Simply Dead

映画の感想文。

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『最後の証人』(1980)

『最後の証人』
原題:최후의 증인(1980)
英語題:The Last Witness

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 パク・チャヌクやリュ・スンワンといった監督たちが「不朽の名作」と評する、1980年製作の韓国映画。ある田舎町で起きた殺人事件を捜査する刑事が、歴史に翻弄された不運な人々の悲劇を解き明かしていく、サスペンスドラマの秀作だ。監督は『桑の葉』シリーズなどで日本でも知られるイ・ドゥヨン。原作は韓国を代表するミステリー作家キム・ソンジョンによる同名小説で、のちに『黒水仙』(2001)としてリメイクされた。長らく幻の作品と化していたらしいが、最近になって日本語字幕つきのDVDが発売されたのを知って、買って観てみた。

 今回リリースされたDVDは、本国での劇場公開時に政府の検閲によってカットされた部分を、2002年にコリアン・フィルム・アーカイヴが可能な限り修復した154分バージョン(オリジナルは157分)。公開版はなんと100分だったそうで、さらにビデオ発売時には90分に短縮されていたとか。もはや別物と言っていい。そこまで厳しい検閲を受けたのは、製作中に「奴らはアカの映画を作っている」と何者かが当局にタレ込んだからだそうだ(もちろんそんな内容ではない)。

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〈おはなし〉
 小さな町ムンチャンの川沿いで、ヤン・ダルスという男が殺された。捜査を担当することになった刑事オ・ビョンホ(ハ・ミョンジュン)は、被害者の出身地プンサンへ赴き、その人間関係を洗い始める。村人たちが言うには、ヤン・ダルスは20年前に北のゲリラを一網打尽にした功労者であり、その後どこからか大金をせしめて妾と町に移り住んだのだという。オ刑事はさらに山奥の村へ足を運び、20年前の事件について詳しく知るという老人カン・マノ(ヒョン・ギルス)を訪ねる。

 マノはかつて智異山に潜伏する朝鮮人民軍ゲリラの一員であった。戦況の悪化に絶望した司令官ソンは、部下のマノに娘のジヘ(チョン・ユニ)を頼むと告げ、山中に隠した財宝の地図を託した後、命令違反の咎で処刑されてしまう。やがて韓国軍の総攻撃を受けたゲリラ軍は敗走。司令官の娘ジへや、民間人数名を含めた13人だけが里に逃げ延びる。小学校の床下に身を隠した彼らは、不安を紛らすためにジヘを輪姦。唯一、彼女を守ろうとしたのは民間人ファン・バウ(チェ・ブラム)だけだった。マノは自首を決意し、村の青年団長ヤン・ダルスの手引きで人民軍に学校を包囲させ、仲間たちに投降を促す。しかし交渉は決裂し、小学校は炎に包まれた……。

 マノの悲痛な告白の中に嘘を見破ったオ刑事は、その罪を厳しく追求する。激昂した老人は心臓発作を起こし、そのまま帰らぬ人となってしまった。証人を失ったオ刑事は、次の目的地ソウルへ。飲み屋の酌婦として働いていたソン・ジへを探し出し、投降後に何が起こったかを聞き出す。

 事件後、ジヘは心優しいファン・バウと夫婦になり、兵士たちに犯されて産んだ息子テヨンと3人で平和に暮らしていた。だが、智異山に隠した父の財宝が見つかったことで、さらなる不幸がジへたちを襲う。そこにはヤン・ダルスの卑劣な企み、そして事件の生存者の一人ハン・ドンジュの影があった……。

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 イ・ドゥヨン監督はテンポのいい語り口と、70年代的な懐かしさの漂う味わい深い映像で、2時間半の長尺をまったく飽きさせず、情感豊かに見せきる。重い題材を扱いながらも、人間味溢れるほのかなユーモア、バラエティに富んだアクション、思わず息をのむバイオレンス描写などを盛り込み、見どころの多い娯楽作に仕上げている。うらぶれた田舎の情景や、ソウルの貧民街の光景などを切り取ったロケーション撮影も素晴らしい。10ヶ月もの撮影期間を費やし、小学校のセット以外は全てオールロケで撮影されたという冬枯れの映像が、絶大な効果を上げている。キャメラマンを務めたのは『火女'82』(1982)も手がけたベテラン、チョン・イルソン。主人公の刑事が各地を巡り歩くロードムービー風の構成は『砂の器』(1974)のようでもあり、本作も『殺人の追憶』(2003)あたりに色濃く影響を与えているのではないかと思われる。

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 過去と現在が交錯し、様々な登場人物が絡むミステリアスな推理劇の中で浮き彫りになるのは、数十年間にわたって苛酷な運命に堪えてきた男女の悲劇だ。朝鮮戦争をモチーフにしながら、より偏在的な人間の悪意や欲望の罪を告発する内容へと発展していくところに、作り手の成熟を感じた。そして主人公が真相に近付けば近付くほど、ある家族が悲運の末にようやく掴んだ幸福を再び壊すことになるというアイロニーが、上質のドラマ性を生んでいる。

