Simply Dead

映画の感想文。

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『ラジオスター』(2006)

『ラジオスター』
原題:라디오 스타(2006)
英語題:Radio Star

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 号泣。イ・ジュニク監督が大ヒット作『王の男』(2005)のあとに撮り上げたヒューマンコメディの小品。のちの『楽しき人生』(2007)『あなたは遠いところに』(2008)へと続いていく“音楽映画三部作”の第1作である。今やすっかり落ちぶれてしまった元人気歌手が、ひょんなことから地方のラジオ局でDJをすることになり、長年連れ添ってきたマネージャーに説得されて渋々引き受けるのだが……という物語。個人的には、近年これほど見事に泣かされた映画はなかったというくらい、ムチャクチャ感動した。

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〈おはなし〉
 80年代にロックバラードの名曲「雨のあなた」をヒットさせ、歌謡大賞にまで輝いたものの、その後は泣かず飛ばずの歌手チェ・ゴン(パク・チュンフン)。今では喫茶店のステージで弾き語りをするなど、小さな営業で糊口をしのいでいる。20年来の付き合いであるマネージャーのパク・ミンス(アン・ソンギ)は、私生活を投げ打ってまで健気に彼を支えてきたが、もはや限界寸前。自分の妻にも苦労をかけ通しで、まともに顔も会わせられない有り様だ。そんな時、チェ・ゴンが客相手に揉め事を起こし、留置場に入れられてしまう。保釈金を工面するため奔走するミンスは、知り合いの放送局長から「昼間のローカルラジオ番組のパーソナリティをやってくれるなら、金を都合してやる」と言われる。チェ・ゴンは冴えない仕事内容に気乗りしなかったが、ミンスの熱心な説得によって嫌々ながら引き受けることに。

 チェ・ゴンたちは平凡な地方都市ヨンウォルにやってくる。小さなラジオ中継局の埃だらけのスタジオから放送された第1回目のオンエアは、やる気のないチェ・ゴンが進行を無視してロクに喋りもせず、さんざんな結果に。女性ディレクターのソクヨン(チェ・ジョンユン)の怒りもそっちのけで、彼はそれからもデタラメな放送を繰り返す。しかし、そんな番組でも、地元でバンドをやっている若者たちや喫茶店のウエイトレスといった固定ファンを掴んでいき、あるきっかけからリスナー参加型の番組として活気を帯び始める。過去の放送分を勝手にネット配信するファンサイトまで作られたりして、番組はじわじわと人気を獲得していく。

 かつての栄光に比べればとても小さな成功だけれども、チェ・ゴンが再びやる気を取り戻していく姿に、ミンスは大きな喜びを感じていた。番組の人気はついにソウルに飛び火し、期間限定だった放送もソウルに拠点を移して延長しようという話まで持ち上がる。そんな時、ミンスに大手レコード会社から接触が。チェ・ゴンを大々的に再デビューさせようというのだ。しかし、そこにはミンスがマネージャーの座を退くという条件があった……。

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 韓国では国民的大ヒットを記録した『王の男』で注目を集めたイ・ジュニク監督。その彼が次に手がけた本作『ラジオスター』は、驚くほどこぢんまりとした人間ドラマだった。劇的なスペクタクル演出で観客を酔わせた前作とは打って変わって、別人の仕事かと思うような物静かな語り口で、中年男2人の冴えない日常を淡々と切り取っていく。そんな地味すぎるほど質素で簡潔な演出にも関わらず、観客の心を巧みに引き込んでいく手腕は、やはり見事としか言いようがない。

 ラジオ番組の仕事にありついた主人公たちが、地方都市の平凡な町並みをうろつきながら市井の人々と出会うくだりも、実に肩の力の抜けたタッチで衒いなく描かれる。後々この出会いが伏線になっていくんだろうな、というのが自然に分かる程度の、ちょうどいいバランス感覚というか。ちょっとラフな感じがするくらい、気負いのない撮り方も心地好い。『王の男』のタッチとは真逆のものだ。

 前半はそんな風に「こういうユルい演出も巧いもんだなー」と油断した状態で画面を眺めていられるが、もう中盤から後半にかけては涙腺決壊。顔面グシャグシャになるまで泣かされてしまうという、非常に恐ろしい映画である。別に、何も特別なことをやっているわけではない。大体、物語的には予想できる事柄が起こっていくだけなのに、とにかく泣ける。ひたすらシンプルかつ必要最低限の演出でありながら、見せ方がものすごく巧いので、まんまと感動させられてしまうのだ。これは実際に作品を観てもらう以外、説明がつかない。

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 栄光の呪縛に捕われたロック歌手チェ・ゴンを演じるのは、パク・チュンフン。そして、女房役として献身的に尽くしてきたマネージャーのミンスを演じるのは、アン・ソンギ。少しでも韓国映画に詳しい方ならお分かりの通り、2人は名作『チルスとマンス』(1988)を筆頭に、『トゥー・カップス』(1993)と『NOWHERE 情け容赦なし』(1999)というヒット作でコンビを組んできた大スター同士。80?90年代、つまり『シュリ』(1999)の登場でモードが一変する前の韓国映画界を牽引してきた人気俳優たちが、久々に共演を果たした作品がこの『ラジオスター』なのだ。彼らが同じ画面内に映っているのを観るだけで、もう言うに言われぬ感慨がこみ上げてくる人もいるだろう。

