Simply Dead

映画の感想文。

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『グラン・トリノ』(2008)

『グラン・トリノ』
原題:Gran Torino(2008)

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 泣いた。ここ数日は『星から来た男』(2008)とか、『Futurama:Into The Wild Green Yonder』(2009)とかで泣いてばっかりだったけど、『グラン・トリノ』でもやっぱり顔面グショグショにさせられた。せっかく花粉症も治まってきたのに……。

 もう傑作とかなんとかいうレベルを飛び越えて、あらゆる人の胸を打つ映画だと思う。別に、これまでのクリント・イーストウッド作品のなかでも屈指の完成度を誇る作品というわけでもない。リタイアした頑固親父が若者を鍛え上げていくというプロットなら、他に思いつく作品例は数限りなくあるだろう。だが、ここ数年間ひたすら揺れ続けたアメリカという国の現在、そしてその展望を、ごく小さな世界のシンプルな物語のなかに、見事に表現しきっているのは本当にすごい。行き詰まった状況へのアイロニーでもなんでもなく、「マイノリティへの“よきアメリカ”の継承」を真摯に提示してみせる物語の現代性、加えてその主人公を78歳のクリント・イーストウッド自身が演じることの凄みと説得力。私たちがこれまでイーストウッドという存在をどのように受け止めてきたかを思えば(どんな受け止め方であれ)、重みが断然違うのだ。

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 近年のイーストウッドは紛うかたなきアメリカ人としてアメリカを描きながら、そこには常に他と一線を画す冷静な客観性があった。国粋主義的な理想に淫せず、その病理も率直に掘り下げ、どこか外から見るような視点で「この国が何を大事にしていったらいいのか」を真摯に提案し続けてきたような感がある。そんな独特の視線を持ち得たのは、やはりイタリア映画界からの逆輸入というかたちでハリウッドスターに返り咲いたキャリア、いちど外地で“ヤンキー俳優”としての日々を過ごした経験が、大きく作用しているような気がしてならない……みたいなことを『父親たちの星条旗』(2006)の時にもチラリと書いたけど、今回もやっぱり同じような感覚を抱いた。

 もしゴリゴリのナショナリストや白人至上主義者だったら、当然、本作のような映画は撮れなかっただろう。それこそ主人公ウォルター・コワルスキーのような人間だったならば。そういう意味では、監督としての視点とは真逆の人間像を役者として見事に演じあげたイーストウッドの仕事は、まさに離れ業といえる。

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 今回の『グラン・トリノ』最大の見どころのひとつが、イーストウッド御大がとことん“ダメな人”を演じてみせる姿だ。ひたすら口が悪く、頑固で攻撃的で、おまけに好色。誰かと口をきくたびに見ている方がハラハラしてしまうような食えない親父を、まるで自分の役者人生の集大成のように、嬉々としてユーモラスに演じている。その姿はとても痛快だ。その上、老いてなお衰えない格好良さや鬼迫も見せてくれるのだから、魅力的でないはずがない。しかも本作は、頑迷な老人のデリケートな成長ドラマでもある。俳優としていまだに向上心がなければ務まらない役柄だろう。

 この映画のもうひとりの主役といえるモン族の少年タオを演じたビー・ヴァン(友達にそっくりで他人とは思えなかった)、その姉スー役のアーニー・ハーもそれぞれ印象に残る。特に、クレバーでタフなキャラクターを颯爽と演じるアーニー・ハーが素晴らしい。ビー・ヴァンの内向的なひねくれ方、後半でちょっと調子に乗る感じも絶妙だ。ちょっとおかしなテンションの芝居もあるけど、基本的には自由に演じさせているのが分かって、監督イーストウッドの柔軟な演出法がほの見えるかのよう。童貞コメディ映画の主人公のように見えて、実は儲け役の神父クリストファー・カーリー、コワルスキーの駄話仲間である床屋ジョン・キャロル・リンチもいい味を出している。

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 柔和で穏やかな場面も多いが、全体の語り口はやはりイーストウッド作品らしい骨っぽさに貫かれている。ことさら感動のためにシーンを間延びさせたりせず、大胆な説明台詞すら交えて話がサッサカ進んでいき、「もうひと押しあれば盛り上がるのに」と思うようなところでも躊躇なく前へ前へと進む。クライマックスさえ効果的に見せられれば充分だ、というように。そして監督の思いどおり、ラスト10分で観客の涙腺はものの見事に決壊する。それでいいのだ。この気骨も、イーストウッドが後続の若いハリウッド映画人たちに継承したい「アメリカ映画のスピリット」なのではないだろうか。

 ラストでは、イーストウッド自身が78歳の声で歌うテーマソングが流れる。その名も「Gran Torino」。それが、どうしても「雨上がりの夜空に」と重なって聞こえてしまい、よけいに涙が止まらなかった。単にタイミング的なことに過ぎないかもしれないけれど、帰り道も自転車をこぎながら頭のなかにその2曲がずっとループしていて、何度も目の前が滲んで仕方なかった。特に、男の別れと、死して何を残すかを伝える物語を観た後では。

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DVD『グラン・トリノ』
Blu-ray『グラン・トリノ』


監督/クリント・イーストウッド
製作/ロバート・ロレンツ、ビル・ガーバー、クリント・イーストウッド
原案/デイヴィッド・ジョハンソン、ニック・シェンク
脚本/ニック・シェンク
撮影監督/トム・スターン
プロダクションデザイン/ジェームズ・J・ムラカミ
音楽/カイル・イーストウッド、マイケル・スティーヴンス
編集/ジョエル・コックス、ゲイリー・D・リーチ
出演/クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン、アーニー・ハー、クリストファー・カーリー、ジョン・キャロル・リンチ

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コメント

やー、今日観たよ。
本当によかったねえ…
カッティングやシーンの切り上げだけでなく、芝居のスピードもすごくはやい。そしてクライマックスにいたる直前のばあさんとのやりとりの軽さ、そして決戦の簡潔さ(並みの演出家だったら現場に警察を呼び込む段取りをサスペンスっぽくくだくだしく描くでしょう)、言うことないね。
その決戦でも、一軒家の窓、ドアに立ち並ぶギャングの姿に、目がうるんだよ。戦い方が変わっただけで、西部劇なんだね。
いやー、よかった。終映後の男便所、みんな鼻をすすってたよ(笑

  • 2009/05/13(水) 01:12:02 |
  • URL |
  • baby arm #-
  • [ 編集]

コメントどうもです!
確かに西部劇ですね、あの画は。
でもやっぱりセンスはマカロニ寄りなんですよね。

本当にスパッ、スパッと音がするような運びのよさでしたね。
逆に『パーフェクト・ワールド』とか、なんであんなにタルくしたのか
考えてみたくなりました。

> 終映後の男便所
パンフ売り場も似たようなことになってましたよ(笑)

  • 2009/05/13(水) 02:31:03 |
  • URL |
  • グランバダ #h1buydM2
  • [ 編集]

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