Simply Dead

映画の感想文。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『月は…太陽の見る夢』(1992)

『月は…太陽の見る夢』
原題:달은…해가 꾸는 꿈(1992)

moon_sun_dream_poster.jpg

 パク・チャヌク監督の記念すべき長編映画デビュー作。韓国での公開当時は、興行・批評の両面において見事なまでにそっぽを向かれ、監督が『JSA』(2000)や『オールド・ボーイ』(2003)でブレイクした後にも全く省みられず、いまだにDVD化される気配もない幻の作品である。ましてや日本での上映の機会など当分なさそうなので、覚悟を決めて(そこそこ高価な)韓国版VHSを購入してムリヤリ観てみた。もちろん無字幕なので、台詞の細かい内容等について完全には理解していないのだけれども……思っていたよりも、面白かった。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
〈おはなし〉
 釜山の黒社会に身を置くヤクザ者のムフン(イ・スンチョル)は、ある日、ナイトクラブで働く女ウンジュ(ナ・ヒョニ)と運命的な出会いを果たす。ふたりはたちまち惹かれ合うが、彼女は組織のボスの愛人でもあった。隠れて関係を続けていたムフンたちは逃亡を決意。組織の金を奪ってアジトに身を隠すが、間もなく追手に捕らえられてしまう。ムフンは手酷く痛めつけられながら、金を持って命からがら脱出。しかし、ウンジュはドスで頬を斬られ、売春街に売り飛ばされてしまった。

 1年後。ムフンはカメラマンとして成功を収めている腹違いの兄弟ハヨン(ソン・スンファン)のもとに身を寄せていた。ある夜、ムフンはスタジオで1枚の写真を見つけ、驚愕する。それはハヨンが売春街で撮影したもので、そこにはウンジュの姿が写っていた。ムフンは売春街に乗り込み、強引にウンジュを救い出してハヨンの家に連れ帰る。こうして、3人の奇妙な共同生活が始まった。ウンジュの美貌に惚れ込んだハヨンは、彼女にモデルになることを勧め、顔の傷を直すための手術を受けさせる。いつしかハヨンは、ウンジュに対して秘かな恋心を抱き始めていた。

 一方、釜山の組織はムフンたちの足取りを執拗に追い続け、ついに彼らの居場所を突き止める。ウンジュの安全をエサに脅迫されたムフンは、組織の裏切り者を始末するよう命じられ、警官に変装して裁判所に忍び込むのだが……。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 以上のあらすじは「KMDB」の作品解説を参考にしている。読めば分かるように、ストーリー自体は「ヤクザ映画+メロドラマ」という、いたって通俗的なもの。しかし、映像面では若手監督のデビュー作らしい、斬新な試みが随所になされている。別の言い方をすれば、もったいつけたタイトルどおりの「詩的な感覚」を前面に押し出し、凡庸なシナリオを補強しようとした作品でもある。ちなみに『月は…太陽の見る夢』というタイトルは、監督曰く「パウル・クレーだかジャン・ミレーだかの画家の言葉からいただいた」のだそうだ。そして、この映画の興行的失敗を教訓として、以降は題名をシンプルなものにすると心に決めたらしい。

moon_sun_dream_shout.jpg

 初長編を撮るにあたって「自分のスタイリストとしての可能性を模索した」という新人監督パク・チャヌクは、ここぞという場面で、アンバーやブルーといった透明感のある色彩で画面をスタイリッシュに染め上げる。その色遣いへの徹底的なこだわりが、苦難と制約に満ちた第1作を撮りきる上での大きな演出的モチベーションだったのではなかろうか。鼻につく一歩手前の都会的センスで造形されたセットデザインにも、低予算ながらも洗練されたビジュアルを作り出そうと懸命に努力している監督の意気込みが、ひしひしと伝わってくる。

 かといって、オシャレ一辺倒のスカシた映画なのかといえば、さにあらず。軽薄さに流れないノワール主義、血と暴力への傾倒は、本作でも露骨に表れている。刺す・殴る・蹴るといったバイオレンスが噴出する瞬間には、やはりパク・チャヌクらしいキレがあり、パンチのきいた残酷性があるのだ。映画の中盤、病院の廊下で主人公がチンピラを蹴り飛ばすシーンなど、なかなかの迫力である。パク監督自身もファンであるというイ・ドゥヨンのアクション演出も彷彿とさせる、といったら言い過ぎか。

moon_sun_dream_disguise.jpg

 堅実なショット構成、腰の据わったカメラワークも、一見チャラいビジュアルの印象とは異なり、そこらの一発屋とは一線を画した落ち着きと力強さを感じさせる。また、随所に散りばめられた凝った映像テクニックも見どころだ。暴力シーンでの主観映像、時制を混乱させるようなカッティング、『めまい』ショット(ズームバック+トラックイン)などなど……恐る恐る、しかし大胆に、それぞれの技巧が効果的に使われている。

