲らない彼らに訊ねる。「どうしてあなた方は、この遺体が自分の娘だと言い張るんですか? 普通の親なら、どうか他人であってほしいと願うはずなのに」。TVのニュース番組では、崩落事故で肉親を喪った遺族は多額の賠償金を受け取ることができると報じていた。

 やがてTVレポーターと担当公務員までが諍いを始め、事態はさらに混沌の度合いを増していく。そこに、ひとりの若い女性(ミョン・スンミ)が現れたことから、意外な新展開が……。

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 物語のモチーフとなっているのは、1995年にソウル市内で起きた「三豊百貨店崩落事故」。ある日、買い物客で賑わうデパートの建物が突然崩壊し、死者502人・負傷者937人・行方不明者5人という凄まじい数の犠牲者を出した大惨事だ。高度経済成長期に行われた手抜き工事が原因の大事故として、1994年の「聖水大橋崩落事故」と並んで韓国国民の間では生々しく記憶されている。キム・デスン監督の『ノートに眠った願いごと』(2006)も、この事件を下敷きにしていた。

 この『審判』では、物語の合間に実際のTVニュース映像を挟み込み、当時の韓国社会を覆っていた不安を効果的にフラッシュバックさせる。そこにはデパート崩落事故現場の惨状だけでなく、竜巻などによる自然災害、新興宗教の大規模な集会といった「不穏なイメージ」も含まれている。犠牲者への鎮魂歌にも聴こえるピアノの調べとも相まって、やや社会派作品のような先入観をもって見始めてしまいかねないが、パク・チャヌクが描くのはもっとパーソナルな人間の性=欲望と嘘と猜疑心がぶつかり合う残酷なゲームだ。

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 賠償金を手に入れるために良心を捨て、平気で嘘をつき続ける人々。事態を丸く収め、面倒事を回避することにしか関心がない役人。行政の失策を吊るし上げようと、面白がって火に油を注ぐジャーナリスト。そして、人々の食い物にされながら黙って横たわり続ける女性の死体……。実に不謹慎でアンモラルな物語でありながら、泥臭さや嫌味ったらしさのない、スマートで味わい深い密室群像劇として完成されている。そのクールな語り口と見事なキャラクター描写、緻密な空間演出は『しとやかな獣』(1962)ばりの見事さ、などと言ったら大袈裟かもしれないが、前2作の野暮ったさが嘘のような洗練ぶりであることは確かだ。ひんやりとした霊安室の空気感を伝えるかのような、硬質のモノクローム映像がもたらす効果も大きい。

 悲劇性と喜劇性が入り混じるダークなユーモア感覚も冴え渡っている。顔の潰れた遺体の横で、自分に似ていることを証明しようと男ふたりが顔を並べている画のバカバカしさ、そしてギョッとするほどの悪辣さは、まさにパク・チャヌクの真骨頂だ。その一方では落ち着いたトーンで全体を統一する抑制力も身につけており、後年の作品に継承されていく作風がここで確立されたような印象を受ける。

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 味のある俳優陣のアンサンブルも、本作の見どころ。中でも絶品なのが、霊安室の職員を演じたキ・ジュボン。勤務中でも飲んだくれ、遺体と一緒にビールを冷やしているようなデタラメ中年を見事に怪演し、大いに楽しませてくれる。劇団の座長でもある大ベテランで、『復讐者に憐れみを』(2002)では、自分を解雇した社長ソン・ガンホの前で割腹パフォーマンスをする技師を演じていた。また、夫婦役のコ・インベとクォン・ナミも素晴らしい。怪しくもあり、本物らしくもあるという微妙なニュアンスを巧みに表現している。おどおどした夫を演じるコ・インベが終盤近くで見せる“父親の顔”は忘れがたい。

 元カソリック信者であるパク監督がラストに用意する「審判」にも、やはり独自のシニシズムが発揮されている。明らかに罪を免れてもいい人間が「天罰」に巻き込まれる一方、結果的に嘘を暴くきっかけとなった者が見届け人として生き残るあたりが実に意地悪で、神の御業=大雑把な上に性格が悪いという神学的考察も汲み取れる(?)秀逸なエンディングだ。ちなみに映画はここだけカラーになり、その変化も観る者に鮮烈なインパクトを与える。

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 日本ではいまだに紹介されていないのが残念だが、30分もない短編作品なので、youtubeなどの動画サイトで探せば観ることができる。海外ではソフト化もされており、以前は『オールド・ボーイ』(2003)の韓国版リミテッド・エディションDVDに映像特典として収録されていた(現在は絶版)。最近、イギリスで発売された短編アンソロジーDVD「Cinema 16 -World Short Films-」には、ギレルモ・デル・トロやアルフォンソ・キュアロン、シルヴァン・ショメといった監督たちの作品と共に、本作『審判』も収録されている。

 実は短編の名手でもあるパク・チャヌクの手腕を知りたければ、オムニバス映画『もし、あなたなら/6つの視線』(2003)の一編『NEPAL ?平和と愛は終わらない?』もお薦め。個人的には『復讐者に憐れみを』と並ぶ最高傑作ではないかと思っている。

・Amazon.co.uk
DVD「Cinema 16 -World Short Films-」(英国盤・PAL)
(『審判』『老婦人とハト』『パン屋襲撃』ほか16本の短編を収録)



製作・監督・脚本/パク・チャヌク
撮影/パク・ヒョンチョル
照明/イ・ソクファン、キム・テイン
美術/オ・サンマン
編集/キム・サンボム
助監督/ユ・フンサム
スクリプター/イ・ソヨン
出演/キ・ジュボン、コ・インベ、クォン・ナミ、パク・チイル、チェ・ハンナク、ミョン・スンミ(ミョン・ジヨン)
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