Simply Dead

映画の感想文。

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『戦略大作戦』(1970)

『戦略大作戦』
原題:Kelly's Heroes(1970)

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 アリステア・マクリーン原作の戦争スパイ活劇『荒鷲の要塞』(1968)を大ヒットさせたクリント・イーストウッドとブライアン・G・ハットン監督が、再びコンビを組んだ戦争巨編。第二次大戦中のヨーロッパ戦線を舞台に、連合軍のならず者集団がドイツ軍の所有する金塊を盗み出そうとするアクションコメディである。共演はテリー・サヴァラス、ドン・リックルズ、ドナルド・サザーランドほか錚々たる面々。ロバート・アルトマン監督の『M★A★S★H』(1970)と同時期に製作された本作は、まるで向こうを張ったかのように全編フマジメというか無責任なユーモアに溢れ、ハリウッド製の戦争大作にしては一風変わった仕上がりになっている。変わり者の戦車隊長に扮したドナルド・サザーランドは『M★A★S★H』以上にのびのびと怪演し、クライマックスにはイーストウッド自らマカロニ西部劇のパロディを演じるという仰天シーンも。テリー・サヴァラスが珍しく常識人っぽい役を好演し、ずば抜けてイイ。

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 主人公たちが戦う理由が愛国心などではなく、単なるお宝目当てなのが何しろ痛快。登場人物が最初から最後まで不純な動機で突っ走ってくれるシナリオが清々しい。敵の攻撃より味方の誤爆の方に苦しめられるという戦場の描写が繰り返されるのも、ノンポリ・ムードを強調している。もちろん、ベトナム戦争の真っ只中にあった当時の厭戦気分、国家不信も反映されているだろう。結末には岡本喜八かと思うようなオチも用意されていて、アメリカ映画にしてはなかなか珍しいと思った。

 なおかつ、大作ならではの派手な戦闘シーンもふんだんに用意されている。特に終盤、片田舎の美しい小さな町でタイガー戦車とシャーマン戦車が大砲をぶっぱなし、建物に突っ込んで町を横断したりするバトルシーンは迫力満点(軍事的考証もしっかりしているとかで、ミリタリーファンの間ではとても評価が高い)。しかし、英雄的とか勇猛果敢とかいった感じで撮られた場面はひとつもない。もしくは戦争の悲劇性を声高に訴えるような深刻な描写でもない。ただ全てが徹底的にアナーキーかつ非文明的な破壊行為として、面白おかしく映しだされるのだ。

 その合間に、兵士たちの無為なダベリや金塊泥棒の相談などが、のんべんだらりと描かれる。実にユルイ作りながら、それでも144分という長尺を意外と飽きさせないのがエラい。ブライアン・G・ハットンって結構やるんだな、と思った。その前にエリザベス・テイラー主演の鬱陶しい愛憎劇『ある愛のすべて』(1972)しか観ていなかったので、ちょっと見くびっていた。申し訳ない。

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 冒頭を飾るマイク・カーヴ・コングリゲイションによる主題歌「Burning Bridges」は、なんともピースフルで大らかな曲調のコーラス・ソング。『M★A★S★H』の「Suicide is Painless」を意識したのかもしれないが、とても戦争映画のオープニング・テーマとは思えないポップな名曲だ。ラロ・シフリンによる劇中音楽もスッとぼけた感じで素晴らしい。モリコーネのパロディまで聴かせてくれる。

 さすがに『M★A★S★H』のような鋭い風刺性や深みはないが、ある意味で時代性を強く感じさせる映画ではある。大手スタジオの凋落とニューシネマの勃興という、ある端境期だからこそ生まれ得た、独特の味を持ったフィルムと言えるだろう。そして、のちのニューハリウッド世代を代表する、とある映画作家にとっても非常に重要な作品なのだ。

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 『戦略大作戦』は、1969年にユーゴスラヴィアで9ヶ月間もかけて撮影された。様々な国から集められたクルーやキャストが現場にひしめき合う中、制作助手として奔走する1人のアメリカ人青年がいた。当時18歳のジョン・ランディスである。

 ランディスは経済的事情で学校を放り出され、20世紀フォックス所有のスタジオでメールボーイとして働いていた。その頃、彼はアンドリュー・マートンというベテラン監督と知り合う。ランディスの姉が通っていたギター教室に、マートンの娘も通っていたのだ。ハンガリー出身のマートンは戦前のヨーロッパ諸国で映画監督として活躍したが、ナチス台頭を機に渡米。『史上最大の作戦』(1962)の米軍パート演出や『海底世界一周』(1965)などの監督を手がける一方、『ベン・ハー』(1959)や『クレオパトラ』(1963)といった大作の第2班監督として重宝されていた。映画オタクのランディスは、彼からハリウッドや戦前ヨーロッパ映画界の昔話を根掘り葉掘り聞いては大喜び。マートンもまた、この人なつっこい若者に親しみをもって接した。ある時、マートンはランディスに映画界入りのチャンスを与える。