 ただ、やる気のないシーンは本当にブン投げるように撮っている。恋人同士が遊園地ではしゃぐ姿のモンタージュなど、びっくりするほど無感情でありきたりだ。安っぽい部分や、気恥ずかしい演出も少なくない。『モダン・タイムス』(1936)の引用、映画館を舞台にしたベッタベタなラストシーン……ああ、青い! 人物造形にも子供じみたところがあり、特にヒロインのキャラクターが薄っぺらい気がする(台詞がちゃんと聞き取れてないので「気がする」としか書けないが)。何より、主人公ムフンを演じるイ・スンチョルが、映画俳優としての魅力に欠けるのが残念。

moon_sun_dream_bleeding.jpg

 主演のイ・スンチョルは、現在も韓国芸能界で活躍している人気歌手である。本作にキャスティングされた理由は、パク監督たっての希望というわけではなく、制作会社の意向であった。92年当時、彼は大麻吸引スキャンダルでTV出演を禁じられており、そのため「映画に出せば、ファンの女の子たちが劇場に殺到するのではないか?」という浅はかな思惑が生まれたのである。謹慎中でも忙しかったのか、パク監督が主演俳優に対面したのはクランクインの数日前。彼は開口一番「で、どんなあらすじなんですか?」と尋ね、監督の度肝を抜いたという。いざ現場に入ると、ちゃんとプロとして最善を尽くしてくれたそうだが、歌手としての彼を知らない身としては、どうしても力不足に見えてしまう。

 健気なヒロイン・ウンジュに扮したのは、本作で女優デビューを飾ったナ・ヒョニ。芝居やキャラクターの弱さはさておき、画面上では非常に美しく魅力的に撮られている。さすがパク・チャヌク、この頃から女優選びの目は確かだったんだなあー、と感心してしまった。彼女はその後、TVに活動拠点を移し、リュ・シウォン主演の『青空』(1995)などに出演。歌手としても活動しており、本作ではイ・スンチョルとデュエット曲も披露している。

moon_sun_dream_sing.jpg

 役者としては新人の上記ふたりを支えるかのように、この物語の実質的な主人公=語り部であるハヨンを演じたのは、子役出身のベテラン俳優ソン・スンファン。気弱なインテリ風の外見は、どこかパク監督の分身のようだ。観客の視点を代表する存在でもある彼の好演が、本作の要となっている。その他のキャストの中では、ハヨンにつきまとう美人モデルを演じた、パン・ウニの色っぽいコメディエンヌぶりが圧倒的に光っている。『将軍の息子』(1990)のヒロイン役としてすでにブレイクしていた頃だと思うが、パク監督が助監督として参加した『雨降る日の水彩画』(1989)に出演していたことから、デビュー作に花を添えてあげたのかもしれない。

 パク監督がこれまで執筆した文章をまとめた「パク・チャヌクのモンタージュ」(キネマ旬報社)には、映画監督デビューの経緯も詳しく載っている。大学在学中から映画評論家として名を馳せていたパク・チャヌク青年は、卒業後にイ・ジャンホ監督のプロダクションに入って助監督としてのキャリアをスタートさせた。しかし、結婚したばかりで経済的に行き詰まった彼は、クァク・ジェヨン監督の『雨降る日の水彩画』の現場に参加した後、転職を決意。洋画の買い付けや字幕制作などの仕事をする小さな会社で働き始める。しばらくして、会社の規模が少し大きくなった頃「ウチでも1本、低予算映画でも作ってみるか」という話になり、かねてから演出志望を口にしていたパク・チャヌクに白羽の矢が立ったというわけだ。

moon_sun_dream_blood.jpg

 映画全体としては「習作」という印象は否めない仕上がりだが、見どころは多く、単なる失敗作と斬って捨てるには惜しい作品である。少なくとも2作目の『3人組』(1997)よりは、現在のパク・チャヌク監督の作風に通じるエッセンスを感じることができた。

・Amazon.co.jp
和書「パク・チャヌクのモンタージュ」 by パク・チャヌク(キネ旬ムック)

製作/コ・スンチョン、イム・ジンギュ
監督/パク・チャヌク
脚本/キム・ヨンテ、パク・チャヌク
撮影/パク・スンベ
照明/キム・カンイル
音楽/シン・ジェホン、パク・グァンヒョン
出演/イ・スンチョル、ナ・ヒョニ、ソン・スンファン、パン・ウニ、イ・ギヨル、キム・ドンス、パク・ジュニョン、イム・ユンギュ、パク・チョンソル、キム・イェリョン
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://simplydead.blog66.fc2.com/tb.php/418-97bca594
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。