Simply Dead

映画の感想文。

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『チョコレート・ファイター』追記

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 前回書いたように、とにかく『チョコレート・ファイター』があまりにも傑作だったので、当然のごとく劇場へまた観に行き、タイ盤DVDも買ってしまった(カネも時間もないんじゃなかったのか)。戦えば戦うほど鬼迫に満ちた美しさを放ち、同時に切なさも漂わせるヒロインの姿は、やっぱりとてつもなく魅力的で、映画を見返すたびにどんどん彼女のことが好きになっていってしまう。「なんかに似てるな、この感じ……」と思ったら、中3だか高1の時に『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』(1995)を劇場で4回ぐらい立て続けに観たときと同じ感覚だった。ゼンと吹雪丸、わりと近いような気が……業's on な感じとか……(妄想連鎖中)。

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 確かに初見では、なんともしれん違和感のつきまとう作品だなーという印象はあった。その感覚は、映画を観ているうちに──仏教思想的な因果応報の概念をベースにした、ドラマ性の色濃い作品であることに気づいてからは、だんだんと払拭されていった。いずれにしても、同じプラッチャヤー・ピンゲーオ監督の出世作『マッハ!』(2003)などとはまた異なる、不思議な肌触りをもつ映画であることは間違いない。ある種の生硬さというか、いびつさがあることも否定できない。それは脚本や演出のせいばかりではなく、ひょっとして海外向けに編集されたバージョンだからではないか? という疑問が湧いたこともあり、現地公開版も観てみようと思った次第である。

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 で、実際に観てみたら、タイ公開版と日本公開版はほとんど同じだった。オープニングとエンディングに入るナレーションが、阿部寛演じるマサシのモノローグではなく、別人の(多少イントネーションの危なっかしい)日本語の語りであること以外、大きな違いはない。ご存知の方も多いと思うが、阿部寛によるモノローグは日本公開用に新録されたものである。あとはもう、ほとんど変わらない。冒頭のラブシーンがちょっぴり長いような気がしたくらい。

 劇場で観た時に「これ、カットされてるんじゃないの?」と思ったところまで全く同じだったのは、ちょっと意外だった。例えば、製氷工場で床にぶっ倒されたゼンが、フラッシュバックを経て起き上がるまでの、体勢の繋がりがおかしいところ。さすがにそれは最初から不自然なカット割りにしようと意図したわけではないと思うけど、最終的にはこの編集に落ち着いたのだということは分かった。

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 タイ盤DVDを観て分かったのは、現地公開版ですら相当カットされていたということだ。特典映像として収録された削除シーンの多さには、ちょっと驚かされる。スチルではよく見るが、本編からはごっそり削除されている豪奢な大邸宅でのアクション・シークェンスも、ここに含まれていた。(以下は、映画をご覧になった方だけどうぞ)


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【削除シーン】
●赤ん坊のゼンを抱いたジンが、日本人ヤクザの手引きで新居を紹介される。

●ナンバー8に足の親指を切り取られたジン。そこにヤクザの一団が駆けつけ、彼女を病院へ連れて行く(その話を日本で聞いたマサシが「彼女を安全な場所へ移せ」と命令する展開)。

●ジンの家に、オカマの殺し屋と精肉市場のボスが現れ、ジンに殴る蹴るの暴行を加える。その様子を幼いゼンが見ていて、それに気づいた殺し屋たちは去っていく。

●自宅のキッチンでカップ麺を食べようとするゼン。そこに蠅が飛んできて、怖くて泣き叫んでいると、母ジンが蠅たたきでそれを潰す。/カップ麺を食べるゼンと、それを見守るジンの会話。/帰ってきたムンと、ゼンの会話。/車に乗って町に出かけるジンとゼン、そしてムン。

●ゼンの背中に細い棒のようなものが刺さっているのを見つけ、驚くジン(倉庫での格闘シーンの後?)。/ポーチでのジンとムンの会話。

●電車に乗って郊外へ出かけるゼンとムン。とある屋敷を訊ね、そこの主人に借金返済を催促する。/主人はゼンを寝室に誘い込み、彼女にいたずらしようとする。別の部屋にいたムンは、偶然つけたビデオモニターで部屋の様子を知り、寝室に飛び込んでくる。もみ合いの末、主人に拳銃で撃たれそうになるムン。その時、ゼンのキックが炸裂。気を失ってしまう主人。/ふたりが屋敷から飛び出すと、学生服姿のコールガールが中に入ろうとしているところだった。屋敷の主人は彼女とゼンを勘違いしていたのだ。/乗合トラックに乗り遅れてしまうゼンとムン。ゼンは「お金まだもらってない」とかなんとか言って、屋敷に戻ってしまう。/目覚めた屋敷の主人は、家に入ってきたコールガールを怒りに任せて殴り始める。そういうプレイだと思って興奮したふりをするコールガールだったが、次第にその怒りが本物だと知り、慌てて逃げようとする。その背中を拳銃で撃ってしまう主人。/銃声を聞いて駆けつける手下たち。そこにゼンも登場。屋敷内で格闘が始まる。

▼本編中にはない屋敷内での格闘シーン
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 前半での大きな変更点は、ジンがマサシと別れた後も日本人ヤクザの庇護のもとで暮らしていたという設定があること。おそらくジンの自立心の強い性格設定を守るため、本編では大幅に削除されたのだろう。作劇的にもこれは正解だったと思う。個人的には、ジンとゼン、そしてムンの日常描写が、より細かく描かれていたのが印象的だった。

 最も大胆にオミットされた屋敷でのくだりは、単体で観れば面白いが、映画全体から見ると確かに浮いてしまう気もする。巻き込まれた娼婦が撃ち殺されてしまう展開も陰惨だし、余計な社会批判性が生まれてしまう恐れもあって、最終的に丸ごと削除されたのではないか。他の場面にはない、ブラックでシニカルなユーモアの味は捨てがたいけれども。

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 ひょっとしたらプラッチャヤー・ピンゲーオ監督は、撮影当初は現在の完成版よりもっとダークで淡々とした、どちらかというと非商業的な作品をイメージしていたのかもしれない。黒社会ものやアクション映画の要素をまじえつつ、因果応報のカルマに翻弄される、ある一家族の運命を追ったエピックドラマとして……。クライマックスではもちろん親子三人が念願の再会を果たす。だがこの映画の場合、それは血みどろの修羅場の中だ。

 これらの削除シーンを繋いで、音楽や編集のタッチを変えたバージョンを作ったとしたら、映画自体の印象もかなり変わるかもしれないと思った。アクション映画として観るとひどく冗長で、さらに奇妙なバランスの作品になるだろうけど。

chocolate_jeeja_ontheset02.jpg

 日本版のソフトにも削除シーンとかインタビューとか入れてくれるといいなあ。(追記:未公開シーンは入らない模様。残念!)

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DVD『チョコレート・ファイター』

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