Simply Dead

映画の感想文。

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『死生決断』(2006)

『死生決断』
原題:사생결단(2006)
英語題:Bloody Tie

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 韓国映画界でひときわ異彩を放つ2人の個性派俳優、リュ・スンボムとファン・ジョンミンが競演したノワールアクションの力作。港湾都市・釜山を舞台に、ドラッグディーラーと悪徳刑事が繰り広げる仁義なき駆け引きをパワフルに描く。監督は『GOGO70s』(2008)のチェ・ホ。70年代東映アクションを思わせる過剰に男くさいピカレスクドラマと、スタイリッシュな映像演出を組み合わせ、がむしゃらなパワーと疾走感溢れる画面を作り上げている。実際、チェ・ホ監督は深作欣二の『仁義の墓場』(1975)のファンらしい。はっきり言って作りは粗いが、その荒々しさが魅力の作品でもある。英語題は“Bloody Tie”だが、どうせつけるなら“Live and Die in Pusan”とかの方がいい。

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〈おはなし〉
 IMF危機によって最悪の経済不況に陥った2002年ごろの韓国。そんな世相とは裏腹に、ドラッグディーラーのサンド(リュ・スンボム)は羽振りのいい生活を満喫していた。が、町の麻薬ルートを牛耳る大物逮捕の執念に取りつかれたト刑事(ファン・ジョンミン)に目をつけられ、サンドの享楽の日々も終わりを告げることに。ト刑事の強引な脅迫に折れ、渋々おとり捜査に協力するサンドだったが、逮捕劇は失敗に終わり、サンドは代わりに8ヶ月の懲役をくらってしまう。

 出所したサンドは再びト刑事から協力を乞われるが、当然ながらそう簡単には話に乗ろうとしない。そこで、サンドは情報屋になる代わり、町で最高のドラッグディーラーとして返り咲けるよう、ト刑事に資金提供と全面協力を約束させる。すべては大物逮捕のためと、目をつぶって悪人と手を組むト刑事。

 暴走刑事の後ろ盾をつけ、着実にのし上がっていくサンド。そこに町の大物チャン・チョルが接触してきて、サンドは麻薬ビジネスの中枢に迫るチャンスを得る。彼はト刑事に、合成麻薬製造のプロ「教授」の取引情報をタレ込むのだが……。

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 登場人物全員が一度は道を踏み外し、欲望や執念にとり憑かれ、再び訪れる人生の岐路で例外なく最悪の選択をする。そんな徹底したノワール主義が貫かれているため、「えっ、なんでそっち行くの!?」と説得力に欠ける場面もないではないが、展開の読めない映画であるのは確かだ。「常に悪い方向へ向かうのが人間の性だ」と言わんばかりの重苦しいストーリー展開ながら、演出はいたって70年代的にファンキーかつハイテンションな刑事アクション調なので、重くも暗くもなりすぎず、なかなか面白い相乗効果を生んでいる。アクションも見応え十分で、映像的にも様々なテクニックを凝らして観る者を飽きさせない。

 また、舞台となる釜山のロケーション撮影も見事。夜の歓楽街、高台にあるスラム、美しい港の光景など、魔性を湛えた町の多彩な表情を魅力的に切り取っている。雨の港で展開するクライマックスの劇的な盛り上がりは、まるで石井隆作品のようだ。

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 コミカルなお調子者キャラ的な役柄の多いリュ・スンボムが、その軽薄さのなかに悲哀を秘めたドラッグディーラーの主人公サンドを好演。まさにハマリ役といえるキャラクターをエネルギッシュに熱演し、俳優としての新たな代表作を見つけたように思える。そして、カメレオン俳優ことファン・ジョンミンの堂に入った悪徳刑事ぶりも小気味良い。感情移入などという行為のバカバカしさを身をもって教えてくれるような、本当にどうしようもない役柄ながら、なぜか憎めない愛らしさを漂わせるのが流石。レイバンのサングラスをかけ、くっさいキメ台詞を吐き捨てるラストシーンのかっこよさときたら!

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 本作はベテラン名脇役キム・ヒラの復帰作でもある。脳梗塞で倒れ、リハビリ生活を送っていた彼を、久々に映画の現場へ立ち戻らせた作品が、この『死生決断』であった。キム・ヒラが演じるのは主人公サンドの叔父テクチョ。元麻薬中毒者で、家族を苦しめた過去に痛切な悔恨の念を抱きながらも、実は……という、ある意味この映画の屈折した人間観を代表するようなキャラクターである。キム・ヒラはかつて『ピョンテとヨンジャ』(1979)や『ママと星とイソギンチャク』(1995)といった作品で見せたユーモラスな佇まいとはまた違う、落ち着いた老優の渋味を釀し出し、人生の敗残者を妙演。台詞回しは少しおぼつかない部分もあるが、麻薬で身を持ち崩したという設定上、不自然ではない。壮絶なアクションシーンにも挑んでおり、リハビリ後の老人をこんなキツイ目に遭わせていいのか? と心配になるくらい。エンドタイトルで一人だけ一枚看板で名前が出るのも納得だ。

 サンドが想いを寄せる薄幸のヒロイン・ジヨン役のチュ・ジャヒョンが見せる『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000)ばりの熱演も印象的。人工物っぽい清楚美人の彼女が、あんなことやこんなことまで……個人的にはあまりピンと来ない女優さんだったけど、さすがに感心した。

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 70年代アクション・ムードに拍車をかけるのが、ファンク感溢れる音楽。映画美術や広告デザインの分野でも活躍しているキム・サンマンが音楽監督をつとめ、日本人ギタリストの長谷川洋平が作曲・編曲で参加している。長谷川陽平は韓国のベテランロックバンド「サヌリム」に憧れるあまり、韓国に渡って最終的に正式メンバーとして加入してしまったという人物で、現地のミュージシャンたちから一目置かれている存在。最近では再結成した伝説のファンクバンド「デビルス」にも参加している(このデビルスの伝記映画が、チェ・ホ監督の次回作『GOGO70s』である)。ちなみに竜雷太と夏圭子の息子さんだそうだ。

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 『死生決断』は、傑作と呼ぶにはあまりに粗削りな仕上がりが惜しいものの、映画ファンのハートを確実に掴む快作だ。ナレーションをする登場人物が映画の途中から増えていくので混乱したり、場面によって映像スタイルが空回りしていたりと、明らかな欠点も少なくないが、監督の類い稀なポテンシャルは間違いなく伝わる。事実、チェ・ホが次に手がけた『GOGO70s』は、素晴らしい青春音楽映画の傑作に仕上がった(この作品については秋発売の「TRASH-UP!! vol.4」でも書く予定)。1本撮るごとに着実に巧くなっていくタイプの作家で、新作が楽しみな監督がこれでまた一人増えた。

・SCRIPTVIDEO
DVD『死生決断』(韓国盤・リージョン3・英語字幕つき)


監督/チェ・ホ
脚本/チェ・ホ、ユン・ドグォン
撮影/オ・ヒョンジェ
照明/イム・ジェヨン
武術監督/シン・ジェミョン
プロダクションデザイン/
音楽/キム・サンマン、長谷川陽平
出演/リュ・スンボム、ファン・ジョンミン、キム・ヒラ、チュ・ジャヒョン、イ・ドギュン、オン・ジュワン、シン・ジョングン
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