Simply Dead

映画の感想文。

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『影』(1968)

『影』(1968)
英語題:Yeong

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 韓国映像資料院の映画データベース・サイト「kmdb」では、一部所蔵作品のネット配信も行っている。基本的には有料だが、月替わりで「ホラー」「特撮」「満州ウエスタン」など様々な特集を組み、無料で韓国映画の旧作を視聴することができる(要登録・無字幕・Mac非対応)。8月の特集は「格闘アクション映画」で、韓国映画人が参加したり、韓国ロケを敢行した香港映画を始め、8本の作品が配信された。そのうち日本では後にも先にも観る機会のなさそうな作品を3本ほど観てみたが、いちばん面白かったのがイム・ウォンシク監督の『影』だった。

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 満州を舞台にした『影』は、トッコ・ソン演じるニヒルな流れ者の剣客“影”が、馬賊の暴虐に苦しむ朝鮮移民の村人たちを救うという、時代劇+西部劇風の筋立て。ビジュアル的にはまるっきり時代劇だが、音楽は『続・荒野の用心棒』(1966)の完全なイタダキだったりするので、これも『グッド・バッド・ウィアード』(2008)の元ネタとなった“満州ウエスタン”の1本といえるかもしれない。

 主人公が居合い抜きでバッタバッタと敵を斬りまくる殺陣は、三隅研次?キン・フーの系譜に連なる荒唐無稽アクションスタイル。ありえない動作でいちどに何人も叩き斬るダイナミックな剣戟が痛快。とはいえ、香港や日本ほどジャンルムービーが発展していた時代ではないので、なんとなく段取りが悪かったり、グダグダになったりしている部分も少なくない。「遠くから飛んできたナイフが敵の体に刺さる」という場面で、フレームの外からナイフを投げるスタッフの手が映り込んでたり、普通ならNGになるカットも平気で使ってたりする。しかし、イム・ウォンシクの演出が活劇の呼吸というものを心得ているからか、さほど欠点は気にならない。スピーディーに場面転換をたたみかけるアクション・シークェンスの見せ方はなかなかのものだ。

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 むしろ、アウトロー時代劇/西部劇のフォーマットに忠実な、見事な換骨奪胎ぶりに感心してしまう。瀕死の重傷から復活した主人公が馬賊の集団に単身リベンジを挑むクライマックスは『用心棒』(1961)、最後のダメ押し的に描かれる剣客同士の一騎討ちは『椿三十郎』(1962)、そしてラストシーンはまるっきり『シェーン』(1953)だ。よく研究している。ただし、時代的なお約束として、主人公は村の少年に別れを告げる際、民族独立と融和を象徴する太極旗を託すわけだが。

 監督のイム・ウォンシクは、戦争映画にホラーにメロドラマに武侠アクションと、あらゆるジャンルの作品を手がけた韓国の典型的職人監督。後年は『母』(1976)で大鐘賞最優秀作品賞を獲得した。本作『影』ではテンポのいい語り口と歯切れのいいカッティング、そして魅力的なキャラクター描写で、心地好く全編を見せきる。叙情的なシーンの演出もいい。まさに職人技だ。雄大な自然を捉えたロケ撮影も効果的で、特に空と雲の映し方が美しく、鮮やかな印象を残す。

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 主演のトッコ・ソンは、元々は悪役を得意とした俳優だそうだが、本作での寡黙でストイックなアウトロー役も結構ハマっている。馬賊の首領に扮するのは、当時の韓国アクション映画の顔と言われたホ・ジャンガン。本作では月代(いわゆる侍ハゲ)にナマズ髭、キンキラキンの殿様風衣装という唖然とするようなビジュアルで、悪役を憎々しく怪演。大変な人気を誇る映画スターでありながら、珍妙な役も平気で引き受けてしまうのが韓国映画界の面白いところだ。ちなみにホ・ジャンガンは『グッド・バッド・ウィアード』の原典的作品『鉄鎖を断て』(1971)にも悪役で出演している。

