Simply Dead

映画の感想文。

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『レスラー』(2008)

『レスラー』
原題:The Wrestler(2008)

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 満身創痍の中年レスラーの苛烈な生きざまを、痛ましくも感動的に描いた男泣き必至のヒューマンドラマ……って聞いたけど、監督ダーレン・アロノフスキーなんだよな? 方向転換したんか? と疑問を抱きながら観に行ったら、なんのことはない、非常にアロノフスキー先生らしい映画であった。

 この映画は『π』(1998)や『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000)同様、何かに取り憑かれた人間がものすごいスピードで堕ちていくのが大好き! その落下と同じ勢いで寄り添いたい! という、破滅萌えの映画だ。このまま行けば取り返しのつかない末路に至ると知りながら、湧き出るアドレナリンと死の誘惑に駆られるまま、地獄の淵を目指して加速する。アロノフスキーはそんな人々のパワーに魅了され、熱い視線を注ぎ続けてきた。本作もまた例外ではない。

 その上で『レスラー』は、過酷な生き方を選択してしまった者の哀歓、誰もが抱える衰えへの不安、尊厳をもって生きるということのシビアな現実といった普遍的なテーマを織り込み、ラストに訪れる「墜落」の瞬間を途方もなくドラマティックな感動へ昇華させることに成功している。これまでの映画では観客も対象を突き放して観ることができたかもしれないが、本作の主人公ランディ“ザ・ラム”ロビンソンの挫折は他人事ではない。主人公の心情にぴったり寄り添い続ける手持ちカメラの視線は、いつしか観客のそれと同化していく。『レスラー』はアロノフスキーの映画監督としての成熟を感じさせる秀作だ。

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 その感動の大部分を担っているのが、主人公ランディを演じるミッキー・ロークの肉体が放つ圧倒的なリアリティである。自らの体をとことん痛めつけ、改造に改造を加え、かつての面影を失った醜い姿と化してなお観衆の前に立ち続ける。職種は違えど、主人公ランディと俳優ミッキー・ロークの姿は否が応にも重なって見える。もし彼の俳優としての栄光と挫折を知らない観客でも、その表情や佇まいには、虚構を越えた何かを感じ取るはずだ。

 本作はまず、主人公ランディの人気が絶頂期にあった88年までの回想シーン的モンタージュで幕を開ける。面白いのは、88年当時のミッキー・ローク自身は決して男性観客受けする俳優ではなかったということだ。『ナインハーフ』(1986)や『エンゼル・ハート』(1987)で女性ファンからの圧倒的人気を博し、例えばプロレス・ファンとか格闘技ファンみたいな男気溢れる人たちの目からは「あのスケコマシ役者が!」という印象で見られていたのではないだろうか。同時期に『死にゆく者への祈り』(1987)などで演技派として存在感を示していたとはいえ、セックス・シンボル的なイメージは長らくつきまとっていた。そこから脱却するためか、90年代に入るとボクシングにのめりこみ、出演作も『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』(1991)や『ダブル・チーム』(1997)などのアクション路線へ転向していく。男くさいアクション俳優としての方向性を模索し、そして見事に失敗した。

 十余年にわたる低迷期、雌伏の時を経て、だんだんと「復活」の兆しを見せ始めてきたのは、つい最近のことだ。『ドミノ』や『シン・シティ』(共に2005)で肉体に躍動を取り戻した姿を見て、安心したファンも多いだろう。そして今回の作品で、80年代には真逆の存在だったプロレスラー役をゲットし、かつて実現できなかったイメージチェンジを(ボロボロに変わり果てた姿になって)ようやく果たしたのだ。その代償はあまりに大きかったかもしれない。だが、そんな暗黒の日々を過ごしたからこそ、『レスラー』のランディ“ザ・ラム”ロビンソン役は、彼以外にはありえないハマリ役となった。アロノフスキーは製作予算を大幅に削られることも厭わず、ロークの出演に固執したという。きっと、その肉体が放つ苦痛と悔恨のリアリティを手放したくなかったのだ。

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 それほど登場人物が多くない本作にあって、主人公を取り巻く女性2人のキャスティングもかなりの重要課題だったと思うが、それも見事に成功させている。主人公と心を通わせるストリッパー役のマリサ・トメイは、そろそろ潰しの利かない歳になってきた女の哀愁を味わい深くリアルに演じ、『その土曜日、7時58分』(2007)の妻役と並ぶインパクトをもたらす。大胆な脱ぎっぷりはもとより、相手に距離を置こうとするときの表情のリアリティにも胸打たれた。そして、ランディの一人娘を演じたエヴァン・レイチェル・ウッドも素晴らしかった。こんなにエモーショナルな芝居と可愛らしさの両立できる女優だったのか、と思ったのは『サーティーン』(2003)以来かもしれない。

 個人的には格闘技ファンでもなんでもないので、世間での熱狂とは少しズレたところで観てしまったのかもしれないが、それでもこの映画は確かに万人の胸を揺さぶる力を持った秀作だと思う。特に、スポーツ選手でもアイドルでも俳優でもなんでもいいけど、誰かの「ファン」になったことのある人は必見。

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DVD『レスラー』スペシャル・エディション
Blu-ray『レスラー』


監督/ダーレン・アロノフスキー
脚本/ロバート・D・シーゲル
撮影監督/マリス・アルベルチ
音楽/クリント・マンセル
出演/ミッキー・ローク、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド

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コメント

ランディは 不器用だな

はじめまして 

友達とDVDでみました。レスラー人生もピークを過ぎ、娘とは絶縁状態、ステロイドの影響で心臓は弱っているありさまの中年レスラー ランディー。娘との約束すっぽかすのは さすがにマズイよ~(´Ц`)

自分には「この場所しかない」不器用な生き方しかできないランディーは やはり 悲しい男です。

プロボクサーとして活動していた時、顔に大きなダメージを受け、追い討ちをかけるように俳優としての活躍の場を失っていった。
セクシー俳優として80年代は全盛期だったのに ボクシングのために自分から全盛期を捨てちゃって・・・半ばバカだと思いましたよ。

 ロークは'88年に「ホームボーイ」というアメリカを渡り歩く流れ者のボクサーのジョニーを演じています。ランディとはまた違った不器用さをジョニーには あります。
ボクシングはスクリーンの中だけにしておけばよかったんだと思いますがいかがでしょうか

ただ、「レスラー」と「ホーム・ボーイ」 ふたつの作品を比べて見るのも悪くないですよ。

  • 2011/11/07(月) 22:18:28 |
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  • zebra #ngCqAwRo
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