Simply Dead

映画の感想文。

『ロック・ミー・ハムレット!』(2008)

『ロック・ミー・ハムレット!』
原題:Hamlet 2(2008)

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 傑作。文豪ウィリアム・シェイクスピアの名作『ハムレット』の続編を謳うという、おそらくコメディ映画史上最も不遜なタイトルを冠した作品である。『ホット・ロッド めざせ!不死身のスタントマン』(2007)に続き、パム・ブレイディの脚本作にハズレなしという事実をさらに証明してみせた快作だ。監督・共同脚本は『キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!』(1999)のアンドリュー・フレミング。

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 スティーヴ・クーガン演じる主人公ダナは、売れない役者業に見切りをつけ、夢果つる地・アリゾナ州ツーソンの高校で演劇クラスの講師をしている。しかし、彼は俳優としての才能をカケラも持ち合わせておらず、講師としての力量もゼロに近いホームラン級のダメ人間だった。そんなある日、教育予算カットで文科系クラスが軒並み潰された煽りで、演劇クラスの受講者がいきなり増加。やる気のない生徒たちに対していいところを見せようと、彼は初めてオリジナル台本による芝居の上演を思いつく。題して『ハムレット2』! これを成功させれば自分も世間から脚光を浴び、ショービズ界に返り咲くことができるかもしれない。そんな下心むきだしで書き上げた入魂のシナリオの内容は、シェイクスピアとキリスト教への過激な冒涜に満ち溢れた、陳腐でお粗末で悪趣味きわまる代物だった。しかし、生徒たちはだんだんと演劇に興味を持ち始め、ダナと共に稽古や舞台作りに熱中していく。彼らにとって、それは田舎町の退屈な日常をぶち壊す恰好のチャンスだったのだ。が、そんな芝居の上演を周囲の大人たちが許すはずもなく……。

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 まず、主演のスティーヴ・クーガンが素晴らしい。見ていて本当にイタい主人公ダナのキャラクターを絶妙に演じている。自意識過剰で無神経、センスもなければアタマも悪い。それでいて憎めない可愛げや哀愁もしっかり醸し出しているあたり、実にうまい。生徒たちの前で赤裸々な感情をさらけ出すシーンは死ぬほどおかしく、同時に涙が出るほど愛らしい。台本のアイディアが何も出ずにパソコンの前で凝固する姿や、ヤケ酒かっくらってローラースケートで暴走する場面にも爆笑した。ちなみにナレーターも担当している(しかも全編ジェレミー・アイアンズの物真似で)。数回にわたって下半身ヌードを披露するサービスシーン(?)もあるので、女性ファンは必見である。

 それ以上にすごいのが、主人公の妻を演じるキャスリーン・キーナー。とにかく感動した。人生をブン投げてしまった女の諦観と自暴自棄、ゾッとするほどの切れ味を備えた自嘲と皮肉を、ここまで完璧に演じられる役者が他にいるだろうか。本作の彼女の演技はもはや素晴らしいを通り越して凄まじい。彼女が現代アメリカ最高の女優であることを思い知るためにも、必見の1本である。

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 生徒を演じる若手俳優たちの演技も魅力的。『僕らのミライへ逆回転』(2008)でヒロインを演じたメロニー・ディアスを始め、チカーノギャング気取りだが実は演技の才能を秘めた青年ジョゼフ・ジュリアン・ソリア、主役の座を奪われてしまう隠れゲイのスカイラー・アスティン、だんだんチカーノ文化にかぶれていく看板女優フィービー・ストロールらの好演が印象に残る。個性豊かなキャラクターたちの見事な描き分けは、さすが『サウスパーク』の脚本家といった感じ。

 他にも、デイヴィッド・アークェットやエイミー・ポーラー、マーシャル・ベルといった芸達者たちが豪華に脇を固めている。中でもビックリするのが、本人役で登場するエリザベス・シュー(次回作はアレクサンドル・アジャ監督の『ピラニア3D』)。役者稼業にウンザリして田舎町に引っ込んだアカデミー賞女優という妙に生々しい役柄を、妙に生々しいイタさと共に演じており、その役者根性には恐れ入る。