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 その手下に、拳銃使いの美女やら、ナイフ投げの名手やら、弓矢の達人やら、鎖つきの鉄球を振り回す剛力やら、バラエティに富んだキャラクターが勢揃いしているのもマカロニ的で楽しい。また、悪役専門俳優としてならしたイ・イェチュンの堂々たる宿敵ぶりも見どころ。個人的に新鮮だったのは、首領の丁稚として働く小汚い少年のキャラクター。やたら狡猾で手癖も悪く、雑草のように最後までしぶとく生き残る役として、ブラックユーモアをまじえて描かれている。ポジション的には、『用心棒』でイキがってヤクザに入るが最後には逃げ出してしまう貧農の倅の役柄を踏襲しているのだが、人物造形は全然違う。ある種のネガティブな韓国人気質を揶揄した存在なのか。少なくとも、主人公と交流を持つ村の少年なんかよりは遥かに面白いキャラクターだ。

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 いまだに韓国語のヒアリング力はまるで上達していないが、字幕なしでも十分に楽しめたし、かつての韓国映画界におけるジャンルムービー研究の熱心さが如実に伝わってくる快作だった(著作権問題を潔くフライングした音楽の使い方も含めて)。

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 ついでに、同じアクション映画特集で観た他の作品についても、メモ程度に。コ・ヨンナム監督の『毒蛇』(1975)は、韓国のチャールズ・ブロンソンと言われたボビー・キムが主演のクンフー映画。強くてモテモテの主人公が、インターポールの依頼で悪の組織と対決する現代アクション。すでに韓国でも格闘アクションブームが全盛の頃に作られた映画だが、流行の火付け役となったイ・ドゥヨン監督のシャープで力強いアクション演出とは違い、コ・ヨンナム監督の演出はいかにもアクションの見せ方に興味がなく、あまりに大雑把。後年は『バイオレンス・コネクション/処刑警察』(1990)という佳作も撮るのだが、この作品では惰性でやってる感じ。とはいえ、中盤の列車内でのバトルはなかなか見応えがある(やたら長いし)。脚本は、のちに『クレイジーボーイ』(1985)などのイ・ドゥヨン作品や『?処刑警察』などを手がけるユン・サミュク。ホ・ジャンガンがインターポールの警視役でチラリと出演し、これが遺作となった。

 もう1本は、巨匠イム・グォンテクが職人時代に撮った武侠アクション『雷剣』(1969)。なんと日本語字幕つきのプリントで、おそらく79年に行われた韓国文化院のイベント「韓国の名画を楽しむ会」で上映された素材ではないだろうか。内容は、新羅・高句麗の両国対立の陰に暗躍した、剣士(というか忍者)たちの熾烈な戦いと駆け引きを描いたもの。キャラクターの神出鬼没ぶりを表すトリッキーな撮影技法の数々が楽しく、創意に富んだアクションも相当な見応え。ではあるが、登場人物全員が嘘をついているか裏切り者であるかのどちらかしかないので、観ているうちに「どーでもええわ、もう」と思ってしまうところが難点。朝方に観ていたせいもあるが、途中で5?6回くらい落ちてグーグー寝た(字幕ついてるのに)。多分、イム・グォンテクも内容に少しも魅力を見い出せず、結果的にひたすら映像テクニックにばかり力を注ぎ、ストーリーをどう見せるかには興味が湧かなかったのだろう。元々は映画好きでもなんでもなく、ただ生活のために撮影所に潜り込み、監督デビュー11年目の『雑草』(1973)で初めて映画作家として目覚めるという人だから、まあ仕方がない。

 なお、kmdbでは9月現在、先日亡くなった名匠ユ・ヒョンモク監督の作品を無料配信中。ほとんど無字幕だが、『殉教者』(1965)という作品は英語字幕つきで観られる。


監督/イム・ウォンシク
原作・脚本/クォン・リョン
撮影/イ・ソンフィ
照明/チャン・ギジョン
音楽/キム・ヨンファン
出演/トッコ・ソン、ホ・ジャンガン、ユン・ジョンヒ、カン・ムン、イ・イェチュン、チェ・ソンホ、キム・ドンウォン
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