 「今度、ユーゴスラヴィアでMGM製作の戦争映画を撮ることになった。私も第2班監督として参加するんだが、君も来るか? 現場で仕事があるかどうかは約束できんが」

 ランディスはその申し出に飛びつき、母親には「映画の仕事が決まった!」と嘘をついて、人生初のヨーロッパ旅行に出発した。ただし、ヨーロッパの地理も大きさもよく分かっていなかったため、とりあえずロンドンに行けばなんとかなるだろうと思い、結局そこから何週間もかかってやっとユーゴスラヴィアの撮影現場に辿り着いた。ちょうど第1班の助監督が神経衰弱で帰国してしまったため、ランディスは第2班ではなく本編のアシスタント・スタッフとして働くことになった。

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 彼を待っていたのは、映画製作の名の下に行なわれていた壮大な“戦争ごっこ”であった。ハリウッドの映画人たちと欧州混成スタッフが入り乱れる撮影現場はまさにカオスで、市街戦クラスの銃撃戦や爆破は日常茶飯事。エキストラの数も衣装の数も膨大。役者は男ばかりの上、サザーランドやハリー・ディーン・スタントンといったクセモノ揃い。初心者にはあまりにもハードな現場だったが、ランディスにとっては全てが素晴らしい経験だった。

 目の回るような忙しさの中で、ランディスは多くの映画人たちと交流を持った。監督のブライアン・G・ハットン、撮影監督のガブリエル・フィゲロア、そして後年、自作『アニマル・ハウス』(1978)などに起用することになるドナルド・サザーランド(すでにランディスとは20世紀フォックスで『M★A★S★H』撮影中に顔を合わせていた)。陽気で人当たりのいい映画青年ランディスは皆に可愛がられ、そこで築かれた人間関係は彼にとってかけがえのないものとなった。H・D・スタントンとよくツルんでいる兵士を演じたジェフ・モリスは、のちに『ブルース・ブラザース』(1980)でカントリー酒場の店主を演じ、続編『ブルース・ブラザース2000』(1998)にも再登場。そして、文句の多い調達屋を演じたコメディアンのドン・リックルズは、近年に至るまでラスヴェガスのステージに立ち続け、その模様をランディスはライブフィルム『Mr. Warmth: The Don Rickles Project』(2007)として映画化した。

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 ランディス自身も俳優として映画に出演している。中盤、戦車に乗った主人公たちとすれ違う尼僧の1人がランディスである(もちろん顔も見えないが)。

 撮影を務めたガブリエル・フィゲロアは、ルイス・ブニュエル監督の『忘れられた人々』(1950)や『皆殺しの天使』(1962)などを手がけた名手である。もちろん彼との仕事はランディスを興奮させた。ある撮休日、フィゲロアはランディスと車でイタリアのトリエステに向かい、映画館でフェデリコ・フェリーニ監督の新作『サテリコン』(1969)を観た。その帰り道、フィゲロアは古い友人の家に立ち寄った。そこでランディスは初めてサルバドール・ダリと会ったそうだ。

 『戦略大作戦』撮影終了後、ランディスはイーストウッドのスタンドインを務めていたジム・オルーク(もちろんミュージシャンのジム・オルークとは別人)と意気投合し、スペインへ出稼ぎに行くことに。当時はマカロニウエスタンの全盛期であり、多くの西部劇がスペインで撮影されていた。ランディスたちはハリウッド仕込みのスタントマンとして、『レッド・サン』(1970)など数々の作品に参加。異国での映画修行を積んだ後、帰国したランディスは『シュロック』(1973)で映画監督デビューを果たすのだった。……そのあたりの話は、またの機会に。

▼『戦略大作戦』撮影現場にて。左からブライアン・G・ハットン監督、ドナルド・サザーランド、ジョン・ランディス、ガブリエル・フィゲロア、フォーカス担当のダニー・リオス
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 今観ると、『戦略大作戦』は“映画監督ジョン・ランディス”の人格形成に多大な影響を与えたとしか思えないような作品だ。無責任なユーモア、無意味かつ壮大な破壊のスペクタクル、ユルい会話、ノンポリ精神、そしてドライな死。映画中盤の戦線突破シーン、そしてクライマックスの豪快な戦車対決など、破壊と混乱のカオスを淡々と繰り広げてみせるアナーキズムは、『ブルース・ブラザース』の壮絶な物量アクションの原型にも見える。「ああ、映画ってこんなことしちゃっていいんだ」という決定的な悟りを開かせた現場体験だったのではないだろうか。そう考えると、『トワイライトゾーン/超次元の体験』(1983)撮影現場での悲劇の遠因にも思えてきて、ちょっと罪深い作品ではある。

 ランディスは、妻で映画衣装デザイナーのデボラ・ナドゥールマンに「この時の経験を映画化すればいいのに」と言われ、悪くないアイディアだと思っているらしい。それは個人的にもすごく観てみたい。『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)などとはまた違う、愉快でハチャメチャで愛らしい映画になると思うから。

(参考文献:Giulia D'Agnolo Vallan編著「John Landis」

・Amazon.co.jp
DVD『戦略大作戦』


製作/ガブリエル・カツカ、シドニー・ベッカーマン、ハロルド・ローブ
監督/ブライアン・G・ハットン
脚本/トロイ・ケネディ・マーティン
撮影/ガブリエル・フィゲロア
音楽/ラロ・シフリン
出演/クリント・イーストウッド、テリー・サヴァラス、ドン・リックルズ、ドナルド・サザーランド、キャロル・オコナー、ジェフ・モリス、ハリー・ディーン・スタントン、カール・オットー・アルバーティ
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