Simply Dead

映画の感想文。

『奇談』(2007)

『奇談』
原題:기담(2007)
英語題:Epitaph

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 傑作。1942年の京城(ソウル)を舞台に、ある小さな病院で起こる怪異の数々をオムニバス風に綴った、異色のホラーファンタジー。監督・脚本を手がけたのは、これがデビュー作となるチョン・シク&ボムシク兄弟。「TRASH-UP!!」の韓国取材でお話をうかがった映画ライターの方が、自国のホラー映画ベスト5の1本として本作を挙げていて、さっそくDVDで観てみたら本当に素晴らしい作品だった。

 氷の下で見つかった美しい女子高生の死体に魅せられる医学生パク。悲惨な交通事故から生還しながら終わらない悪夢に襲われる少女あさこ。そして、愛する妻に「影がない」ことを知ってしまったエリート医師ドンウォン。それぞれの物語は微妙に交錯し、生と死の境界はだんだんと曖昧になっていく……。そんな恐ろしくも物悲しい3つの“奇談”を、チョン兄弟はスタイリッシュな映像美とトリッキーな語り口を駆使して、スリリングに描いていく。その感覚は『ツィゴイネルワイゼン』(1980)や『夢二』(1991)といった鈴木清順の諸作品を連想させずにはおかない。作品自体の孕む死生観も含めて。

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 日帝時代を背景にしながら、それを不遇の時代として描かず、文化衝突のカオスが生んだルネッサンス期として捉える視点が新鮮だ。当たり前のように日本語が話され、日本軍兵士が街を闊歩し、創氏改名によって朝鮮国民が日本人名を名乗らされている当時の日常。それは一見平穏に見えても、どこか秩序を失ったシュールな世界という風情で映しだされる。迫り来る戦争の足音の中で、人間の生と死もまた容易に混濁していく。

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 耽美的な幻想シーンにも和のエッセンスが大胆に採り入れられ、グラフィックアートとしても完成度の高い典雅なビジュアルを作り出している。それらの鮮烈なイメージの数々を目に浴びているうち、作り手がこの時代背景を選んだのも、歴史的な興味というよりはこうしたビジュアルを実現したかったからではないか、と思えてくる。同時に物語的なイマジネーションも存分に喚起する時代設定であり、その意味でもなかなか目の付けどころがいい。

 映像の美しさだけで片時も目の離せない作品だが、なおかつホラー映画としてもしっかり怖い、というのが本作の偉いところ。夜の病院、手術の記録フィルム、遺体安置所、鏡といったモチーフの使い方がとても巧みで、不気味なムードを見事に醸し出している。血のデザインも素晴らしい。個人的には、ムードばかりでいまいちホラー映画としての魅力を打ち出せなかった感のある『箪笥』(2004)などより、ずっと好感が持てた。

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 また、3つ全てのエピソードに切ないラブストーリーの要素が織り込まれ、統一感を持たせているのも上手い。エンディングではしみじみと感動させられてしまった。愛する者の「喪失」が、この映画のもうひとつのテーマでもある。そこには戦争という悲劇に呑まれ、民族的アイデンティティを失っていく当時の国民心情も重ねられているだろう。本作は1979年という時代から幕を開けるが、そこでも生き残った者の「喪失」はリアルタイムの痛切なうずきとして、静かに脈打っている。

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 俳優もみな素晴らしい。クールな美貌の女医イニョン役のキム・ボギョン、死美人あおいに扮するモデル出身の新人ヨジなど、出てくる女優陣が軒並み美しく、ちょっと度肝を抜かれる。2話目の主人公である少女あさこ役のコ・ジュヨンも、日本のアイドルみたいですごく可愛い。その母親を演じるパク・チアはキム・ギドク作品でお馴染みの女優で、「韓国の白石加代子」と呼びたくなる怖さ。医大生パク役のチング、足の悪い青年医師スイン役のイ・ドンギュ、エリート医師ドンウォン役のキム・テウの好演も印象に残る。また、日本人将校・秋山を渋い魅力で演じる名傍役キム・ウンスがかっこいい。日本映画学校で学んだ経験があるらしく、どうりで日本語の台詞がうまい。冒頭で年老いたパクとして登場するのは、『火女'82』(1982)で情けない夫役を演じたベテラン名優チョン・ムソンだ。

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 やや話が分かりづらい部分や、不自然な繋がりが気になるところもあるが、最後まで観ると「あ、そういうことだったのか」と合点が行く仕掛け。そのあたりは好悪の分かれるところだろう(まあ、ちょっと凝りすぎな感は否めない)。ともあれ、若い作家の才気が画面の隅々までみなぎる、魅力的な小傑作だ。一応、観る前の基礎知識として、日本による朝鮮支配の歴史は知っておいた方がいいと思う。

(追記:日本では『1492奇談』のタイトルで2009年11月4日にDVDリリース)

・Amazon.co.jp
DVD『1942奇談』


・Scriptvideo
DVD『奇談』(韓国盤・リージョン3・英語字幕つき)



監督・脚本/チョン兄弟(チョン・シク&チョン・ボムシク)
撮影/ユン・ナムジュ
照明/キム・ジフン
美術/イ・ミンボク、キム・ユジョン
音楽/パク・ヨンナン
出演/チング、イ・ドンギュ、キム・ボギョン、キム・テウ、コ・ジュヨン、ヨジ、パク・チア、デイヴィッド・マキニス、キム・ウンス、イェ・スジョン、チョン・ムソン、オム・ジウォン

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