Simply Dead

映画の感想文。

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『低きところに臨みたまえ』(1981)

『低きところに臨みたまえ』
原題:낮은데로 임하소서(1981)
英語題:Come Down to a Lower Place

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 韓国ニューウェーブを代表する監督イ・ジャンホが手がけた宗教映画の秀作。牧師の息子として生まれ、神に反発してきた主人公の青年が、失明によって不幸のどん底に落ちながらも神の啓示を受け、最下層の人々と触れ合うことで自らも牧師になる決意をするという物語。無信仰者としてはやや納得できないところもある、呆れるくらいストレートなキリスト教賛美映画ではあるが、映画として面白いことは否定しようがない。佐藤忠男氏も「いいものはいい」と言っている。

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〈おはなし〉
 牧師である父からヨハンという名を授けられた主人公(イ・ヨンホ)は、その負担から逃れるため神や宗教から遠ざかり、いち社会人として自立を図る。愛する女性と結婚し、娘にも恵まれ、アメリカの米軍基地で韓国語教師として働くことも決まった。全てが順風満帆かと思われたのも束の間、ヨハンは原因不明の病にかかり、急激に視力を失い始める。内定を取り消され、粗末な家に家族と引っ越したヨハンは、友人のつてで女子校のフランス語教師の職を得る。が、ますます視力は低下し、ついには教職も辞してしまう。

 治療の甲斐もなく、盲人となったヨハン。妻子も去り、ひとり家に残された彼は、首つり自殺を試みるも失敗。その時、天から神の啓示が……。聖書に救いの言葉を見出し、再び生きる力を取り戻したヨハンは、家を出て町へと下る。様々な苦難や危険に遭いながらソウル駅へと辿り着いた彼は、そこを根城にする路上生活者や靴磨きの少年たちと出会い、交流を深める。彼らの温かい心に触れたヨハンは一念発起し、神学校への入学を目指すのだった。

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 自身も敬虔なクリスチャンであるイ・ジャンホ監督は、神への愛による再生のドラマを清々しいまでの率直さで描き、ひとつ間違えば嘘くさい説教話になりそうなストーリーを嫌味なく見せきっている。そこには社会の底辺を生きる貧困者層への絶対的シンパシーがあり、その苛酷な生活をありのままに描写する誠実さが、ストーリーに圧倒的な説得力を与えている。また、家族に障害者がいると世間体が悪いとする一般民衆意識も躊躇なく描かれ、アウトサイダーには厳しかった当時の社会状況もうかがえる。

 70年代の圧政下ではタブーとされていた韓国社会の現実に敢然と目を向け、なおかつ限りない優しさで「低きところに臨む」イ・ジャンホの演出には、嘘がない。同じように、宗教という難しい題材を扱っていても、作り手が自分に対して嘘をついていないことが映画を観ていて分かるのだ。なおかつ決して荘厳・重厚な演出にはせず、テンポのいい語り口と豊かなユーモアで、気のおけない庶民性を湛えた映画にしているところも好感が持てる。80年代テイスト溢れるライトな音楽も効果的だ。

 重いテーマと内容でありながら、人情ドラマとして味わい深く、どこか風通しがいい。そのバランス感覚は、同監督の傑作『暗闇の子供たち』(1980)にも通じるものがある。本作とは対極にあり、しかし求めるところは近いのが、イ・チャンドン監督の『シークレット・サンシャイン』(2007)だろう。一点の曇りもない信仰心で力強いドラマを作ってしまうイ・ジャンホ監督のような存在が、真逆の疑念や不信を軸に「神と人間の距離」を考察しようとする大きなモチベーションになったのかもしれない、とも思ったりした。

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 主人公ヨハン役で素晴らしい好演を披露しているイ・ヨンホは、監督の実弟。純真そうな瞳と笑顔が印象的な優男で、落ちぶれながらも人々に慕われていく心優しいキャラクターを説得力十分に演じている。本作は彼の映画と言っていい。家族の重圧に負けて夫ヨハンを見捨ててしまう妻を演じるのは、『暗闇の子供たち』で主演デビューしたナ・ヨンヒ。実を言うと、この映画を見たのも彼女目当てだった。『暗闇?』の鮮烈なヒロイン役に比べると出番も少ないし印象も薄いが、映画のラストを締めくくる重要な役である。ヨハンの父を演じるのは名優シン・ソンイル。主人公の同僚教師役で、アン・ソンギも顔を見せている。

 だが、何より印象に残るのは、ソウル駅周辺にたむろする貧しい人々の姿だ。病気の祖母と二人暮らしの少年が、いつか学校に通える日を夢みて学生服と教科書を買ってあるんだと主人公に語るシーンは、特に泣かせる。仲間の一人として両脚のない男性が登場するが、多分『暗闇の子供たち』にも出ていた人だと思う。

 ちなみにこの作品は韓国でも未DVD化。日本では韓国文化院の図書映像資料室で、日本語字幕つきのビデオを見ることができる。



監督/イ・ジャンホ
原作/イ・チョンジュン
脚本/イ・ジャンホ、ユン・ジェソプ、イム・ジンテク
撮影/ソ・ジョンミン
出演/イ・ヨンホ、シン・ソンイル、ナ・ヨンヒ、パク・チョンジャ、アン・ソンギ
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