Simply Dead

映画の感想文。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『母なる証明』(2009)

『母なる証明』
原題:마더(2009)
英語題:Mother

jun-ho_mother_kr-poster.jpg

 面白かったし、凄いとは思うんだけど……何か釈然としないものが残る映画だった。もちろん映画好きなら必見の作品だし、ハッキリ言って「今、ポン・ジュノの新作を観に行かないやつはバカだ!」と言い切れるほど、この監督はもはや世界レベルで目が離せない作家であると思う。さらに、これほど賛否両論が分かれる作品もないだろう。その評価は、ぜひ自分の目で観て決めてほしい。ぼくも、観るまでこんな後味を持ち帰る映画だとは思わなかった。

(以下、映画全体の印象に触れているので、未見の方はご遠慮ください)


jun-ho_mother_cemetary.jpg

 ポン・ジュノという人は『殺人の追憶』(2003)にしろ『グエムル ─漢江の怪物─』(2006)にしろ、自分の手に余る題材に敢えて挑んで、その上で自分のヘンテコな持ち味に力業で引き寄せてしまうところが大きな魅力だった気がする。しかし、今回の『母なる証明』は、ちょっと自分の手札に頼り過ぎたというか、手癖だけで作りすぎた感がある。そのあたりがちょっと残念ではあった。もちろん演出家としてのスキルも度量も前2作に増して高まっており、その画面構成力はもはや巨匠の風格すら感じさせるものだ。思わず膝ポンしたくなる見事なシーンの連続で、あのラストなんて「タイム誌が選ぶ映画ベスト・エンディング50」(んなもんあるかどうか知んねえけど)とかに選ばれても全然おかしくない。どこを切ってもポン・ジュノ印、誰が観ても「凄い作家の映画が現れた!」と思うだろう。しかし……それ以上のサムシングはない。それで充分のはずなのに。

 今回の『母なる証明』は、ポン・ジュノがこれまでにないほど自身の作風をストレートに打ち出し、これまで培ってきた技量をフルに発揮し、今頃になって作った「名刺がわりの1本」という感じが、個人的にはどうしても拭えなかった。脚本完成までに4?5年かかってしまったというから、そのタイムラグもあるかもしれない。

 また別の言い方をすれば、ポン・ジュノは今度こそ真面目に、世界に通用する巨匠になろうとしている気がする。みんなが傑作と呼びやすい映画を作ろう、と心に決めたかのように。だから、この映画で初めてポン・ジュノを作家として認識した人、今までこの監督を誉めていいのかどうか決めあぐねていた人、あるいは『殺人の追憶』はビデオで観たけど『グエムル』は劇場で観なかったような人でも、ちゃんと「歴史に残る傑作!」と大絶賛できるフィルムだとは思う。ただ、以前からファンだった人ほど、ちょっとした違和感を覚えるのではないだろうか。確かに“ポン・ジュノ煮込み”みたいな映画だけど、それだけだったなあ……みたいな。

jun-ho_mother_running.jpg

 と、ここまでは個人的なボンヤリした印象の話なので単なるタワゴトと受け流してもらっていいのだが、それとは別に、今回どうにも無視できなかったウィークポイントがある。それは「ただ意地悪なだけ」という作家的性格が、あまりに大っぴらに露呈しているところだ。もちろん初長編『ほえる犬は噛まない』(2000)、あるいは短編『支離滅裂』(1994)などを観れば一目瞭然、明々白々の事実なのだが、それでもやっぱり煙の巻き方、オブラートの包み方に芸がある監督だということは誰もが認めていたはず(その辺がパク・チャヌクとは一線を画している)。しかし『母なる証明』は、ミステリアスな語り口に凝りすぎたせいか、露悪的なあざとさがいつにも増して目立ち、ある意味ワキが甘くなっている。ああ見えて、実は人間観がさほど深くないように感じられてしまうのだ。もちろん凡百のドラマに比べれば充分すぎるほど人間の闇をえぐっているとは思うのだけど、ポン・ジュノにはどうしてもそれ以上のマヌケとシリアスの混沌、魅力的な割り切れなさを望んでしまうのである。