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 自分を捨てて柔軟に立ち回ることが人生の知恵であり、軽薄そうに見えてその実、相当な苦労人であるマネージャーのミンス。そのキャラクターは、演じる俳優アン・ソンギのイメージとも、どこか重なる。文芸作からアクションコメディまで、どんな作品にも分け隔てなく出演し、約30年間も韓国映画界を代表する俳優であり続けている彼の存在は、安心感を誘うと同時に凄みを感じさせる。本作では味わい深いユーモラスな芝居によって、観客に共感と安堵を与えつつ、その裏にはたゆまぬ苦労があることを、パク・ミンスという男の物語として教えてくれる。

 そして、あまりにも前時代を象徴するスターであったがために、今は居場所を見失っているチェ・ゴン。その人物像も、やはり現在の韓国映画界におけるパク・チュンフンの微妙な立ち位置をなんとなく反映しているように思える。だからこそ、彼が演じる「脱却と再生のドラマ」は、非常に感動的なのかもしれない。パク・チュンフンが本作で見せる、不器用ながらも繊細な男の表情は、彼の役者としての魅力と実力を鮮やかに思い起こさせてくれる。

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 脇役のキャラクター陣もいちいち魅力的だ。地方局に左遷され、チェ・ゴンのわがままに振り回される女性ラジオディレクターを演じるのは、チェ・ジョンユン。主人公たちの再生に感化されるように、物語が進むにつれてどんどん輝きを増していくキャラクターを見事に演じている。放送技師役のチョン・ソギョン、ソウル本部局長役のユン・ジュサン、支局長役のチョン・ギュスといった名バイブレイヤーたちの好演も印象的。物語のキーパーソンとなるタバン・アガシ(喫茶店のウエイトレス)に扮するハン・ヨウンも、コメディエンヌの佇まいを湛えつつ、観客の涙腺をバーストさせる役割を見事に果たす。

 平和な町でパンク衝動を持て余しているバンド“イーストリバー”の面々は、実際に韓国パンクロック・シーンを担う人気バンド“ノーブレイン”が演じている(いつぞやのフジロックで、昔の日本軍旗をひっちゃぶくパフォーマンスを披露して話題を呼んだ)。映画の中ではバカまるだしのボンクラ連中として描かれているが、演奏シーンで見せるカッコよさはさすがのもの。いかにもダメそうな奴らが実は……という展開は、たぶん『ハイ・フィデリティ』(2000)のジャック・ブラックのくだりを意識してると思われる。

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 音楽といえば、劇中で効果的に使われているのが“韓国ロックのゴッドファーザー”ことシン・ジュンヒョンの代表曲「美人」。一度聴いたら忘れられない独特のギターリフを、中盤のとある場面でアン・ソンギが嬉しそうに口ずさむ。それに対してパク・チュンフンが「怪しい奴め」とからかうという、何気なくも味わいのあるシーンでまず登場。そして、再びアン・ソンギが「美人」のメロディーを口ずさむ場面が、本作最高のクライマックスになるのだ。韓国音楽界の偉人、シン・ジュンヒョン先生へのリスペクト溢れる描写には、音楽通も思わず胸が熱くなるだろう。また、ラジオの公開録音シーンでノーブレインが演奏する「美しき江山」も、シン・ジュンヒョン先生の作詞・作曲によるヒットナンバー。パンクロック・バージョンで歌われる名曲もなかなか味わい深い。

 チェ・ゴン最初で最後のヒット曲として流れるバラード「雨のあなた」も、シンプルながら“名曲”としての説得力を持つ、素敵なナンバーだ。パク・チュンフンが力強く歌い上げるサビには思わずホロッときてしまう。音楽監督を務めたパン・ジュンソクは、『楽しき人生』『あなたは遠いところに』にも続けて参加し、出演者の音楽指導にもあたった功労者。70年代の韓国ロックシーンを描いた『GOGO70s』(2008)の音楽監督も手がけている。

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 イ・ジュニク監督は“音楽映画三部作”を作った理由として、「今の韓国の若者たちは、欧米の70?80年代の音楽は好んでよく聴くが、同じ頃に作られた自国の音楽は全くといっていいほど知らない。それは本当に不幸なことだと思う。だから、映画を通して彼らが先輩たちの音楽に触れ、共感し、もっと楽しんでくれたらと思ったんだ」と語る。そして、大作『王の男』で成功した後に『ラジオスター』のような小規模な作品を撮った理由として、「お話の大小ではなく、そこに真に迫る切実さがあるかどうかが大事。それさえあれば人を感動させることができるから」と答えている。

 その言葉どおり、『ラジオスター』はとても小さな映画だが、観終わってからも全てのカットが愛おしく思い出されてくるような秀作だ。“音楽映画三部作”の他の2作と併せて、いろんな人に観てほしい。

・Amazon.co.jp
DVD『ラジオスター』


監督/イ・ジュニク
脚本/チュ・ソックァン
撮影/ナ・スンヨン
照明/カン・グァンウォン
美術/ファン・インジュン
音楽/パン・ジュンソク
出演/アン・ソンギ、パク・チュンフン、チェ・ジョンユン、ノーブレイン、チョン・ソギョン、ユン・ジュサン、ハン・ヨウン、チョン・ギュス、シン・ジョングン、イ・ヨンソク

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