Simply Dead

映画の感想文。

『ザ・バンク ─堕ちた巨像─』(2009)

『ザ・バンク ─堕ちた巨像─』
原題:The International(2009)

international_poster.jpg

 トム・ティクヴァ監督の演出手腕が冴え渡る社会派アクションスリラーの快作。この監督にはこういう映画を撮ってほしかった、という願いが見事に叶ったような作品で、溜飲の下がる思いがした。

 硬質でスタイリッシュな映像センス、甘さのない人間ドラマ描写が魅力的で、やはりハリウッドの監督にはないセンスを感じる。音楽と映像を連動させ、サスペンスを盛り上げていく語り口も見事だ。世界各国のロケーションを有効活用した、文字どおりインターナショナルな大作然とした画面の作り方も堂に入っている。『パフューム/ある人殺しの物語』(2006)で大規模な合作映画の現場を経験したことも大きいだろう。暗殺事件の起こった集会場を遥か上空からの真俯瞰で捉えるカットなど、ムチャな発想を見事に具現化しているところも楽しい。

international_basement.jpg

 しかし、「巨大銀行による犯罪」という本当に巨大なテーマを選んでしまった以上、どうしても限界はある。今どき、銀行の協力なしに作られる映画などないからだ。多少の手加減、曖昧さ、煮え切らない結論などは観る前から大体予想できてしまう。ラストはやはりご都合主義的な伏線回収で物語を強制終了させてしまった感は否めない。それは、メディアと軍需産業を手中に収める複合企業の犯罪を暴こうとする『消されたヘッドライン』(2009)にも当てはまるジレンマで、あの映画でもやはりクライマックスで「問題のすり替え」が起こり、告発対象が急にぼやけてしまう。もはやハリウッドでストレートな告発映画は作られることはないのか、と複雑な気分にさせられてしまった。

 さらに『ザ・バンク』には、社会派作品としての題材のリアリティと、アクションスリラーとしての体裁にやや齟齬が生じているという問題もある。どちらか一方で楽しもうとすると、展開に無理があると思ってしまったり、逆に地味すぎる印象を受けたりする。個人的には、いくら取引の邪魔になるからって、そんなにポンポン人を暗殺してたらすぐに問題が表面化すると思うし、そこで生かさず殺さず陰湿な口封じをすることで組織の恐ろしさがリアルに描けるのではないのか、と思ったりした。ただ、それだと大多数の観客には地味な映画だと思われてしまうだろう。今この手のポリティカルスリラーをリアルに、かつ娯楽映画として作るのは、なかなか難しいことではある。

international_owen.jpg

 いろいろと微妙なバランスで成り立っている映画だなあとは思いながら、やっぱり魅力的な作品であることは間違いない。特に、多くの映画ファンの心を確実に鷲掴みにしてしまうシーンがあるので、それを思うとだいぶ評価が甘くなる。中盤のニューヨーク・グッゲンハイム美術館(を精巧に再現したセット)で展開する大銃撃戦がそれだ。もう、しばらくはこの感動を凌ぐガンアクションは出てこないだろうというぐらい、本当に興奮した。この場面だけでも劇場で観ることができてよかったと思う。

 それまでの流れで「ここもロケ撮影なのかなあ」と思っていたら、いきなりマシンガンで美術品や建物に銃弾を撃ち込みまくる非常識なアクション・シークェンスが幕をあける。それも延々と。しかも主人公が耳の後ろから鮮血をボタボタ垂れ流しながら。さらに、そこで彼がある人物と結託して危機を乗り切らなければならなくなるという、予想外のバディムービーにまでなってしまう。まさに「こんなの見たことない」と思える夢のようなシークエンスで、ただただ興奮し、酔いしれるばかりだった。ハッキリ言って、前述の社会派作品としてのリアリティという面で考えればデタラメもいいところの展開である。しかし、あまりにも破格の迫力に満ちた場面だし、どう考えても作り手がいちばん気合いを入れて撮っているシーンなので、その時間だけは些細な疑問も彼方に吹っ飛んでしまう。銃撃戦好きは何をおいても必見だ。

international_museum.jpg

 主演はクライヴ・オーウェン。無精髭だらけの薄汚れた風体で、巨大銀行の犯罪を追うインターポール捜査官を熱演。相変わらずストイックな演技スタイルを貫く姿が頼もしく、硬質なエンターテインメントの主役が本当によく似合う。サポート役に徹するナオミ・ワッツの控えめな存在感もいい。

 後半、主人公があるひとつの正義を行うために全てを捨てて《亡霊》となるか、それとも組織の一員として不毛な戦いを続けていくかという岐路に立たされた時、彼は強い覚悟をもってナオミ・ワッツに自らの決断を告げる。この場面におけるクライヴ・オーウェンは、劇中で最も憔悴しきったズタボロの姿であるにもかかわらず、ほとんど透徹した威厳を放ち、もはや人間というより別の美しい生き物になってしまったような印象さえ与える。そんな瞬間を体現できる役者は彼だけではないだろうか。マイク・ホッジス監督と組んだ主演作『ブラザー・ハート』(2003)における、大物ギャングだった過去を捨ててどん底の生活を送りながら、どこか野生動物のような美しさを湛えて生きる主人公の姿が重なった。

international_elevator.jpg

 ぜひまた同じチームで堂々たるアクションスリラー映画を作ってほしいと思った。できれば、社会悪に牙を剥く気概は十割増しで。

・Amazon.co.jp
DVD『ザ・バンク 堕ちた巨像』コレクターズ・エディション
Blu-ray『ザ・バンク 堕ちた巨像』


監督/トム・ティクヴァ
製作/チャールズ・ローヴェン、リチャード・サックル、ロイド・フィリップス
脚本/エリック・ウォーレン・シンガー
撮影/フランク・グリーベ
プロダクションデザイン/ウリ・ハニッシュ
編集/マティルド・ボンフォワ
音楽/トム・ティクヴァ、ジョニー・クリメック、ラインホルト・ハイル
出演/クライヴ・オーウェン、ナオミ・ワッツ、アーミン・ミューラー=スタール、ブライアン・F・オバーン

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://simplydead.blog66.fc2.com/tb.php/359-25f0afb2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad