Simply Dead

映画の感想文。

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『永遠のこどもたち』(2007)

『永遠のこどもたち』
原題:El Orphanato(2007)

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 傑作。「TRASH-UP!! Vol.2」のホラー座談会で、ゾンビ手帖の伊東さんが強く推薦していたスパニッシュホラー。この映画の製作総指揮を担当したギレルモ・デル・トロが、初号試写を観たあとで監督のJ・A・バヨナに「バッキャロ〜! オレをこんなに泣かせやがって!!」と言った気持ちがよく分かる。オレも泣いたもん。

 宣伝では「愛と感動のスピリチュアルムービー」みたいな売り方をされていて、本来の内容は極力伏せられているが、実際はショックシーンもグロ描写も盛り込んだ、れっきとしたホラー映画である。なおかつ母子愛というテーマでセンチメンタルに泣かせるヒューマンドラマでもあり、騙されて観に来てしまったお客さんも納得して帰れるという、なかなかアクロバティックな着地をしてみせる映画だ。その巧さは、同じスペイン出身のフアン・カルロス・フレスナディージョ監督が手がけた『28週後…』(2007)を思い出させる。いわゆる“情”に訴えかけるドラマとホラーを上手に組み合わせるのが、最近のスペイン出身監督たちの特色であり、長所なのだろうか。

 ギレルモ・デル・トロも、そういうジャンルの垣根をあえて意識しない映画作りを続けているが、メキシコの血なのか、スペイン勢とは少し毛色が違う気がする。ちょっと乾いているというか、メロドラマ性よりは状況設計に重きを置く感じがして、情念“的”ではあっても実際にエモーションはそれほど感じない。まあ、その話はまた別の機会に。

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 本作の原題“El Orphanato”とは、孤児院の意。ベレン・ルエダ扮する主人公ラウラは孤児院育ちで、大人になって家庭をもった今、空き家となった元施設の屋敷を買い取り、孤児院の運営を再開しようとする。ところが屋敷に引っ越して以来、空想癖のある息子シモンが目に見えない“子どもたち”と戯れ始め、ラウラ自身の周辺にも不思議なできごとが頻発。そんなある日、シモンが忽然と姿を消してしまう……。その時から、消えた我が子を探し求めるラウラの苦闘が幕を開けた。半狂乱になりながら手掛かりを探す彼女は、屋敷に巣くう目に見えぬ気配の正体を探るうち、隠された悲惨な過去へと迫っていく。

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 心霊ホラーと謎解きのミステリーを融合させた作品としては、名作『チェンジリング』(1980)にも味わいが似ており、ジェラルディン・チャップリン演じる霊媒師が登場する中盤は『ポルターガイスト』(1982)や『エクソシスト2』(1977)を思い出させる。今時珍しいくらい古典的な怪奇映画風の筋立てには、思わず頬が緩んでしまった。流行の激痛描写(爪が剥がれる系のシーンは、本当にイヤだからそろそろやめてほしい……)や、怪奇映画のお約束である「怖い顔」のもたらすプリミティブな恐怖、グロテスクな人体破壊なども盛り込みつつ、適度な品のよさを保った正攻法の演出スタイルで観客を巧みに引き込んでいくJ・A・バヨナの手腕が見事。

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 まず何より、シナリオがいい。最初から傑作の予感バリバリというわけではないけど、堅実な展開のなかに豊富なネタをいいリズムで散りばめていき、最後にはアッと驚くサプライズを仕掛けると共に、感動的な大団円へと見事に導いていく。これを巧いと言わずしてなんと言おうか、と思ってしまう洗練度。本作のオリジナル脚本を手がけたセルヒオ・G・サンチェスは、これがデビュー作なんだとか。恐ろしい。

 終盤に用意された謎解きの部分も心憎いまでに巧みだ。始まってすぐに「これは直球勝負のゴースト・ストーリーですよ」と正面きって宣言するような場面が続くので、観客は思い込みで様々な場面をイメージどおりにすんなり観てしまう。ところが……いや、これ以上は言えないが、ミスリードの仕掛け方は抜群に巧いと思った。トリックとしても見事だし、悲痛なエモーションを一気に高めるドラマ的なクライマックスにもなっている。

 そして、普通ならあまりハッピーエンドとは言えないラストも、処理の仕方が非常に巧いので、納得して受け入れることができる。その結末をファンタジーとして昇華するための組み立てが、さりげなくも丹念で、実に周到なのだ(つまり、現実的な絶望と苦悩の、配置と浸透が)。個人的には、どこか釈然としない後味の残った『パンズ・ラビリンス』(2006)のラストよりも、遥かにしっくりきた。

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 本国スペインでは大ヒットし、国内の映画賞を総なめにした上、アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表にまでなった本作。だが、企画が通るまでにかなりの紆余曲折があったらしい(結局、監督の知人であるギレルモ・デル・トロがプロデュースを買って出て、映画化が実現したとか)。その準備期間の長さが功を奏したのか、手間暇をかけてシナリオや演出プランを練り込んだ感が、画面を観ながらも伝わってくる。逆に、ネタとして用意していたのに使いきれなかったと思しき説明不足な点も、なくはない。が、確かにそこまで辻褄を合わせて話を盛り込んだら、容易に2時間越えの長尺になるのも分かるので、あまり文句は言えない。

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 母の強さ、美しさを全身で演じきる主演女優ベレン・ルエダの熱演、ディテール豊かな美術デザインの見事さも相まって、『永遠のこどもたち』はジャンル分けの意味を失わせるほど、見応えある秀作ホラーに仕上がっている。恐怖映画ファンにも、そうでない人にも、自信をもっておすすめ。ぜひ劇場で観てほしい。

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DVD『永遠のこどもたち』デラックス版

製作総指揮/ギレルモ・デル・トロ
監督/J・A・バヨナ
脚本/セルヒオ・G・サンチェス
撮影/オスカル・ファウラ
美術監督/ジョセプ・ロセル
音楽/フェルナンド・ベラスケス
編集/エレーナ・ルイス
出演/ベレン・ルエダ、ロジェール・プリンセプ、フェルナンド・カヨ、ジェラルディン・チャップリン、マベル・リベラ、モンセラート・カルーヤ

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