Simply Dead

映画の感想文。

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『アパルーサの決闘』(2008)

『アパルーサの決闘』
原題:Appaloosa(2008)

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 腐女子必見の傑作。さすがエド・ハリス先生、分かってらっしゃる! と思わず唸ってしまう場面満載の“やおい西部劇”のマスターピースであった。ロバート・B・パーカーの西部劇小説に惚れ込み、自ら製作・監督・脚本・主演を兼任。サイドキック役には『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで世界中の女性観客を虜にしたヴィゴ・モーテンセンを選び、ただひたすら渋くてカッコいいだけのメンズ・メンズ・ワールドを展開させる。流行のリアリズムも、捻りのきいた奇抜なストーリーもいらない。ただ互いを信じ合い、支え合う男同士の絆(a.k.a. イチャイチャ)をこれでもかと描きのめすだけの113分! しかもエンディングにはエド・ハリス自らが朗々と歌うテーマソングまで流れるのだ。もう「参りました」としか言いようがない。

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 エド・ハリスの慧眼は、やはりヴィゴ・モーテンセンに実質的な主役を任せた点にあると思う。ハリス演じる保安官ヴァージルの引き立て役にして女房役、そして本作の語り手である保安官助手ヒッチ役を誰にするかで、映画の出来は完全に変わっただろう。寡黙で神秘的な存在感を漂わせるヴィゴ・モーテンセンだからこそ、最小限の佇まいだけでハリス=ヴァージルを引き立てられるし、また自身の魅力も相乗効果的に発散できる。このパワーバランスの見事さは、保安官事務所のポーチに並んだ2人のショットを見るだけで否応なく伝わる。そんな彼らが「まるで恋人か夫婦のような信頼関係で結ばれているさまを言葉少なに醸し出す」場面が、2時間ひたすら連発されるのである。で、つまんないブス女(レネエ・ゼルウィガー)に友情を壊されかけたりするのだ。これはもう、お好きな方にはたまらない世界だろう。

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 そう、主人公コンビの間で揺れる恋多き女、アリーを演じたレネエ・セルウィガーの扱いにも、エド・ハリス演出の冴えが感じられる。男たちを翻弄する美女という設定にしては、やはりミスキャスト感は否めない。だが、それはおそらく意図的な配役だ。個人的には好きな女優さんだし、よくブスの代名詞みたいに言われるけど、実際すごく可愛いし綺麗な人だと思う。ただし、この映画に関して言えば、近年の出演作の中では最もブサイクに撮られている。つまり男優陣の艶姿を堪能しに来た女性観客にとってノイズにならないよう、徹底的に「感情の矛先が向かない」存在になっているのだ。嫉妬や羨望、あるいは「あんなセクシー爆弾が相手じゃ仕方ないか」的な諦めはまるで感じさせない。

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 さらに、その脇を固める男優陣が、また揃いも揃って渋い中年好きのツボをグイグイ押してくるような顔ぶれなのである。なんたって非情な悪役を演じるのがジェレミー・アイアンズだ(気がつきゃデイヴィッド・クローネンバーグ作品でお馴染みの顔ばかりではないか)。凄腕ガンマン=ランス・ヘンリクセンが登場してくるタイミングの巧さにも卒倒しそうになった。自分がフケ専だったら死んでるんじゃないかと思うくらい、「俺たちに惚れてる連中をヒィヒィいわせるための映画」として、すこぶる完成度の高いフィルムに仕上がっている。

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 まあ、上記のような偏った感想(妄想)はともかく、もちろんオーソドックスな西部劇として見応えある秀作である。ジョン・カーペンターあたりが地団駄踏んで悔しがりそうな、シンプルな西部の男たちのドラマを現在のハリウッドで完璧に実現してしまっているのは本当に凄い。「インディアンの包囲から逃れるため、敵と味方がやむを得ず一時休戦して協力し合う」などというクラシカルな展開が、まさか新作映画で見られるとは思っていなかった。いくつかある決闘シーンの演出も、ひとつひとつの尺は短いながら実に見事だ。

 映画全体にカット割りは極力少なく、ゆったりとした広い構図を多用して、役者も美術も空気感も余すところなく捉える演出が快い。オーストラリア出身のベテラン撮影監督ディーン・セムラーによるカメラワーク、ちょっとマーク・アイシャムを思わせる哀切さの滲むジェフ・ビールの音楽も絶品だ。特に撮影は、DVDで観ても「ああ、やっぱりフィルムっていいなあ」と思えるくらい、惚れ惚れする美しさ。『アポカリプト』(2006)以降は“ジェネシス”撮影の第一人者としてデジタル撮影しかやらないと思われていたディーン・セムラーが、本作のメイキング映像で「そんなことないよ! フィルムだってやる時はやるよ!」と力説していたのがおかしかった。

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 主人公コンビは何度も言うがひたすらかっこよく、実際のアメリカ開拓時代の写真に収まっていても何の違和感もなさそうな佇まいである。これを観た女性の映画ファンの声もぜひ聞きたいと思った。やばいよ、これは。

・Amazon.co.jp
DVD『アパルーサの決闘』特別版


製作/エド・ハリス、ロバート・ノット、ジンジャー・スレッジ
監督/エド・ハリス
脚本/エド・ハリス、ロバート・ノット
原作/ロバート・B・パーカー
撮影監督/ディーン・セムラー
プロダクションデザイン/ヴァルデマー・カリノウスキー
衣装/デイヴィッド・ロビンソン
音楽/ジェフ・ビール
出演/エド・ハリス、ヴィゴ・モーテンセン、レネエ・ゼルウィガー、ジェレミー・アイアンズ、ランス・ヘンリクセン、ティモシー・スポール、ジェームズ・ギャモン、アリアドナ・ヒル
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コメント

ようやっとDVDで見まして

カーペンターが地団駄、あたりで爆笑させていただきました。まことに言いえて妙であります。わたしは♂だし801のことはピンと来ませんが老け専の気は大いにありまして、このキャスティングはたまらないものがございました。

  • 2010/03/10(水) 22:15:30 |
  • URL |
  • むさ #-
  • [ 編集]

コメントありがとうございます

お返事遅れてすみません……。
ここまでダイレクトに「ひたすらカッコイイだけの男の世界」を描きながら、ナルシシズムともホモソーシャルとも違う、性別を超えてオールマイティなフェティシズム(言語的に矛盾してますが)を見事に映像化しきっている辺り、エド・ハリスの凄さを感じました。ある種、夢の映画ではないでしょうか。
その後、ジェームズ・マンゴールド監督の『3時10分、決断のとき』を観た時も、「カーペンターが本気で西部劇を作ったみたいな映画だ!」と思ったりしました。ややナイーブすぎるところはあるんですが。

  • 2010/03/16(火) 23:09:01 |
  • URL |
  • グランバダ #h1buydM2
  • [ 編集]

この映画をヤオイ系だと見抜いた
あなた様の慧眼に恐れ入りますた。

  • 2012/10/18(木) 02:55:12 |
  • URL |
  • チコ #-
  • [ 編集]

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