Simply Dead

映画の感想文。

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『ダンプねえちゃんとホルモン大王』(2008)

『ダンプねえちゃんとホルモン大王』(2008)

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 大傑作! あらゆる意味で破天荒の極みでありながら「これが映画だ!」と打ち震えずにはいられない瞬間に溢れた、『イングロリアス・バスターズ』(2009)をも凌ぐ奇跡の1本。笑いと涙と戦慄と、エンタテインメントの全ての要素がぶち込まれ、なおかつ前衛的で破壊的。そして、たまらなく愛おしい。自主映画界の鬼才・藤原章監督のあまりにエキセントリックな語り口が全編に炸裂しながら、この『ダンプねえちゃんとホルモン大王』は、観客全員が清々しいカタルシスを得られる文句なしの娯楽作に仕上がっている。これはものすごい離れ業だと思う。

 何しろ全ての登場人物がことごとく魅力的。免許もないのに「ダンプねえちゃん」と呼ばれている珍妙なメイクのヒロインを始め、世界ケンカ大会チャンピオンの看板を背負った男の中の男・ホルモン大王、ダンプねえちゃんに憧れる美容師志望のフリーター・ポン子、スラム街で電車ごっこに興じる貧乏兄妹、本業は医者だが武道の達人でもある大先生、山奥に住む謎のゴリラ人間などなど……。突拍子もないキャラクター造形にも、深みのある人間観と愛情を感じずにはいられない。

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 そんなポンコツガール&トンチキボーイが、灰色の港町で織り成す小さな恋のメロディー、あるいは森崎東も顔負けの人情喜劇。それがいつしか猟奇的なサイコホラーとなり、血湧き肉踊るリベンジムービーへと変貌する。観客の予想を常に裏切り続ける真にオリジナルな発想力で、物語の約束事を容赦なく破壊しつつ、さらに凄みに満ちた展開をたたみかけて映画のボルテージを数段にも引き上げてしまう。それはまさに、鬼才の仕事というほかない。

 あとやっぱり、ものすごく笑えるところが素晴らしい。特に後半のゴリラ人間が登場するくだりは、自分の中の笑いのツボを鉄パイプでガンガンぶっ叩かれてるかのような、今年最高の笑撃シーンであった。あそこでクスリともこない人は、ちょっと病院で看てもらった方がいいと思う。

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 役者陣の演技も本当に素晴らしく、全員がとてつもない実在感を漂わせている。主人公・ダンプねえちゃんに扮した藤原作品のミューズこと宮川ひろみの熱演は、本作最大の魅力のひとつだ。気っぷの良さとオッチョコチョイな性格でみんなに好かれながら、数字にまつわるあまりにバカな悲しみを抱えたヒロインを、健気に爽やかに、体当たりで演じきっている。

 その他にも多彩な脇役陣が目白押しだが、中でも圧巻の存在感を放っているのが、ヒロインに格闘技の特訓を施す大先生を演じる切通理作。その本業を知らなくとも、この映画を観て彼の名前を覚えていかない人はいないだろう。また、ヒロインを姉御と慕うポン子役・徳元直子の好演、ニートのお兄ちゃん役・酒徳ごうわくのハマリっぷり、ラーメン屋の大将・高橋洋が漂わせる風格、店の常連客・篠崎誠のえも言われぬ説得力、気のいい労務者・渋谷拓生が滲ませる安心感、ヒロインを苦しめる柔術家・花くまゆうさくが放つ凄みなど、いちいち秀逸なキャスティングで楽しませてくれる。

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 だが、やはりこの映画は、ホルモン大王=デモ田中の存在なしには成立しえなかっただろう。まるで劇画から抜け出てきたような豪放磊落な風来坊であり、同時に底知れぬ狂気を秘めたホルモン大王というキャラクターを、ここまでパワフルに説得力十分に演じられる俳優がいるだろうか。その恐るべき正体が明かされる驚愕必至のクライマックスで、彼が劇中それまで見せていた表情とは全く違った佇まいを放つ瞬間も、鮮烈なコントラストを生み出していて絶品だ(撮影当日、二日酔いでものすごく体調が悪かったらしい)。

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 ほかの藤原作品と同様、本作もオールアフレコ方式で作られている。これは編集の際に撮影時の台詞とは全く内容が変わってしまうためらしく、ポスプロ中にもどんどん映画が進化していくという自由奔放な製作スタイルを貫いているからだ。そのリップシンクなどお構いなしの映像と音声のミスマッチ感が、往年のクンフー映画クラシックスを想起させ、暴力とロマンに満ちた映画的記憶に訴えかける独特の効果を生んでいる。

 そのアヴァンギャルドとさえ言える編集スタイルは、藤原作品の大きな特徴だ。過去作品のフッテージや、現実のアクシデントさえも取り込みながら、その作品宇宙になくてはならない強烈なワンシーンとして成立させてしまう。劇場へ観に行った時に行われたトークショーで、クライマックスのある描写がその場で偶然に起きた「事故」だったという話を聞き、驚愕した(ていうか、あれ本物の●●だったのか……)。まさにムービーマジック。

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 今回の映画は、これまでの作品と違って比較的ストレートな娯楽映画を目指して作ったというだけあり、お世辞でなく本当に(いつもよりは)幅広い観客層に受け入れられる、魅力的な快作に仕上がっていると思う。それでも藤原作品らしい一筋縄ではいかないツイストに満ちた、アナーキーな野性味溢れる異色作であり、自主映画ならではの奔放さと荒々しさが全編に迸っている。何か今まで感じたことのない強烈な映画体験を味わいたいという方には、ぜひ観ていただきたい未曾有の傑作だ。『ダンプねえちゃんとホルモン大王』を観ずして、2009年のベストは決められない!

・Amazon.co.jp
DVD『ダンプねえちゃんとホルモン大王』


監督・脚本/藤原章
音楽/ピラニア楽団
出演/宮川ひろみ、デモ田中、坂元啓二、徳元直子、酒徳ごうわく、切通理作、朝生賀子、花くまゆうさく、村田卓実、渋谷拓生、浦島こうじ、吉行由実、篠崎誠、高橋洋


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コメント

見てくれてありがとな!

  • 2009/12/31(木) 22:17:40 |
  • URL |
  • ダンプねえちゃん #-
  • [ 編集]

きょ、恐縮です! 応援してます!

  • 2009/12/31(木) 22:39:26 |
  • URL |
  • グランバダ #-
  • [ 編集]

ご覧いただきありがとうございます。
また、思いやりと励みになる文章に感激しました。
おかげ様で2月くらい特別上映するかと思います。
機会があればお声をかけてください。

  • 2010/01/01(金) 10:08:37 |
  • URL |
  • 藤原章 #-
  • [ 編集]

こちらこそ、感動をありがとうございました!
本当に素敵な、幸福感に溢れた傑作だと思います。

2月の特別上映もぜひ駆けつけます。
大勢で観て盛り上るのが楽しい作品だと思うので、
こんどは誰か知人も誘って連れて行きます。

ちなみに、つぎたさんとは前から知り合いなので、
いつかご挨拶だけでもさせていただければ光栄です。

ありがとうございました!

  • 2010/01/02(土) 02:29:32 |
  • URL |
  • グランバダ #-
  • [ 編集]

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