Simply Dead

映画の感想文。

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『サスペリア・テルザ ─最後の魔女─』(2007)

『サスペリア・テルザ ─最後の魔女─』
原題:La Terza Madre(2007)

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 楽しかった。いろいろと考えさせられる部分はあり、決して手放しで褒められた作品ではないにしろ、劇中でたびたび噴出する「楽しさ」には抗えない。世界中の魔女たちがローマへ集い始めるシーンの下世話なテンションの沸騰、異様に念入りかつ品のない女性殺害シーンにおける「どや?」感、そしてクライマックスのあとに必然性など無視して付け加えられるガンバルマン的試練。思わず頬がほころぶ楽しさこそがこの映画の美徳だが、スクリーンで観るとそれがより増幅されるのが新鮮な驚きだった。輸入DVDなどで観ると、やっぱり映像の「あれよあれよ感」が希薄なのである。

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 『サスペリア・テルザ ─最後の魔女─』は、ダリオ・アルジェントが世界中のファンに向けて「君たちの観たかったものを見せてやろう!」と盛大にサービスしつつ、齢64にして獲得した新たな作風も節操なく盛り込んだ、パワフルな老人力に圧倒される作品である。もちろん相手はアルジェントなので、こちらの観たいものと向こうが差し出すものとはバッチリ食い違っているわけだが、今回は頑迷なファンにもゴチャゴチャ文句を言わせないような(もはや何を言っても無駄だと思わせる)突き抜けた描写をそこかしこに散りばめ、観る者を茫然自失もとい強引に納得させてしまう。

 特に、カタストロフを描こうと思ったら酔っ払いの小競り合いというか小さい暴動レベルにしかならなかった、という驚愕の終末ビジョンがあまりに面白すぎる。普通なら弱点になるところだが(いや実際そうなんだけど)、そこにはアルジェントが初めて挑む大スケールの物語への不慣れ感、同時に「こんなもんでいいんだ!」という力強い確信がみなぎっており、そのズレが独特の妙味を生んでいるのだ。

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 新しいモードというのは、TVシリーズ『マスターズ・オブ・ホラー』で味をしめたと思しき、いわゆるアルジェント的な優美さをかなぐり捨てた派手な人体破壊と露骨なエロティシズム、そして現実世界の見た目に則したプレーンな映像である。かつてトレードマークと言われた超現実的な原色照明、奇抜なカメラワークは90年代半ば頃から意識的に封じられたが、久々にオカルトをテーマにした本作でもアルジェントは近年の好みを貫いている。

 一方で、若い世代のアルジェント・ファンを代表するような米国人ライターチームにベタベタな脚本を書かせ、安手のオマージュみたいな一直線のストーリー展開にも沿ってみせたのが意外。今までの意固地なひねくれぶりが嘘のようだ。前作『ドゥー・ユー・ライク・ヒッチコック?』(2005)にもあった執拗なロングショットヘのオブセッションなどは陰を潜め、シナリオに書かれたイベントをひとつずつ消化するのが最優先という感じの淡白な演出は、賛否分かれるところだろう。個人的にも「もう少しタメというか、引っ掛かりがあればなあ」と不満を抱きながら前半は観ていたが、先述の魔女集結シーンを始め、シナリオを逸脱する破綻や沸騰が見え始めてからは面白くなる。予算の少なさから来るカットやシーンの不備は歯がゆいが、何よりも本作最大の弱点はミーハーなくせに生真面目すぎる脚本だ。しかし、御大の条理を超えた演出がそれを克服する瞬間も確かにある。

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 主演はアーシア・アルジェント。父ダリオの監督作に主演するのは4度目だが、今回はいつにも増してプロの役者として父の演出に応えようとしているように見えて、それだけでも感動的だ。例えば、不自然な感情の流れを演じる時でも、シャワーシーンでフルヌードを見せる時でも、いい意味で素材に徹する割り切りを感じた。熱演ともまた違う、適正な温度でダリオ・アルジェント映画のヒロインを演じられる女優に成長しているのである。逆に、母ダリア・ニコロディとの絡みになると私情がまるだしになるところは微笑ましい(母親役なので当然だが)。こういうベタに気のきいたことをしようとする演出も、家族と疎遠になる一因なのかな……と思ったりしたけど。

 ウド・キアーやフィリップ・ルロワといったベテラン俳優陣の出演も見どころ。ケバい日系魔女を怪演したイチカワ・ジュンもインパクト大(アフレコ台詞だけ別人なのでインチキ日本語になってしまうところは可哀想だったが)。個人的には魔女の配下を演じるクライヴ・リッシュの飛び道具感も印象的だった。本業は歌手らしい。

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 ホラー映画ファン、アルジェント・ファン(父でも娘でも)はもちろん劇場で対面するべき作品だし、いま上映されている他のどんな映画とも似ていないものが観たい人にもお薦め。いまだに「アルジェント節、健在なり!」とか言いたくて仕方がない昔からの信者には失望を与える映画かもしれないが、アルジェントはとっくに次の段階へ進んでいるのだ。次回作『Giallo』が楽しみである。

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DVD『サスペリア・テルザ ─最後の魔女─』
雑誌「TRASH-UP!!」VOL.3(ダリオ・アルジェント特集!!)


監督・原案/ダリオ・アルジェント
脚本/ジェイス・アンダーソン、アダム・ギーラッシュ、ダリオ・アルジェント
撮影/フレデリック・ファサーノ
プロダクションデザイン/フランチェスカ・ボッカ
音楽/クラウディオ・シモネッティ
出演/アーシア・アルジェント、アダム・ジェームズ、モラン・アティアス、ヴァレリア・カヴァッリ、フィリップ・ルロワ、ウド・キアー、ダリア・ニコロディ
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