Simply Dead

映画の感想文。

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『AKIRA』爆音上映@カナザワ映画祭2009

『AKIRA』(1988)
爆音上映@カナザワ映画祭2009

akira_flyer.jpg

 最高。涙が出た。先日開催された「カナザワ映画祭2009 新世界秩序サバイバルガイド」で、実はいちばん素直に楽しみにしていたのが『AKIRA』の爆音上映だった。この映画のファンならば、必ず一度は「耳がバカになるくらい最高にキレた音で観てみたい!」と思ったことがあるだろう。とにかく、これだけは観ておかなければ東京に帰れないと思っていた。

 しかもプリント上映、ということは《劇場公開版》だ! ビデオリリース以降、オフィシャル・バージョンとなった《国際版》ではなく、幾つかの技術的ミスを残したまま公開された最初のバージョンである。ここ最近はデジタル素材で上映される機会が多く、公開時のバージョンはこのまま封印されてしまうのではないかという危惧もあったので、カナザワ映画祭ではちゃんとプリントで上映すると知った時には心底嬉しかった。もちろん作者としては悔いの残るバージョンだと思うけど、『ブレードランナー』ファンにとってのワークプリントみたいなもので、これはこれで愛着があるのだ。

 冒頭、静寂を打ち破って響きわたる「ドォォォォォン・・」という重厚なパーカッションの音。『AKIRA』という映画の場合、この音の聴こえ方で、これからの2時間が楽しめるか楽しめないか決まってしまうと言っても過言ではない。吉祥寺バウスシアター「爆音映画祭」スタッフに協力を仰ぎ、コンサート用の巨大なスピーカーをスクリーン前にデーンと設置したカナザワ映画祭謹製“フィルマゲドン・サウンド”の威力はどうだったか? ……最高だった。立ち上がって「合格!」と叫びたいくらい素晴らしい瞬間だった。続く暴走族のチェイスシーン、鉄雄の悪夢、地下施設の下水道でのバトルといった見せ場の数々も、まるで爆音によって映画本来の獰猛なパワーを取り戻したかのようで、ムチャクチャ興奮した。個人的に大好きな、アキラを閉じ込めた巨大カプセル浮上から金田と鉄雄のタイマン勝負、SOLによる攻撃のくだりも大満足。今まで何度も観ているが、間違いなく最高に楽しい上映だった。

 重ねて言うが、ここで上映されたのは《劇場公開版》である。その後、1億円の追加予算を投じて修正を施し、音響もグレードアップさせた《国際版》でも、5.1chドルビーTrueHD仕様になったBlu-ray版でもない。音響マニア的なクオリティ判断からすると決して最高水準とは言えない、あくまで88年当時に国内の劇場で再生可能だったドルビーステレオ版である。だからこそ、今回の4.1ch対応の爆音上映サウンドシステムにはピッタリだった。最新のスピーカーシステムに合わせて綺麗にディスクリートされた高品質デジタル音響とはまた違う、プリミティヴな荒々しさと色褪せない斬新さがないまぜになったアナログ時代の暴力的な音のカオスは、『AKIRA』というフィルムが元来持つ魅力と直結しているように感じた。そして改めて、そのサウンドデザインが《劇場公開版》の時点ですでに、設計理念・クオリティの両面で他の日本映画とは一線を画すものだったことも思い知らせてくれた。最初からフィルム自体が「Play this LOUD!」と叫んでいる作品だったのだ。

 映像面でも、今回の爆音上映に関しては《劇場公開版》であることが、いい効果を生んでいたのではないか。色パカやセルズレなどの失敗もそこかしこにありながら、それゆえに勢いとパワーに溢れた作品という印象の強い旧バージョンだからこそ、公開当時の熱狂を最良のかたちで追体験できたような気がする。ファンとしては当然、Blu-rayの高画質・高音質でも一度は観てみたいと思うけれども、それとこれとはまた別の話だ。

 爆音上映とは、決して「高音質」という意味ではない。というか、基本的には「映画を破壊する」ような、野蛮な行為だと思ってもいい。いわゆる最適環境からは逸脱したボリュームで上映するので、無理や破綻が生じることなどザラにある。音は割れるし、ダビングの穴も目立つし、SE同士のディテールが相殺されてしまうこともあるし、ほとんどの場合「完璧な上映」とは程遠い。重低音のエフェクトが延々と続くようなシーンでは、観客の耳にかなりの負担をかけるので、人によっては体調を崩すことだってあるだろう。

 だが、ある瞬間、爆音でしか得られない快感が波のように襲ってくる。通常の劇場映写や、ホームシアターでの観賞では到達し得ない何かが、何倍にも増幅されて押し寄せてくるのだ。爆音上映に参加することは、観客各々がそのエクスタシーを発見する作業なのである。

 ゆえに、ただ音の迫力が凄い映画だからって、爆音向きとは限らない。爆音で上映したらさぞかし素晴らしいだろうと思って観てみたら「失敗した……」という例だってある。が、中には『サスペリア』(1977)や『マルホランド・ドライブ』(2001)、『デス・プルーフ』(2007)、そして本作『AKIRA』のように、最初から最後まで「爆音の神様」に愛されてしまったような奇跡的なフィルムも存在する。そういう映画に出会った時の嬉しさったらない。全ては発見であり、それこそが醍醐味なのだ。

 カナザワ映画祭というイベントにも、同じようなことが言えると思う。映画を観るという行為を楽しみつつ、同時にフィルムと戦うような姿勢でスクリーンと対峙し、貪欲に発見を求める前のめりな観客たちが集う映画祭というのは、実は他にあまり類を見ないのではないか。心身共に大いに消耗させられつつ、そのカタルシスが癖になり、参加している時はシンドくても、終わってしまうと「次もまた来よう!」と思ってしまうのだ。だから来年もぜひ開催してほしいし、今度はどんな方向から観客を挑発してくるのか、楽しみにしている。

・Amazon.co.jp
Blu-ray『AKIRA』


原作、監督、キャラクターデザイン/大友克洋
脚本/大友克洋、橋本以蔵
作画監督/なかむらたかし
作画監督補/森本晃司
美術/水谷利春
音楽/芸能山城組
音響/明田川進
制作スタジオ/アキラスタジオ
アニメーション制作/東京ムービー新社
声の出演/岩田光央、佐々木望、小山茉美、石田太郎、玄田哲章、鈴木瑞穂、大竹宏、渕崎有里子、大倉正章、草尾毅、神藤一弘、中村龍彦、伊藤福恵
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