 また、堂々たるエピックとしての風格を湛えながら、同時に繊細さを感じさせる作劇が魅力的だ。特に、ハ・ミョンジュン演じるオ刑事のキャラクターが、本作の個性を象徴している。繊細なヒューマニストであるがゆえにアウトローとなり、事件の孕む悲劇性に自身も打ちのめされていくという、刑事ドラマとしてはあまり類を見ない人物造形が新鮮だ。彼の行くところ常に誰かが死や暴力に見舞われるというノワール・ヒーローでもある。ハ・ミョンジュンの好演もあって(たまにものすごくオーバーな芝居になるけど)、忘れ難いキャラクターとなった。映画のラストで彼がとる行動のインパクトも凄まじい。

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 そう、何よりすごいのが、観る者を残らず衝撃に叩き込むラストシーンである。2時間半も良質の娯楽映画として引っ張っておいて、オチがこれか! という意外性にもぶっ飛ばされるが、ある意味では圧倒的に説得力がある。この映画の主人公は、ハリウッド映画に出てくるようなクールで逞しい虚構のヒーローではないのだから。いくらでも丸く収められるところで「この物語はこうやって締めくくられなければならない」という強固な意志を貫く作り手の気迫に胸打たれる。この鋼のごとき負のパワーが韓国映画の力なのだ、と思い知らされる強烈なエンディングであり、本作がなぜ幻の傑作と評され、若き日のパク・チャヌクらの心に深く刻まれたのかハッキリと分かる、衝撃的結末である。

 ほかにもいい場面は本当にたくさんあるのだけど、個人的には、オ刑事が村はずれの屠殺場を訪ねるシーンに目を見張った。彼が土砂降りの田んぼ道を歩いてくる場面の雨と風の吹き付け方も素晴らしいが、バン! と戸を蹴破るように納屋の中に入った途端、ただならぬ異様なムードと緊張感が画面に張りつめるのだ。まさに映画の魔が宿ったような瞬間だった。そして終盤、ある登場人物のモノローグが本人の語りではなく、むせびなくような女性の歌声によって語られるという手法にも度肝を抜かれた。非常に民族的なメンタリティを感じさせる演出でもあり、実験映画のような斬新さもある。あと、たまーに描写が雑だったり変だったり、ツッコミどころもしっかり用意されていて(?)飽きない。

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 薄幸のヒロイン・ジヘを演じるチョン・ユニの美しさ、人間の良心を体現するファン・バウ役の名優チェ・ブラムの熱演も印象的。主人公の捜査に手を貸す友人の新聞記者シン・ウチュルも、コメディリリーフとしていい味を出している。そのほか、やたら顔の濃いカン・マノ役のヒョン・ギルス、親身な警察署長役のユン・イルジュ、コミカルな風貌がインパクト大のハン・ボンジュ(ドンジュの弟)役のパク・チョンソルなど、全ての配役がドンピシャ。飲み屋の女将や村の老人たちに至るまで、味のある顔が揃えられている。

 韓流ブームとはいっても過去の名作・傑作がほとんど観られない状況にあって、こういう映画史的に重要な作品が完全なかたちで(しかも日本語字幕つきで!)観られるのは本当に嬉しい。アン・ソンギの演技だけで引っ張っていたリメイク版『黒水仙』の薄っぺらさとは、あらゆる点で比較にならない秀作だった。逆に、検閲でズタズタにされながらも当時の観客にインパクトを与えた劇場公開版も観てみたいと思った。よっぽど思いきったことをしないと意外に切るところのない映画だと思うし、大体あのラストがそのまま残っているのかどうかも気になる。

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 DVDはリージョンオール。ただし、プレイヤーによっては本来シネマスコープの画面がヴィスタサイズで再生されてしまうので注意(パソコン等なら大丈夫)。本編は決して最良のプリント状態とは言えないまでも、画質自体はクリアーで発色もいいので問題なし。特典として、イ・ドゥヨン監督と映画評論家キム・ヨンジンによる音声解説、『キリマンジャロ』(2000)のオ・スンウク監督とジャーナリストのジュ・スンチュルによる音声解説、静止画ギャラリー、韓国語と英語で記載されたブックレットを収録。音声解説にも英語字幕がついているのが親切。この勢いで、同じくイ・ドゥヨン監督の代表作といわれるホラーミステリー『避幕』(1980)もソフト化してほしい。

・YesAsia.com
DVD『最後の証人』(韓国版・リージョンオール・日本語字幕つき)

・Amazon.co.jp
原作本『最後の証人〈上〉』『最後の証人〈下〉』 by キム・ソンジョン



製作/キム・ファシク
監督/イ・ドゥヨン
原作/キム・ソンジョン
脚本/ユン・サムユク
撮影/チョン・イルソン
美術監督/キム・ユジュン
音楽/キム・ヒガプ
編集/リー・キョンジャ
出演/ハ・ミョンジュン、チョン・ユニ、チェ・ブラム、ヒョン・ギルス、ハン・ヘスク、イ・デグン、シン・ウチュル、ユン・イルジュ、ハン・テイル、パク・チョンソル

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