Simply Dead

映画の感想文。

『凶榜』(1981)

『凶榜』(1981)
英語題:The Imp

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 日本では『デビル・キャット/凶猫』(1986)『エミリー・チュウの吸血奇伝』(1987)などで知られる、香港のデニス・ユー監督による未公開オカルトホラー。派手さはない佳作だが、なかなか面白かった。

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〈おはなし〉
 主人公キョン(チャーリー・チン)は28歳の働き盛りだが、現在は失業中。再就職はままならず、妻のシウラン(ドロシー・ユー)は出産を間近に控えていた。彼は新聞の求人広告を頼りに、とある近代的ビルの警備員として働き始める。ところが、その日から次々と不気味な現象が続発。同僚たちも相次いで怪死を遂げる。キョンはこのビルの建つ場所が、かつて誘拐犯のアジトであり、多くの子どもが殺されていたという事実を知り震え上がる。そんな時、葬式でたまたま出会った風水師(ユエ・ホア)が、彼につきまとう邪霊を取り払ってあげようと申し出てきた……。

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 これが長編3作目となるデニス・ユーは、海外留学を経験し、TV業界での活動を経て映画界に乗り込んできた「香港ニューウェーヴ」派のひとり。プロデューサーとしても『狼の流儀』(1982)や『レスリー・チャン/嵐の青春』(1983)などの重要作を手がけている。本作『凶榜』では、妊娠というデリケートなモチーフを扱い、古典的なゴーストストーリーに男女間のネガティヴな心理ドラマの要素を加味。主人公が精神の均衡を崩していく神経症的スリラーとしても観ることができるあたりは、ロマン・ポランスキーの影響が強いとも言われている。映像的には、前年に香港で大ヒットした『ザ・フォッグ』(1979)のテイストも入っていると思われる。

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 個々のホラー描写はそれほど派手ではなく、幽霊自体も画面にはあまり登場しない。しかし、照明・カメラワーク・音響効果のコントロールによって不穏なムードを巧みに醸成し、全編に恐怖と緊張感を行き渡らせている。また、中盤からは主人公を助ける風水師が登場し、陰陽術で悪霊を退散させようとする展開にシフトするあたりが、非常に香港映画らしい(そのせいで、夫婦間の心理スリラーとしての構造は若干揺らいでしまうのだが)。中国古来の幽霊譚を、都市型モダンホラーとして再構築しようと試みた作品としては、その後の香港ホラーの先駆けとも言えるだろう。往年のアクション俳優ユエ・ホア演じる風水師も昔ながらの衣装ではなく、ごく普通のスーツ姿で現れるところが新しい。

 終盤になると、除霊シーンのスペクタクル、ビルの真下に巨大な地下空間が現出するクライマックス、ゾンビ映画風の展開など盛りだくさん。ピート・ウォーカーの映画も思わせるダークな結末も、なんともいえない余韻を残す。

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 俳優陣の好演も印象的。甲斐性のなさに悩み、夫婦生活にも迷いを感じているナイーヴな主人公を演じたのは、70年代から二枚目スターとして絶大な人気を得ていたチャーリー・チン(チェン・シャンリン)。『五福星』シリーズのハンサム役でも日本の映画ファンには馴染み深いだろう。ちょっと気の強い奥さん役、ドロシー・ユーの魅力的な表情も本作の見どころ。同僚の警備員ファッティ役を演じる名脇役ケント・チェンも、いい味を出していた。

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・YESASIA
DVD『凶榜』デジタルリマスター版(香港盤・リージョンオール・英語字幕つき)


製作/ウォン・チェンシン
監督/デニス・ユー
脚本/チョン・カムムン、カム・ピンヒン、ダン・リー
撮影/ボブ・トンプソン
美術/クワン・カムミン
編集/ユー・クォクフン
出演/チャーリー・チン、ドロシー・ユー、ユエ・ホア、シェン・チャン、ケント・チェン
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