Simply Dead

映画の感想文。

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『ヘンリー・プールはここにいる ?壁の神様?』(2008)

『ヘンリー・プールはここにいる ?壁の神様?』
原題:Henry Poole is Here(2008)

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 マーク・ペリントンという監督は、どうしていつも扱いに困るような映画ばかり撮るんだろう……。好きな監督ではあるんだけど、毎回「ちょっとそりゃないんじゃないの?」と思ってしまう部分を孕んだモンダイ作ばかり放ってくるので、世間的には軽くバカにされている感がある。最高傑作はおそらくテロの恐怖をパラノイア視点で描いたスリラー『隣人は静かに笑う』(1998)だろう。終盤の「それはねえだろう」的な展開も、強引な力技として押しきってしまうところが個人的にはとても面白かった(いちばん大好きなのは、手がグチャグチャになった子供が出てきてバダラメンティの狂ったスコアが炸裂するアヴァンタイトルだけど)。今回の『ヘンリー・プールはここにいる』も、やっぱり否定しがたい「穴」を内包した作品で、決して悪くはないし面白くもあるんだけど、観終わった後には「何かもっと別のうまいやり方」を夢想せずにはいられない映画だった。

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 ルーク・ウィルソン演じる主人公ヘンリー・プールは、閑静な住宅地にたった一人で引っ越してきて、誰とも関わり合わずに静かな生活を送ろうとしている男。ところが、隣人のおばさんが壁に浮き出たシミを見て「イエス様の顔だ」と言い出したことから、神父や住民たちまでもがヘンリー宅の“奇跡の壁”を一目見ようと押しかけ始める。思わぬかたちで平穏をぶち壊されたヘンリーは、同じく隣人で、自閉症の娘を抱えるシングルマザーのドーンとも交流を持つようになる。ただ静かに余生を過ごそうとしていたヘンリーの中で、次第に何かが変わっていくが、彼に残された時間はあとわずかだった……という物語。生きる希望を失っていた主人公がある不思議な出来事(神の意志)をきっかけに、再び周囲との関係性を取り戻していくというクラシカルな物語を、「壁のシミ」というきわめて形而上的かつ文字通りしみったれたモチーフで描こうとした意欲作である。コメディ風の売り方をされているが、基本的にはいたってシリアスに奇跡や希望について考察するドラマで、予想と違って面食らう人もいるだろう。

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 とても魅力的なプロットであるだけに、物語としてどう着地させるかによって傑作になるかもしれないと期待していたのだけれども、そこでまたペリントン作品らしい「穴」が発生してしまった。詳しくは書かないが、まあどっちかしかない話なので、大体分かってしまう気もするけど……要するに「えっ、そのまんま?」な方向。確かに、最近はバッドエンドの映画が多すぎる。しかし、人生の機微をきっちり描こうとした物語のオチにしては甘すぎるし、風変わりな寓話にしては飛躍に欠ける。あまりにも素面でファンタジーが正当化されすぎていて、まるで宗教の勧誘パンフレットに載っている小話みたいな枠内に収まってしまい、映画自体のスケールもそこでグッと縮まってしまうのだ。別にスタジオからラストの改変を迫られたわけでもなく、最初からこういうオチがやりたかった脚本ではあるようだけれども、もっと深みのある物語にできたはずだと思わずにはいられない。

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 ただ、中盤まではなかなかいいのだ。パラノイアックなスリラー作品の印象が強いペリントン監督だが、その真摯なドラマ演出は観客の心をしっかりと掴んでくれる。やや甘ったるい部分もなくはないが、きっと普段の作風からの反動だろう。これまでの作品同様、カメラワークへのこだわりも印象に残る。特にレンズの使い方が相変わらず独特だ。子ども(少女)を捉えるカメラがやけに艶めかしいのも、ペリントンの危ない癖か? 陰影の中にスポットライトを当てるような、おなじみの照明デザインも効果的に用いられている。

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 何よりこの映画を無視できないものにしているのは、役者の演技の素晴らしさだ。ペリントン監督は間違いなく俳優への演出にも秀でていると思う。主人公ヘンリーを演じるのは、スター女優のかませ犬(もとい相手役)と、ボンクラコメディの主役を演じさせたら右に出るものはない、ウィルソン三兄弟の星ことルーク・ウィルソン。今回は久々にシリアスな役を得て、希望を失った男を抑えた芝居でデリケートに表現し、ストイックな演技派としての力量を見せてくれる。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)のような演技がまた見たいと思っていたファンは必見だ。

 そして、本作でいちばん光っているのが、ヒスパニック系の隣人エスペランサおばさんを演じる、アドリアナ・バラーザである。多言語群像劇『バベル』(2006)でも断トツで素晴らしい演技を披露していた彼女が、今回は無邪気で可愛らしい、孤独な中年女性を絶妙に演じている。壁のシミに神様の姿を見てしまうというヒステリカルなおかしさを持ったキャラクターが、こんなに愛らしく繊細な人物像になったのは、彼女の存在あってこそだろう。シングルマザー役のラダ・ミッチェルも相変わらずうまい。ペイシェンス(忍耐)という意味深な名前の近眼少女を演じたレイチェル・シーファースも印象的だし、女優陣は軒並みよかった。

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 傑作・秀作まであと少し、という惜しいところまで行った映画である。それだけに、このまま見逃してしまうのも、ちょっと惜しいと思える佳作だ。

・Amazon.co.jp
DVD『ヘンリー・プールはここにいる ?壁の神様?』


製作総指揮/ノーマン・リース、アレック・リード、マイケル・アグィラー、マーク・ペリントン
監督/マーク・ペリントン
脚本/アルバート・トーレス
撮影/エリック・シュミット
プロダクションデザイン/リチャード・フーヴァー
音楽/ジョン・フリッゼル
編集/リサ・ゼノ・チャージン
出演/ルーク・ウィルソン、ラダ・ミッチェル、アドリアナ・バラーザ、ジョージ・ロペス、レイチェル・シーファース、リチャード・ベンジャミン、モーガン・リリー

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