 またボンヤリした話に戻るが、ポン・ジュノにとっての『母なる証明』は、パク・チャヌクにとっての『親切なクムジャさん』(2005)にあたるのではないだろうか。手癖で作りすぎてハズしている、作り手の悪いところをあまりに無防備にさらけ出している、という点でも印象が被る。ぼく自身はパク・チャヌク原理主義者なので『クムジャさん』も公開当時はハシャいだ態度で賞賛しつつ、だんだん「困った映画だなあ」という印象にすり替わっていった。今ではまたグルッと回って冷静に再評価したい気分なので、『母なる証明』の評価もそのうち時間が経てば変わるかもしれない。ただ、今の気分では、もろ手を上げて受け入れられないところがある。

jun-ho_mother_pond.jpg

 まあ、先に『渇き』(2009)を観てしまったことも当然大きい。パク・チャヌクが作家としていろんな局面をくぐり抜けた末に撮り上げた渾身の傑作を観てしまった今となっては、『母なる証明』はまだ未成熟な感じがしてしまうのだ。ポン・ジュノも、順番的には次に『サイボーグでも大丈夫』(2007)級の怪作で清々しい迷走をかまして、それから一皮むけた真の傑作を世に問うてくれることだろう。どっちも凄く観てみたい。

 あとやっぱし、俳優のキャスティングと動かし方はみんな良かった。特にトジュンの悪友、ジンテ役のチングが素晴らしい。『奇談』(2007)といい、本当にイイ役者だなあと思う。おなじみユン・ジェムンが役名も「ジェムン」だったところには吹いた。


原案・監督/ポン・ジュノ
脚本/ポン・ジュノ、パク・ウンギョ
撮影/ホン・ギョンピョ
音楽/イ・ビョンウ
出演/キム・ヘジャ、ウォンビン、チング、ユン・ジェムン、チョン・ミソン
スポンサーサイト

コメント

明けましておめでとうございます。いつも興味深く拝見させていただいております、数年来の韓国映画ファンの者です。「母なる証明」を観て、何か釈然としないところがあり、何が原因なのかずっとうまく言い表せずにおりました。ら、こちらで見事に解説されており、あまりに気持ちよく俯に落ちたのでコメントを残しました(笑)。全くの同感です。ポンジュノの大ファンだからか、こういう客観的言葉を持ち得なかった自分に気付き、目からウロコでした。今年もこのブログとトラッシュアップ、楽しみにしております。頑張って下さいね!

  • 2010/01/02(土) 04:02:42 |
  • URL |
  • nakano #-
  • [ 編集]

コメントありがとうございます。励みになります!
『母なる証明』は本当に会う人ごとに感想が異なる作品で、その現象自体がとても面白いなあ、と思います(この映画をきっかけにポン・ジュノのファンになる人がいたら、それも素晴らしいことですし)。自分では「ボンヤリした感想だなあ」と思うんですが、同意していただける方がいて、ちょっとだけ安心しました(笑)。パク・チャヌクの『渇き』は、さらにハッキリと賛否両論を呼びそうな作品なので、その反応が楽しみです。
これからも韓国映画シーンには注目していきたいと思います。deadsimple、TRASH-UP!! ともども、今年もよろしくお願いいたします。

  • 2010/01/04(月) 09:30:31 |
  • URL |
  • グランバダ #h1buydM2
  • [ 編集]

ご返信いただき感激です。ありがとうございました。話題の「渇き」、待ちきれず手を尽くし観ることができました。凄い映画でした。ソンガンホは凄い地点まで行っちゃいましたね。彼のような俳優が今の日本映画界にも欲しいところです(無理なのかもな)。
個人的な話で恐縮なのですが「優雅な世界」が意外によく、ソンガンホが彼らしくハマっててよかったです。キムギヨンBOXも下女も凄かったし韓国映画は奥が深いです。アンノウンな良い作品があればまた教えて下さい。

  • 2010/01/07(木) 15:02:27 |
  • URL |
  • nakano #-
  • [ 編集]

お返事が遅れてすみません。「TRASH-UP!!」の原稿と格闘していたもので……(今も継続中なんですが)
『渇き』のソン・ガンホは凄いですよね。ああいう「引き算」のかたちでそれまでのイメージを完全に作り変えてしまった俳優は、あまり見たことない気がします。足し算で作り込んでいく例なら『ダークナイト』のヒース・レジャーとか、たくさんいると思うんですが。
もし原作の『テレーズ・ラカン』を読まれていなかったら、ぜひ一読をお勧めします。今読んでも最高に面白い本ですし、内容を知ってから『渇き』を観るとまた楽しめると思います。

韓国映画については、ぼくも去年からハマったばかりなのでそれほど詳しくないんですが……とりあえずユン・ジョンチャン監督の『鳥肌』はおすすめです。DVDは韓国盤しか出ていませんが、日本語字幕が入っているので大丈夫です。あと、近作では『亀、走る』『キム氏漂流記』『バンドゥビ』、日本でも春公開予定の『息もできない』が素晴らしかったです。

  • 2010/01/13(水) 17:25:00 |
  • URL |
  • グランバダ #-
  • [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://simplydead.blog66.fc2.com/tb.php/405-30140031
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。