Simply Dead

映画の感想文。

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『碧水寒山奪命金』(1980)

『碧水寒山奪命金』(1980)
英語題:The Enigmatic Case

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 70年代には香港の放送局TVBで働いていたジョニー・トーが、25歳の時に映画監督デビューを飾った時代劇の佳作。無実の罪で追われる身となったアウトローと、復讐心を胸に秘めたヒロインの交流を軸に、追手との激しい戦い、そして盗まれた金塊の行方をめぐる謎解きが描かれる。

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〈おはなし〉
 輸送中の金塊を強奪した上、盗賊仲間も皆殺しにしたという罪で投獄された流れ者のルー(ダミアン・ラウ)。彼は牢獄内で起きた暴動に乗じて脱獄し、我が身の潔白を証明しようと、強奪事件のあった村へと向かう。道中、彼はひとりの美しい娘ペイペイ(チェリー・チョン)と出会う。彼女の父親は、金塊輸送中に盗賊たちに襲われ、命を落とした役人であった……。

 容赦ない追跡の手をかわしながら、ペイペイの無念を晴らすためにも、事件の真相を探っていくルー。はたして盗まれた金塊の行方は? 本当の犯人は誰なのか? 全てが明らかになった時、そこには哀しい結末が待ち受けていた。

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 同時期の香港ニューウェーヴ時代劇、例えばツイ・ハーク監督の『蝶変』(1979)や、パトリック・タム監督の『名剣』(1980)などに比べると、『碧水寒山奪命金』はやや地味な作りの小品ではある。しかし、雄大な自然を背景にした美しい映像、ストイシズムとロマンが薫る悠然とした語り口には、すでに確固たるオリジナリティが感じられ、非常に魅力的だ。特にロケーションには相当こだわったのだろう。風景を眺めているだけでも飽きずに観ていられる。撮影は『シークレット』(1979)やツイ・ハーク作品の常連スタッフとして知られるデイヴィッド・チャンと、香港ニューウェーヴを代表する作家アレン・フォンの『父子情』(1981)も手がけたチョン・ユン。

 映像的には、どこか日本のTV時代劇からの影響も感じられる。イメージショット的なモンタージュで構成されたオープニングタイトルは、ほとんど『木枯し紋次郎』や『子連れ狼』の世界。見せ場となるアクションシーンは、狭い路地での立ち回りや、大勢の敵を相手にした窮地脱出のサスペンスなど、それぞれにひと工夫あって面白い。激流下りのスペクタクルといった見せ場もきちんと用意され、ツボを押さえた娯楽演出には好感が持てる。

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 一方で、他のニューウェーヴ監督に対抗するかのような斬新な演出もしっかり盛り込まれている。特に、終盤の洞窟内でのバトルが素晴らしい。暗闇のなかで、ヒロインが火打石を擦るたびに剣士たちの鍔迫り合いが一瞬だけ浮かび上がる演出が鮮烈だ。さらにその直後、コマ落としのスロー映像で延々と描かれる殺陣も、異様なスリルに満ちている。単なる一対一のバトルなら単調で間延びした感じになるところを、観客がハラハラしながら見守るしかないドラマティックな工夫がされていて、なかなかの発明だと思った。

 クライマックスでは、主人公たちの感情が昂りすぎて、ほとんど笑ってしまうほどハイテンションな激闘が繰り広げられる。それにしても、寡黙でストイックな主人公が完全に怒りと憎しみだけで敵に向かっていくというのは、なかなか時代劇としては珍しい展開ではないだろうか。ネタバレになるので、あんまり詳しくは書けないけれども、ジョニー・トーって昔から女性キャラに冷たいんだなあ……(もう言ってるようなもんか)。

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 寡黙な剣士を演じるのは、TV俳優として活躍していたダミアン・ラウ。アン・ホイ監督らの参加したドラマシリーズ『ICAC』『北斗星』や、ジョン・ウー監督が初めて手がけた武侠片『豪侠』(1978)など、この時代に活躍していた若手監督の作品にはよく登場する俳優だ。本作では自らプロデュースも手がけており、のちに監督作『天魔の剣』(1986)を発表したり、チン・シウトン監督の傑作『ザ・SFX時代劇 妖刀斬首剣』(1983)にも出演していたりする、たいへん分かっている御仁である。また、可憐なヒロインを演じたチェリー・チョンは、これが映画デビュー作。やや演技が硬いところはあるが、感情を爆発させるシーンもひたむきに熱演し、初々しい魅力を放っている。のちに彼女は80年代の香港映画ブームを代表する大人気女優となった。

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 本作が興行的に振るわなかったせいか、ジョニー・トーは再びTV業界に戻って番組制作に従事し、5年後に映画界へ復帰。『マギー・チャンのドッカン爆弾娘』(85)の助監督などを務め、『ハッピー・ゴースト ?サイキック歌姫転生の巻?』(1986)で監督として返り咲く。以降の活躍はご存知のとおり。釜山映画祭で行われたジョニー・トー監督特集では、この『碧水寒山奪命金』も上映されたというから、日本でもやってくれないものだろうか。とてもスクリーン映えする作品だと思う。


製作/ダミアン・ラウ、チアン・ハン
監督/ジョニー・トー
脚本/チュー・アウ
撮影/デイヴィッド・チャン、チョン・ユン
出演/ダミアン・ラウ、チェリー・チョン、ラウ・コン、チアン・ハン
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