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 この映画は、例えばジェリー・ブラッカイマー製作の『デンジャラス・マインド/卒業の日まで』(1995)などに代表される「熱血教師が落ちこぼれの生徒たちを更生させていく感動のドラマ」というクリシェを、完全に引っくり返した秀逸なパロディになっている。実際、劇中で主人公が『デンジャラス・マインド』だの『陽のあたる教室』だの『いまを生きる』だのといった映画の題名を恥ずかしげもなく引用することからも、それは明らかだ。つまり、自分のことをハリウッド映画に出てくる熱血教師みたいだと思い込んでいる主人公こそ、本当は真っ先に救われるべきダメ野郎なのである。そして、一見落ちこぼれ風の生徒たちが、そんな彼を同情と献身によってサポートしていく。それは『サウスパーク』から連綿と続くパム・ブレイディの諷刺精神の表れである。世間でオトナ面している奴らがいかにどうしようもないバカの集団であるか、それを子供たちが気づいていないとでも思っているのか、という。

 それと同時に、文化的比較対象が存在しないド田舎で育った少年少女たちの愚かしさも、等しく辛辣に描いているところがやはりブレイディらしい。ただし、それに対して良い悪いのジャッジをするなどというおこがましさは、彼女のシナリオにはない。映画のクライマックスでは、むしろ「バカとバカの核融合」が得体の知れないパワーを生み出すのだ。およそ稚拙で気の狂った『ハムレット2』の台本を、学生たちが愚直にパワフルに演じることで、途方もないスペクタクルと感動が立ち上がってくるのである。

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 それまでのドラマ部分があまりにも面白かっただけに、クライマックスの上演シーンでは息切れしてしまうのではないかという懸念もあったが、まったくの杞憂に終わった。『RENT』のセットを意識したような巨大な舞台装置で、いかにも90年代に流行った「斬新な演出」風ギミックを散りばめて展開する劇中劇『ハムレット2』は、まさに愛すべきディザスターと言うべき本作最大のクライマックスだ。内容的にはハチャメチャだが、やがてそれが観客に言いようのない感動をもたらしていく過程には不思議な説得力があり、その感動は映画を観ている我々にも伝播していく。

 ハイライト・ナンバー「Rock Me Sexy Jesus」はあまりにも不謹慎かつバカバカしい内容でありながら、正統派ミュージカルの高揚感がある(どこからどう聴いても『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』のパクリだけど)。終盤のエルトン・ジョン「Someone Saved My Life Tongiht」の合唱シーンに至っては、危うく泣きそうになるほど感動させられてしまった。会場の外で『ブルース・ブラザーズ』的に肥大する抗議運動とのカットバックも見事な効果を上げていて、アンドリュー・フレミングなかなかやるな、と思った。エリザベス・シューの使い方も光っている。

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 スタッフ・キャストはハリウッドメジャー作品でお馴染みの顔ぶれだが、実はインディペンデント映画。サンダンス映画祭では配給権を巡って熾烈な争奪戦が繰り広げられたらしい(興行的には振るわなかったそうだが)。アンドリュー・フレミングとパム・ブレイディは、インディーズ的なクセのある語り口や、突き放したユーモアもふんだんに採り入れ、スタジオ製のコメディ映画とはひと味違った快作に仕上げている。そのあたりも通好みの映画ファンには面白いと思うし、もちろん抱腹絶倒のコメディとして誰が見ても楽しめる作品でもある。これは本当にお薦め。

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DVD『ロック・ミー・ハムレット』


監督/アンドリュー・フレミング
脚本/パム・ブレイディ、アンドリュー・フレミング
撮影/アレクサンダー・グルシンスキ
音楽/ラルフ・サル
プロダクションデザイン/トニー・ファニング
編集/ジェフ・フリーマン
出演/スティーヴ・クーガン、キャスリーン・キーナー、エリザベス・シュー、スカイラー・アスティン、フィービー・ストロール、ジョゼフ・ジュリアン・ソリア、メロニー・ディアス、デイヴィッド・アークェット、マーシャル・ベル、エイミー・ポーラー
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