Simply Dead

映画の感想文。

『星から来た男』(2008)

『星から来た男』
原題:슈퍼맨이었던 사나이(2008)
英語題:A Man Who Was Superman

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 秀作。『猟奇的な彼女』(2001)のチョン・ジヒョンが従来のイメージを一新し、やさぐれたTVディレクターに扮したコメディタッチのヒューマンドラマ。『ハピネス』(2007)の演技派ファン・ジョンミンが“自分をスーパーマンだと思い込んでいる男”を熱演し、風変わりなストーリーに活力を与えている。監督・共同脚本は『マラソン』(2005)のチョン・ユンチョル。

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〈おはなし〉
 テレビ制作会社の女性演出家スジョン(チョン・ジヒョン)は、心温まる感動やヒューマニズムを売り物にする番組作りにうんざりし、外国へ旅立とうとしていた。そんな時、彼女は町でたまたま自称スーパーマンの男(ファン・ジョンミン)と出会う。派手なアロハシャツに時代錯誤なパーマ頭のスーパーマンは、日々町中を駆け巡り、正義と平和を守るためにと大忙し。困っている老人を助けたり、小学校に出没する露出狂を撃退したり、地球温暖化を防ぐために逆立ちしたり。スジョンは彼を主人公にドキュメンタリー番組を制作することに決める。だが、スーパーマンの頭には謎の物質クリプトナイトが埋め込まれており、そこには彼の悲しい過去が隠されていた……。

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 要するに『フィッシャー・キング』(1992)のような「聖なる狂人」もののバリエーションである。純粋な心を持つ主人公の破天荒な行動をコミカルに描きながら、切ない過去のドラマでホロリとさせる。そこに環境破壊問題や、無闇に繰り返される都市開発への批判、人間性を失った現代人の病理、さらには軍事政権時代の暗い記憶まで絡めてくる生真面目な社会派色が、実に韓国映画らしい。チャン・ジュヌァン監督の『地球を守れ!』(2002)を思い出す人もいるだろう。

 チョン・ユンチョル監督は、自称スーパーマンの男の視点=妄想と、現実の状況を対比させて面白みを出そうとしている。ただし、妄想と現実の描き分けはハッキリさせていない。突飛な出来事も現実感のあるルックで撮っているので、観客が一瞬どう捉えていいのか困惑するような感じにしてある。そして語り手はあくまでTVディレクターのヒロインなので、映画全体の視点に統一性はなく、見せ方としてはかなりキワキワな感じ。ある面では挑戦的だが、ある面ではちょっと雑な作りに乗り切れるかどうかで、好き嫌いが分かれる作品だろう。個人的には、もう少し上手に見せられる気もしたけど、映画的に面白いことをやろうとしている意欲は伝わるので許容範囲内だった。ミシェル・ゴンドリー的ないやらしさも希薄だし。

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 映像面よりはやっぱりストーリー重視の作品で、ネタの仕掛け方・明かし方・もったいぶり方がとにかく巧い。特に、後半のとあるシーンで光州事件(80年に起きた未曾有の軍民衝突事件)が出てくるところなど「あっ!」と声を上げそうになるくらい驚かされた。ただ、そういう事件があったことを知らないとよく分からないような構成になっているので、とりあえず『光州5.18』(2007)ぐらいは観ておいた方がいいと思う。韓国で『スーパーマン』が公開されたのは前年の79年なので、モチーフを見ただけでピンと来る人もいるかもしれない。エンディングに出てくるテロップも衝撃的だ。

 そして、泣かせ方もさすが手練の仕事という感じ。後半はもうずっと涙腺にジワジワきてるんだけど、まさか終盤でちょっとしか出てこない高校生グループの「服装」でバーストさせられるとは思わなかった。ああいうの弱い。

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 ユメもチボーも失った主人公スジョン役のチョン・ジヒョンは、男っぽい性格にユーモラスな諦観を滲ませた「働きマン」的なキャラクターを好演。この映画の彼女は、今までに出演したどの作品よりも魅力的だと思う。元々それほど器用に芝居できる人ではないけど、今回はアイドル扱いのつまらない美人役でも、素質的に似合わないヘヴィーな役柄でもない。衣装や髪型などビジュアル面の新鮮さも手伝って、いつになくアグレッシヴに、のびのびと演技しているように見える。まあ、プロのTV屋らしい現場での所作があんまりできてないという欠点はあるけど、役者としては正直ちょっと見直した。それは共演者ファン・ジョンミンの演技力に引っ張られているところもあると思う。

 ここ数ヵ月、雑誌の記事を書くために韓国映画を集中的に観ていて思ったのは、ファン・ジョンミンはすごい! ということ。熱心な韓国映画ファンの方にしてみたら「何を今さら」という感じだと思うけど……恥ずかしながら『ハピネス』と『黒い家』(2007)の主人公が同じ人だとは、しばらく気付かなかったのだった。まるでカメレオンのように様々な役柄をこなしつつ、どの役にも持ち前の善良で実直そうなキャラクター(そして若干の怖さ)を感じさせる不思議な俳優である。『星から来た男』でも、ファン・ジョンミンは“行き過ぎた善人”をパワフルにエキセントリックに演じ、同時にまったく別人のようなパーソナリティも見事に演じ分けてみせる。

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 韓国映画にはあまりないタイプのファンタジー性と、韓国映画らしい社会性をウェルメイドな作風でうまく融合させた、とても面白い映画だと思う。チョン・ジヒョン主演作にしては地味な扱いだが、埋もれさせておくには惜しい秀作。繰り返しになって申し訳ないが、この映画のチョン・ジヒョンは本当に今まででいちばんいい表情をしてるし、いちばん可愛い。

 なお、本作はHDカメラで撮影され、日本の劇場でプロジェクター上映された時はハイビジョンドラマのような印象だったらしいが(確か予告編もそうだった)、DVDはちゃんとフィルム感のある画質に調整されている。日本でDVDリリースされたのは106分の劇場公開版(国際版?)だが、韓国で発売されたファイナルカット版は110分と、少し長いらしい。

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DVD『星から来た男《劇場公開版》』プレミアム・エディション



監督/チョン・ユンチョル
脚本/キム・バダ、ユン・ジノ、チョン・ユンチョル
原作/ユ・イラン
撮影/チェ・ヨンファン
照明/キム・ソングァン
出演/ファン・ジョンミン、チョン・ジヒョン、チン・ジヒ、キム・テソン、ト・ヨング、ソン・ウソン、ソ・ヨンファ
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