Simply Dead

映画の感想文。

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『白衣の男』(1951)

『白衣の男』
原題:The Man With The White Suit(1951)

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 『マダムと泥棒』(1955)のアレクサンダー・マッケンドリック監督が、英国イーリング・スタジオで撮り上げた傑作諷刺喜劇の1本。シンプルかつ寓意に富んだシナリオと、惚れ惚れするほどシャープな演出に、ただただ敬服するしかない名品だ。主演は『マダムと泥棒』でもマッケンドリックと組んだ名優アレック・ギネス。いわゆる“イーリング・コメディ”の代表作として知られながら長らく日本未公開のままだった作品だが、先日ようやくDVD化された。

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〈おはなし〉
 繊維業界で働く若き研究者シド(アレック・ギネス)は、決して汚れず、破れもしない「究極の繊維」の開発にいそしんでいた。あまりに研究熱心なあまり、湯水のように経費を使いこんでしまうため、それがバレて転職を繰り返す日々。なんとか潜り込んだバーンリー工場でもあわやクビになりかけるが、社長令嬢ダフネ(ジョーン・グリーンウッド)を味方につけて、なんとか会社の理解を得ることに成功。度重なる試行錯誤の末、シドはついに奇跡の繊維を完成させる! しかし、永久的に長持ちする繊維の登場は、業界の存続危機を意味していた。噂を聞きつけた各社の重役陣は、シドの発明を永遠に封じ込めようとする……。

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 社会のシステムすら揺るがしかねない世紀の大発明を成し遂げたがために、逆に社会から抹殺されてしまうという筋立ては、デイヴィッド・マメットの『ウォーターエンジン/アメリカ帝国の陰謀』(1992)を想起させる。マメットはそれを辛辣で重苦しい悲劇として描いたが、マッケンドリックは徹頭徹尾ウィットに富んだ諷刺喜劇として、資本主義社会の矛盾を鋭くついてみせる。その中で、企業側はもちろん、労働者側も等しくパラドックスに陥るさまを皮肉たっぷりに見つめる視線が、いかにもイギリス喜劇らしい。

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 マッケンドリックの演出は終始スピード感と切れ味を保ち、ひたすら快調に物語を疾走させる。構図の取り方はどこかコミックを思わせる的確さで、人物の動かし方にも活劇的なダイナミズムがあり、「おおっ」と声が出てしまうようなショットがいくつもある。イギリス映画人らしい、ちょっぴり非人間的とすら思える笑いのセンスがすごくカッコイイ(ちなみにマッケンドリックはアメリカのボストン生まれだが、生後すぐに家族とスコットランドへ移住した)。奇妙なリズムを奏で続ける実験器具、失敗続きで爆発事故を繰り返してるうちに工場の建物が戦場めいた様相になっていくあたりの、ちょっとタガの外れたギャグが秀逸だ。

 それでいて、各キャラクターの茶目っ気や可愛げもきっちり描き、決して人間を突き放して観察するだけの冷淡なサタイアにはなってない。ほのかなラブストーリーの要素を織り込む手際も鮮やか。前半、ヒロインの車に飛び乗った主人公が転げ落ちる描写の酷薄なまでのあっけなさ、そのあとで劇的な(ある意味ロマンティックな)会話シーンへと繋げるスマートさにもドキッとさせられる。クールなモダニズムと、いたずらっ子のような茶目っ気がバランスよく溶け合ったマッケンドリックの演出が、ちょっぴりファンタジックな要素をもった諷刺劇であるシナリオと見事に合致している。

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 変わり者の主人公を、ひたすら愛らしく演じたアレック・ギネスが素晴らしい。研究第一で周囲の迷惑や責任など考えずに暴走する科学者を、純粋で浮き世離れした青年として表現し、とても魅力的な好演を見せている。この時期の出演作にしては珍しく、特殊メイクや凝った役作りなどをせずに、わりと素に近い状態でエキセントリックな人物を演じているのが貴重だ。

 『カインド・ハート』(1949)でもギネスと共演していたジョーン・グリーンウッドが、本作では利発で可愛らしい社長令嬢に扮し、やはり快演と呼びたい見事な演技を披露している。知的なスマートさと、えもいわれぬ艶っぽさを兼ね備えた独特の魅力は、本作でも健在だ。特に、映画の後半で彼女が一人芝居をするシーンで聞かせる台詞の色っぽさときたらどうだろう。また、名優セシル・パーカー演じる社長のお人好し感、紡績業界の大物に扮する怪優アーネスト・セシジャーが全身から釀し出すハッタリ感、ハマープロ作品や『バットマン』シリーズでおなじみのマイケル・ガフ扮する青年社長の酷薄ぶりなど、芝居的に楽しめるポイントが随所に散りばめられていて飽きない。

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 イーリング作品には、ちょっとした特殊効果撮影を含む映画が多く、それが楽しみのひとつでもある。本作では白いスーツが闇の中でボワッと光るというエフェクトがあり、なかなか面白い。着ている人間は闇に包まれているのにスーツだけが光っているという画づらを巧みなライティングで表現していて、どうやって撮ってるのかな、と思った。撮影を担当したのは、多くのイーリング作品で活躍し、のちに『インディ・ジョーンズ』シリーズなどを手がける名手ダグラス・スローカムである。

 アレクサンダー・マッケンドリックがイーリング・スタジオで撮ったコメディ作品には、他に『Whisky Galore!』(1949)と『The Maggie』(1954)があり、聾唖の少女とその家族を主人公にしたドラマ『Mandy』(1952)もある。イーリング最後の輝きといえるヒット作『マダムと泥棒』のあと、彼は生地アメリカに戻り、バート・ランカスター主演の『成功の甘き香り』(1957)でハリウッド・デビュー。その後は『サミー南へ行く』(1963)などの秀作を手がけるものの、アメリカではその才気をあまり発揮できないまま、教職に転向してしまった。カリフォルニア芸術大学で彼に習った生徒のなかには、『3時10分、決断のとき』(2007)のジェームズ・マンゴールド監督もいる。ハリウッドでは不遇だったマッケンドリックだが、イギリス時代に手がけた作品は掛け値なしの傑作・秀作ぞろいだ。『白衣の男』も、もっと多くの映画ファンの目に触れてほしいと思う。

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DVD『白衣の男』


監督/アレクサンダー・マッケンドリック
製作/マイケル・バルコン
原作戯曲/ロジャー・マクドゥガル
脚本/アレクサンダー・マッケンドリック、ロジャー・マクドゥガル、ジョン・ダイトン
撮影/ダグラス・スローカム
編集/バーナード・グリッブル
音楽/ベンジャミン・フランケル
出演/アレック・ギネス、ジョーン・グリーンウッド、セシル・パーカー、マイケル・ガフ、アーネスト・センジャー
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